コラムスピン :第31回:成長するアナログレコード市場の魅力とは

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第31回:成長するアナログレコード市場の魅力とは

購入者の大半がCD世代、欧米でアナログLPの売上が年々伸びているって知ってましたか?海外のアナログ市場についての興味深いレポートです。

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学生時代は米国オレゴン州で生活。高校でネットラジオ、大学でNapsterを体験、以来オンラインテクノロジー x 音楽コンテンツ x 人の在り方について関心を持つ。海外のデジタル音楽トレンドをテーマに、ソーシャルな音楽サービスや業界の最新動向、デジタルを活用したアーティストのクリエイティブなプロモーション活動事例をいち早く日本で紹介するブログを運営しています。ジャズのアナログレコードから、ネットでの音楽発掘まで、幅広くインディーズ系アーティストを応援しています。

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昨年アメリカでは、デジタル音楽の売上がCDなどフィジカル形式の売上を初めて超える50.3%に達し、デジタルアルバムとシングルダウンロード売上も成長を続けるなど、CDを中心としたビジネスモデルからデジタル中心への移行が勢いづいています。また、月額一定料金を支払えば好きな音楽が聴き放題できるSpotifyといった音楽ストリーミングサービス形式の音楽配信など、新しい配信モデルも台頭しておりデータ中心の音楽市場における存在を広げようとしています。そんな中、近年毎年売上を伸ばし成長を続けているフォーマットがあります。それがアナログレコードです。

アナログレコード売上

調査会社ニールセンのSoundScanによれば、米国でのアナログレコードのアルバム売上枚数は、2008年で188万枚、2009年は250万枚で前年比33%増を記録しました。さらに2010年は280万枚、2011年は380万枚と年々伸びを示しています。

出典:ニールセン

こちらは2011年に最も売れたアナログレコードのトップ10。アルバム2作品がランクインするボン・イヴェールザ・ブラック・キーズのファンには根強いアナログ好きがいるように見受けられます。

一方、英国でも、BPI (英国レコード産業協会)が発表している数値によれば、2009年は219,000枚、2010年は234,000枚、2011年のアナログ売上は前年比43.7%増の337,000枚と着実に増加傾向にあります。

音楽ファンが集まるイベント「レコード・ストア・デイ」

この2ヶ国におけるアナログレコード人気を象徴する存在の一つに、イベント「レコード・ストア・デイ」があります。毎年4月の第三土曜日に開催される レコード・ストア・デイは、地元のレコードショップとアーティストが協力し、音楽の楽しさをファンと共有することを目的に2007年に設立された一日限りの音楽イベントです。アーティストはこの日だけレコードショップで販売する新作や未発表曲、ライブ音源などレアな楽曲を数量限定でアナログレコードの形式からリリースします。また有名ショップになるとインストアライブやイベントが無料で開催され、音楽で集まったファンは好きなアーティストやゲストを間近で見ることができ、ちょっとしたお祭り気分を味わうことができる、音楽好きが様々な形からリアルに音楽と出会うことができる人気イベントです。アメリカで始まった同イベントは、その後英国やオーストラリア、日本など海外でも始まり、現在は約20ヶ国に広がっています。


開催5年目を迎えた2012年のレコード・ストア・デイでは、過去最高の400以上の作品がメジャーアーティストやインディーズ系バンドからリリースされました。当日発売された作品には、アークティックモンキーズアニマル・コレクティブラナ・デル・レイの新曲や、ザ・フレーミング・リップスの2枚組コラボレーション・アルバム「The Flaming Lips and Heady Fwends」など、若手音楽ファン受けするバンドの作品や、セックス・ピストルズデヴィッド・ボウイブルース・スプリングスティーンなどの再発盤に加え、グレイトフル・デッドの「ダーク・スター」未発表盤といった古くからの音楽、アナログファンにも嬉しい限定作品がリリースされました。
 過去には、メタリカビリー・ブラッグビースティー・ボーイズザ・フー・ファイターズなどメジャーレコード所属の大物アーティストもインストアイベントにゲストとして参加し、音楽好きやレコードショップとの交流を深め、ファンが普段体験できない交流の場を演出しています。
またPitchforkやNME、SPINなど音楽メディアが開催日前から注目レコードを紹介するなど、広い音楽ファンをターゲットにしたオンラインメディアも音楽を広める活動に加わり情報提供を行っています。さらに2009年にニューヨーク市はレコード・ストア・デイを市の公式イベントとして認め、また人気のオーディション番組「アメリカン・アイドル」も番組内で取り上げるなど、コアな音楽ファンよりもさらに広い層への認知も拡大させようとの動きも見せています。

希少価値の高い限定盤

レコード・ストア・デイに参加する音楽ファンの楽しみの一つには、この日以外では手に入れることが困難な音楽を入手できる喜びではないでしょうか。イベント当日に販売されるアナログは数千枚から数百枚とアーティストによってプレス数が変わります。さらに、レコードショップに配布される数も異なるため、場合によっては一桁の枚数しか届かないショップもあるそうです。またアーティストによっては、特別のカラー盤、ピクチャーレコード盤、高音質な180グラム重量盤、シリアルナンバー付きなど、独自の形式で作品を発表し、クリエイティブな商品に更なるプレミア感を提供しています。

このような限定アナログレコードを買い求めるのは、なにもアナログで音楽を聴いてきた世代だけではありません。レコード・ストア・デイが行った調査によれば、アナログレコードの購入者70%が34歳以下という結果が出たそうです。もしかすると彼らにとってアナログレコードは、iTunesのダウンロードやライブチケット以外で初めて手にするリアルな音楽商品なのかもしれません。アナログレコード、アルバムカバー、詳細なライナーノーツに興味を持ち始めた若い世代の音楽ファンにとって、アナログレコードとレコード・ストア・デイが生み出すユニークな音楽体験、ファン同士の交流、希少価値の高い製品は、デジタルでは出来ないパッケージ音楽の楽しみ方を体験したいという興味関心を示唆していると思えます。

音楽をファンに届けるために

では、このようなアナログレコード復活が日本の音楽業界でも起こるでしょうか。僕は日本の音楽ファンが音楽と出会える機会を増やしてくれるメディアとしてアナログレコードに共感できるようになれば、歓迎されると思いますし、そうなって欲しいとも願っています。そのためには、音楽ファンが共感できる商品価値と、ユニークな音楽購入体験を作り出せるかどうかが、将来のカギになるのではと思います。勿論デジタル音楽が主流であり、データ中心の流通であることに変わりはありません。そんな中だからこそ、リアルの場を提供し音楽ファンを巻き込みながら成長を続けるレコード・ストア・デイなどからは今後へのヒントが得られる気がします。

例えば前途のザ・フレーミング・リップスの新アルバムは、ボン・イヴェールエリカ・バドゥコールドプレイクリス・マーティンなど様々なアーティストとのコラボレーションで発売前からメディアやオンラインで大きな注目を集めた異色の作品だったにもかかわらず、バンドはレコード・ストア・デイにアナログでわずか10,000枚だけの限定発売を行いました。アルバムは、一枚一枚異なるカバー付きで、さらにCDとデジタルより2ヶ月も早くリリースしました。おそらくアナログを入手したファンは限定の新譜を入手できたことに喜び、そしてCD/デジタル発売まで特別な思いでコンテンツを消費し友人とコミュニケーションしながらバンドへの熱意とつながりをより強く感じたことでしょう。ザ・フレーミング・リップスはアナログを優先的に発表することで、コアなファンの共感を引き起こし音楽への関与を高めることに成功したのではないか。

また昨今ではアナログレコードを購入すると、音源をデジタルダウンロードできるコード付きカードが同封されていることが増えています。家ではレコード(または所有)、外出先ではデジタルをiPhone / iPodで、という風に音楽ファンが音楽を聴き易い環境をより日常的なモノにできることもアナログ(物理的メディア)のメリットだと思います。ターゲットによっては、ダウンロードできる音楽がライブ音源やデモ音源に変わる取り組みも、付加価値を高める施策として今後は検討できるかもしれません。またレディオヘッドがアルバムThe King Of The LimbsのPRで配布していたフリーペーパー「The Universal Sigh」といった非音楽コンテンツを含むパッケージ商品も、コレクターズアイテムとしてパッケージの所有欲を刺激することでバンドやアルバムの価値を高める要因になっているのではないでしょうか。

最後に、英国で公式の音楽チャートを集計するThe Official Charts Company (OCC)が、独立系レコードショップの売上を集計する「オフィシャル・レコード・ストア・チャート」を今年から開始しました。OCCによれば、英国の音楽市場全体の物理的メディア売上ではわずか4.4%しかない独立系ショップですが、アナログレコード売上になると市場全体の95.8%を占めるとのこと。つまりこのチャートが英国のアナログレコード売上を反映するといっても過言ではないでしょう。このような取り組みを始めることで、アナログレコードの商品価値を維持し音楽ファンに向けて継続的に情報発進していく仕組みが海外では現在行われています。

CDもデジタルも定額制配信も体験した音楽ファンが、アナログレコードを通じて音楽の楽しみ方を知ることで、新しい音楽との出会いが生まれ、アナログとデジタルを補完し合いながら日本人に合った音楽価値を追求できる環境になればいいと思います。

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