コラムスピン :第34回:店頭のCDを見せずに聴かせたら売上が4倍に伸びた!

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第34回:店頭のCDを見せずに聴かせたら売上が4倍に伸びた!

~CDの売上が急上昇した小売店の実例~

CDショップで「アーティスト名を隠してブラインド販売したら売上が4倍に伸びた」というお話を聞き、早速店長さんにその方法を書いていただきました!

この記事の筆者

1982年7月17日生まれ。大阪出身。音楽専門学校卒業後、レンタルショップの店員など様々な仕事を経験したのち、2011年に残響shopの店長に就任。ライブハウスでイベントを企画したり、音楽ライターとして雑誌のディスクレビューや海外アーティストのライナーノーツの執筆なども精力的に取り組んでいる。イベントでは、出演者のネームバリューで集客を狙う方法とは一線を画し、出演者全員シークレットライブを成功させる『残響shopの◯◯』という企画など、音楽業界に新たな価値観を呈示し、常識と言われるモノへの挑戦を続けている。

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「CDって売れるんですね、まだ」

ヒトゴトのように切り出しましたが、私は渋谷の残響shopという小さなCDショップで店長をしております。丁度お店はオープンから1年を無事に迎えることが出来ました。残響shopとは、音楽制作会社である残響recordを母体として運営しているフラッグシップショップです。主に、CDやLPなどの音楽ソフト、アーティスト・グッズ、雑貨の他、ギターなどの楽器に加えエフェクターなどの音楽機材も販売しています。CDは残響record所属のアーティストは勿論、インディー/メジャー問わず、ジャンルもマニアックなものまで取り揃えております。渋谷の神南という、喧噪地帯(?)から少し離れた立地にお店を構えさせてもらっています。都内最大級のタワーレコードさんが直ぐ近くにありまして、かなり急な坂を上らなければ辿り着けないのですが、ある意味、渋谷の隠れ家的存在になりつつある、というか、なれればと日夜営んでおります。
残響shop

手前味噌な話ですが“CDの売上が急上昇した小売店の実例”というのはこの残響shopのお話です。昨月と比べて売上が凡そ4倍の数字を出してしまったのです。その原因はどこにあるのか。勿論この施策以外の要因も沢山あります。丁度今月は夏休み期間中ですし。夏のバカンスを利用してCDを求めにお客さんが沢山…って、あれ?何か違和感を感じませんか?そうです。そもそもCDを買うお客さんが減ってきているというのに、休みだからという理由でワザワザお店に足を運んで、尚かつ“CD”を購入しに来るだなんて。

自分の耳だけで判断させるブラインド販売

ただ、そのお店の限定販売のCDをリリースしたからと言って「CDが今でも売れます!」では余りに短絡過ぎる話ですよね。実は冒頭の売上が凡そ4倍になった話、この限定CDの売上を除いてのお話なのです。今、残響shopが行っている“大きくも小さな施策”があります。それはアーティスト名及びタイトルを隠した状態で販売するということです。所謂ブラインド=目隠しという状態。実際に目隠しをする訳ではないのですが(笑)、試聴用にサンプルCD-Rを作り、値段と適当なコメントだけ並べて番号管理しています。スタッフ含めて僕たちは、お客様が聴いている音楽についての情報は一切明かしません。「これ、誰ですか?」という質問に一切答えないのです。超不親切ですよね!

そして何より面倒くさいのです。だって一々音楽を聴かなきゃならないんですよ。時間がないと出来ませんよね。勿論「◯◯探しているんですけど」とお問い合わせ頂ければ僕たちはそのアイテムを用意します。目的買いする方にとっては特に問題なくお声掛け戴ければ大丈夫なのですが、その他知らない音楽に触れる時に、満足な情報が無いままで音楽を聴かないといけないだなんて…。


(ディスク読み取り面のみをカバーするケースがずらりと並ぶ、試聴用サンプルCD-Rの棚)

ただし、この施策をやって事実として数字は伸びました。そして今まで中々売れることの無かったマニアックな音源までもがどんどん動き始めたのです。何か矛盾しているような…?

この施策の狙いは、色んな音楽に触れてもらいたいという想いからです。ジャケット・アートワーク、アーティスト名、ルックスなど、外側の情報によって先入観が生まれます。大概「僕たちこういう音楽です!」と主張するわけですよね。音楽を聴いてもらう為に。ただ、それが時として音楽に辿り着かない場合もあるのではないのだろうか、と思ったのがきっかけだったのです。先入観をいかにして取り除いた状態で、音楽と出会ってもらうか。

「私、日本語ロックしか興味ありません!」と、言い切ってしまう人は先ず洋楽のCDを見ても、まず聴こうとはなりません。試してもらうきっかけすらそこで失ってしまう訳です。自分自身の趣味趣向もある意味他人に任せてきた世代にとっては、情報誌やTVなどのメディアに“言われるがまま”「私は日本語ロックしか興味が持てません」と、その他を放棄してしまうのです。これを、僕はおせっかいながらにもったいないと感じているのです。別段、興味が無ければ興味が無いままでももちろん構いませんし、その人の決断であれば尊重する他ありません。

ただし、本当にその人の決断なのか。そこに疑問を持ったのがことの始まりだったのです。たいがい私たちは、ある程度の情報をたくさん取り入れ、精査して、購入するなどの決断を下すのですが、この決断ですら他人に委ねてしまうことが多々あります。「お買い得!」の文字に、買って得するものなのだと、得であるという思いも、買う前から操作されるわけです。しかし、音楽を選ぶことにおいて、一番優先される判断基準を音楽にしてみないか?という、あまりにも原点回帰な方法で挑んでみたのです。

ブラインド施策に踏み切るそれまでは、お客様からの質問に事細かに応え、アーティストやタイトル、出身地やランキング(売れ行き)などの情報という情報をお客様に伝えたりしてオススメなどしていたのですが、結局セールスに結びつくどころか、お店を出ればすぐに忘れられてしまうこともよくありました。勿論、音楽を愛するコアなお客様は楽しんでもらえてはいたのですが、結局それだけでは店を維持していくだけの売上などは立てられる筈もありません。その上、音楽との出会いも「これ、おすすめだよ!」だけの、自分自身の中途半端なエゴイズムによるものだけだと限界はすぐに見えてしまいます。

なので、お客様には「◯◯番の¥◯◯の方を下さい」のようにお求め戴き、レジ・カウンターにてお店の裏からこっそりお客様が選んだCDを持ってきて、「お客様が選んだのはこの◯◯というアーティストの◯◯というタイトルのCDです」とアナウンスして出会ってもらうのです。購入を決めた後に、たくさんスタッフが知っている限りの情報を提供する。特典と言われるものも、購入前にはお店の中では知らせずに、購入後にそっと忍ばせます(笑)。「実はクリア・ファイルついてました」など。知りたい!という欲求を刺激してあげると同時に、限りなく自分の耳以外に頼るものが無い状況にすることで、お客様にしかない判断でもって買う買わないを選択して欲しい。それは金額が¥500だろうが¥10,000だろうが大きな問題ではなく、自分自身のセンス=感性に投資してもらう体験をしてほしいだけなのです。売れていようが売れていまいが「これ、自分は好きなんだよね」と対価を支払っていただくことの体験です。ですので、最早そこにCDという媒体にこだわりを持っているというわけではなく、結果的に今現在CDを中心に取り揃えているからCDが売れただけであって、モノとしてCDを中心に売り続けることが目的ではなく、ただお客様に音楽と出会ってもらいたい想いが先行しただけなのです。

【8月の売れ筋ランキング】
1位 People In The Box 『Lost Tapes』
2位 fifi『orange e.p.』
3位 テスラは泣かない。『High noble march』
4位 mudy on the 昨晩『Zyacalanda』
5位 たなかけん『赤のブレンド』

【8月ブラインド販売のランキング】
1位 mudy on the 昨晩『Zyacalanda』
2位 たなかけん『赤のブレンド』
3位 ゆれる『mutilations』
4位 palitextdestroy『IトS』
5位 優しくして♪『ねむりあるき』

8月の売上ランキングですが、1~3位は今月リリース作品として、4位のインスト・バンド、mudy on the 昨晩『Zyacalanda』は6月にリリースして2ヶ月経った今、実はリリースした6月よりも枚数が出ています。先月と比べると4倍の枚数が出ているのです。5位のたなかけん『赤のブレンド』に至ってはリリースしたのは何と去年の4月なのです。新譜で埋め尽くされるランキングから一転して、他の店では中々考えられないこの時期のランキングと言えます。しかも2位以下は、そのアイテムを目的買いではなく、その場で出会ってもらった数字が多分に含まれているのです。

施策で売れたものだけでランキングしてみると、1位のmudy on the 昨晩も含め、今月リリースのものが一つも入らないという結果が顕著に出ています。しかも2位以下は全て昨年以前のリリースなのですから驚きですね。別にリバイバルブームにあやかった結果でもない訳でもないのは一目瞭然です。失礼ながらと前置きしますが、何せ「一体誰なんだ?」というアーティストばかりなのですから。


mudy on the 昨晩『Zyacalanda』
ZNR-122  ¥2,000(tax in)

「(雑誌などで見て)名前は知っていたけど…」「ルックスがちょっと合わなくて…」「友達が薦めてくれたけど聴く気になれなくて…」

購入したお客様の中では、こういったお声を頂戴しています。「でも実際聴いてみたら好きだった!」という、感動を伝えてくれるのです。その出会いに、僕らは感謝と同時に尊敬=リスペクトを送りたいのです。だって、その人にしか出会えない音楽は、その人の中でしか生まれないものだと思っていますから。

何でも出来ないリアルな場所

何でも出来ない、だからこそ楽しい。これは実際の場所に店舗を構える上で重要なことだと確信しています。その上で誠意を持ってお客様に接していきたいのです。その逆がこのウェブの世界、ネットの世界だと思っています。何だって言えるし、何だって出来るし、何だって知れる。ヘタしたら何にだって“なれる”可能性もありますよね。勿論、この先も踏まえての話です。

埼玉の大宮にあるmore recordsさんなど、音楽に出会えるコミュニティ・ストアも今、徐々に増えつつあります。こういった各店舗の魅力がどんどん伝わるようにシーンが盛り上がればと願っています。

きっと“うたい文句”ではなく、“うた”そのもので判断される世の中になれば、きっと楽しい音楽に触れる機会がもっと沢山増える筈だと信じています。もっと自分の感性を人生で存分に試してみませんか?という能動的に音楽を探し求めるスタイルの楽しさをメッセージとして発信出来れば、そんな想いが先行した結果の一例でした。

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