コラムスピン :第26回:Spotify「音楽アプリ」が連れてくる、デジタル時代の新たな音楽体験

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第26回:Spotify「音楽アプリ」が連れてくる、デジタル時代の新たな音楽体験

~レコメンデーションや共聴など、多様な音楽の楽しみ方が消費に繋がる~

ソニーの「Music Unlimited」も本日からスタート!月額課金制ストリーミングサービスの中で、欧米では圧倒的なシェアの"Spotify"は何が違う?

この記事の筆者

学生時代は米国オレゴン州で生活。高校でネットラジオ、大学でNapsterを体験、以来オンラインテクノロジー x 音楽コンテンツ x 人の在り方について関心を持つ。海外のデジタル音楽トレンドをテーマに、ソーシャルな音楽サービスや業界の最新動向、デジタルを活用したアーティストのクリエイティブなプロモーション活動事例をいち早く日本で紹介するブログを運営しています。ジャズのアナログレコードから、ネットでの音楽発掘まで、幅広くインディーズ系アーティストを応援しています。

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「CDが売れない」という話を色々なところで聞きます。実際にCDの売上減少は、日本だけではなく世界で起きています。では聴き放題サービスなど新しいサービスへ移行すれば状況が好転するのでしょうか。僕はそうは思いません。デジタル時代、ソーシャル時代に適したこれまでとは違う音楽の楽しみ方の訴求が大事だと考えます。そのために、これからの音楽業界は音楽とリスナーの出会いを広げ共感を得るための「新しい音楽体験」を提供する必要があると思います。 今回は海外の動きを紹介しながら、リスナー中心のデジタル時代の音楽体験モデルをご紹介したいと思います。

CD依存の構造が裏目に出て規模が縮小し続けている

日本は音楽パッケージが世界で最も売れている市場です。ですが、以前このコラム海保けんたろーさんが指摘したように、1998年をピークにその売上は減少しています。では海外はどうなのでしょうか。海外の産業はデジタルへの移行を既に始めています。 ニールセン/ビルボードの調査によれば、2011年にデジタルの売上が初めてフィジカル(CD, アナログなど)を超え、デジタルアルバム売上は過去最高を記録しました。また英国でも、2012年第一四半期はデジタルがフィジカルを売上で上回ったと業界団体の報告があり、デジタルが回復の要因の一つとなってきました。 CD不況となった日本市場は、今後デジタルへのシフトは避けられません。

http://www.businesswire.com/news/home/20120105005547/en/Nielsen-Company-Billboard%E2%80%99s-2011-Music-Industry-Report

では、現状のデジタル音楽サービスは十分に消費者を満足させていると言えるでしょうか?確かに購入だけを考えた場合、iTunes Store始めAmazon、Googleなど大手オンラインストアには、充実したコンテンツが揃い、またBandcampやCDBabyなどインディー系音楽家向けのサービスも増えています。しかし「オンラインストアでのコンテンツ購入」だけが、デジタル時代のリスナーが出来る音楽ライフスタイルでしょうか?

bandcamp(バンドキャンプ) ホームページ
http://bandcamp.com/
CDBaby ホームページ
http://www.cdbaby.com/

リスナーの選択肢がiTunesやAmazonを訪問することだけになってしまえば、CD時代の購入行動と何も変わらず、音楽に関心の無い人、購入に興味の無い人は無関心のまま取り残されてしまいます。聴き放題サービスを実施すれば、全てが解決するとも思えません。どのプラットフォームを使っても、音楽と接する感動や楽しさ、発見する面白さが訴求できなければ、音楽への関心も徐々に薄れ、ファンが減り購入する目的や意欲は低下する一方でしょう。

ここで僕が今最も危惧しているのは、日本の音楽業界がこれまで固辞してきたCDを売るビジネスモデルと考え方を、デジタルプラットフォームにそのまま持ち込み成功することを目指すあまり、一般的な音楽ファンが新しい音楽に関心を持ち、接触できる仕組み作りが不足するのではではという点です。転換期にある今こそ、中長期的な視野に立ち、リスナーに継続して音楽と出会いもっと音楽を好きになってもらう仕組みが今後は求められると思います。

デジタル時代のリスナーに音楽へ関心を持ってもらうためには何が必要か。僕はこれまでと違う、デジタル時代向きの『新しい音楽体験』をご提案したいと思います。

デジタル時代の新しい音楽体験とは何か。それは音楽を介したコミュニケーションであり、ソーシャルネットワーキングであり、コミュニティ参加であり、キュレーションであり、コンテンツとの出会いです。デジタル時代の音楽消費において出会いを生むために、嗜好の異なるリスナーに様々な音楽体験モデルを提示し、音楽コンテンツとの接触頻度を活性化します。そしてソーシャルメディアやモバイルデバイスと連動しながら、複数の楽しみ方をリスナーに提供することで、音楽に関与する行動が付加価値を産み、リスナーが継続的に音楽をつながるキッカケを生み出します。音楽を購入する以上の体験からロイヤリティを向上させコンテンツへの関与を促す、それが新しい音楽体験であり、次世代のデジタル音楽サービスのあるべき姿です。

Spotify音楽アプリケーションの可能性

音楽体験を提供する上で、僕は音楽アプリケーションが最も重要な役割を担うと予想します。その新しい波の先陣を切ったのが、聞き放題音楽ストリーミングサービス「Spotify」が展開する「Spotify音楽アプリケーション」です。

月額定額を支払うと1800万曲以上が聴き放題となるSpotifyは欧州や米国で多くのユーザーを獲得し、大きな注目を集めています。大手メジャーレコード会社を始めインディー系レーベルもコンテンツを提供しており、 毎日1万から2万曲が追加され規模はさらに拡大しています。ソーシャルでの取り組みとしてはFacebookと提携を発表しています。

2011年11月にSpotifyは、「Spotify Platform」と呼ばれるSpotify音楽アプリのダウンロードサービスを発表し、 プラットフォーム上で第三者が独自の音楽アプリを開発できるようにしました。現在は39個の音楽アプリが登録されており、全Spotifyユーザーがダウンロードすることが可能です。(6月28日現在)。

Spotifyアプリはデジタル音楽「Discovery」、「Social」、「Reviews」、「Game」、「Lyrics」、「Events」、「Chart」の7カテゴリーに分類されています。リスナーは、Spotifyで音楽を聴きながら、Spotify上で詳細な音楽情報を見たり歌詞を見ながら歌ったり、チャットしたり新しい楽曲を深く堀りさげたり出来ることが最大の魅力です。 ここでは幾つかの音楽アプリを紹介し、海外のSpotifyユーザーが、多様な楽しみ方から音楽と出会い、音楽視聴体験を共有しているのかを知っていただければと思います。

ShareMyPlaylistsアプリは、ジャンル別のプレイリストが共有できるアプリ。Spotifyユーザーが共有したプレイリストから、関心のある曲が見つけたり、スタイルの似た人をフォローし合うなど、音楽に対して能動的なアクションが生まれ、音楽との出会いの機会を拡張します。音楽の嗜好で構築されたマイクロソーシャルネットワークと言えるでしょう。

sharemayplaylist.com
http://sharemyplaylists.com/

「Social」のカテゴリーに分類される「Soundrop」という音楽アプリは、好きなアーティストやジャンルの曲をSpotifyユーザー同士が同時に聴きながらコミュニケーションができるアプリ。時間を人と共有する体験を介することで、人間的な共感が高まり、音楽と情緒的つながりを生むキッカケにつながります。5月にはアイスランドのロックバンドSigur Rosが新アルバム「Valtari」のリスニングイベントをSoundrop上で開催し、ファンにいち早く新曲を届けることに成功しています。Soundropは2012年5月だけで330万人以上がアクセスし、6000万曲以上がアプリ上で再生されました。

sharemayplaylist.com
http://www.soundrop.com//

ファーストフードのマクドナルドのアプリ「LISTENin」や、半導体メーカーのインテルのアプリ「Sifter」は、Facebookの友人が聴いた曲をベースに、音楽をおススメしてくれるアプリです。「仲間」と一緒に好きな音楽を聴く体験を通じて、音楽好き同士のコミュニケーション促進はもちろん、音楽への関心が低いリスナーに対しても、音楽と触れ合うキッカケを広げられます。

sharemayplaylist.com

またリスナーの気分に応じたプレイリストをレコメンドしてくれる「Moodagent」なんて面白いアプリもローンチされています。

sharemayplaylist.com
http://www.moodagent.com/

「Discovery」の分野は最も多くのアプリが開発されており、その中にはユニバーサルミュージックやワーナーミュージックなど大手レコード会社、Domino RecordsやMatador Recordsなどインディー系レーベル、オンラインサービスのLast.fmなども参加しており、コンテンツホルダーとして立場を利用しキュレーター的な役割からコンテンツをレコメンドしてくれます。加えて、Spotifyはアーティスト専門アプリを発表、マイケル・ジャクソン等の名プロデューサー、クインシー・ジョーンズを始め、様々なジャンルのアーティストが手がけた名曲をフィーチャーしたアプリを提供開始しました。

これらから分る通り、Spotify音楽アプリはリスナーと音楽が出会い関与するキッカケを提供します。Spotifyを始めとする音楽ストリーミングサービスにとっての大きな課題は、消費者とコンテンツとのマッチングをどう最適化するか。リスナーが探す手段を持たなければ、レコード会社やアーティストがいくら新作を発表しても、名作を作ったと主張しても、聴いてもらうことはありません。

Spotify開発者向けページ
https://developer.spotify.com/

音楽アプリの将来性

Spotify音楽アプリはまだ始まったばかりなので、今後の普及を検討するのは時期尚早との意見もあると思います。ですが、iPhoneに始まったモバイルアプリケーション、Facebookアプリケーションなどの例で言えば、アプリの登場がデバイス/サービスの規模拡大、ユーザー数の増加、アプリビジネスの推進を後押しし、デバイス、ウェブ、コンテンツを結ぶエコシステムを形成しながら市場の成長に寄与してきたことを実証しています。

想像してください。新しい音楽にたどり着くために、どれだけの時間と労力が必要なのか。面白そうな新作情報を見つけてもウェブサイトにリンクが貼ってなかったため聴くことができず忘れ去ってしまった経験はありませんか。よほどの音楽好きでなければ、音楽レビューを熟読したりYouTubeやSoundCloud、Twitterのリンクをたどり新曲を探したりはしないでしょう。

音楽アプリ最大のメリット、それは音楽とリスナーの接点を増やし、感動や情報価値、好感などの共感を音楽体験に提供してくれることだと思います。「このアプリを使えば好きな音楽のレビューが聴きながら読める」とか「好きなアーティストをみんなで一緒に聴くのは楽しい」とか、購入する行動以外の音楽体験から音楽と触れ合う機会が増えれば、音楽を聴く楽しみや面白さが上がり、多くのリスナーの関心は高まり、音楽への帰属意識が高まっていくでしょう。

そのリスナーの熱い思いやエネルギーを、ストアやライブ、ソーシャルメディアや更なる音楽体験で持続し引き上げる仕組みを作ることが、音楽の価値を高め、音楽が日常生活に戻りそして人生の一部になっていくと信じています。

そもそも全ての音楽体験はリスナーが存在し、視聴しなければ始まりません。音楽に届かなければ始まりません。音楽との接点を増やし、楽しみ方を広げるために、新しい音楽体験を作っていきましょう!

最後にご提案を一つ付け加えたいと思います。日本で海外では音楽アプリやサービスのプロトタイプを短時間で構築する開発イベント、音楽ハッカソンが数多く開催されています。そこにはSpotifyやRdioなど音楽サービス、ユニバーサルミュージックなどレコード会社、さらにナイキなど一般企業も参加しています。そこで、最新サービスの紹介や意見交換の場として音楽ハッカソンや勉強会を日本でも開催し、デジタル時代に向けた日本独自の新しい音楽文化を作りませんか?

■この筆者「Jay Kogami (ジェイ・コウガミ)」の関連リンク

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