読むナビDJ :第42回:静かなる音楽~クワイエット・ミュージックを知る名作10選

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第42回:静かなる音楽~クワイエット・ミュージックを知る名作10選

ワールドミュージック、ジャズ、クラシックの壁を取っ払って、夜ひとり静かに聴く未知なる10曲のセレクション。

この記事の筆者

音楽&旅ライター。レコード会社勤務の傍らDJ、執筆、「喫茶ロック」企画などで活動。退社後、2年間に渡って中南米を放浪し祭りと音楽を堪能。帰国後は「ラティーナ」誌でのアルゼンチン音楽連載をはじめ、ラテン、ワールドミュージック、和モノから、旅行記や世界遺産にいたるまで幅広いジャンルで、雑誌、ウェブ、ライナーノーツの執筆、ラジオや機内放送の選曲構成、トークイベント、ライヴハウスのブッキング企画など多岐に渡って活動中。All About「アルゼンチン」ガイド。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』、『喫茶ロック』他。

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ここ数年、“静かなる音楽”が、文字通り静かなブームとなっているのをご存知でしょうか。

“クワイエット”なんていうキーワードでも語られることも多いこれらの音楽は、いわゆるジャンルではないし、ムーヴメントというほど声高なものでもありません。なんとなく音楽シーンの流れや時代が持つ雰囲気からあぶり出された曖昧なものだから、実際には一括りにするのは難しいのです。

室内楽的な響きを持ちながらクラシックとは一線を画したポスト・クラシカル、北欧や南米に潜んでいた知る人ぞ知るジャズやフォークなどのアコースティック・ミュージック、アンビエントから進化した“踊れない”エレクトロニカと、ジャンルもスタイルも国籍も様々。でも、これらに共通するのは、静謐で穏やかな音世界であり、これまでのニューエイジやヒーリングとも違った新感覚の音楽でなのです。震災、原発事故、いじめ、領土問題といったネガティヴなムード漂う日本においては、ますます“静かなる音楽”の重要性が高まるのではないでしょうか。

Chilly Gonzales

「White Keys」

ファイストのプロデュースで世界的に脚光を浴びたマルチ・ミュージシャン兼プロデューサーのチリー・ゴンザレス。カナダ生まれ、フランス育ちの彼が2004年に発表した『Solo Piano』こそ、“静かなる音楽”の発端かもしれません。最新作であるこの続編もアップライト・ピアノで録音されたシンプルな音楽ですが、ヒップ・ホップやエレクトロニカを通過したからこその説得力に満ちていて、非常にパーソナルで優しい世界を作り出しています。




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Henning Schmiedt

「Nach Hause」

ゴンザレスと並び、素晴らしいピアノ・ソロを生み出し続けているのが、ドイツの田舎町を拠点に活動するヘニング・シュミート。クラシックや現代音楽の分野でも活躍していますが、彼のソロ作品はとても個人的なものばかり。妊娠した奥さんをリラックスさせるために作った『Klavierraum』や、近所の散歩道をイメージしたという『Spazieren』を聴いていると、本来音楽は生活に根付いたものであるべきなんだなあと思ってしまいます。




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Antony And The Johnsons「Cut The World」

こういった世の流れが影響したのかはわからないですが、ポップ・フィールドでも“静かなる歌”を歌うシンガーたちがクローズアップされています。その代表格が、“21世紀のヴェルヴェット・アンダーグラウンド”とでもいうべきアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズアントニー・ヘガティではないしょうか。オーケストラと共演した新作ライヴ盤『Cut The World』も、シアトリカルでありながらも病んだ心に寄り添うような優しく美しい歌が詰まっています。




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Egberto Gismonti - Jan Garbarek - Charlie Haden

「Magico part 1」

“静かなる音楽”を40年以上も前から実践していたのが、ドイツに拠点を置くジャズ・レーベルのECM。“沈黙の次に美しい音”と評されるだけあって、看板のキース・ジャレットを筆頭に、現代音楽からワールド・ミュージックまで、凛とした雰囲気の作品ばかりをラインナップし続けています。レーベルの中核をなすミュージシャンといえば、エグベルト・ジズモンチヤン・ガルバレクチャーリー・ヘイデンの3人。彼らが79年に集まって作った『Magico』は名盤の誉れ高いのですが、そのメンツでの未発表ライヴ録音がこの度発掘され、今年新たに『Magico: Carta De Amor』として登場しました。こうした動きも、偶然にしては出来過ぎのような気がしてしまいます。




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Renato Motha & Patricia Lobato

「Ong Namo」

ジスモンチに代表されるように、ブラジルは意外にも“静かなる音楽”の宝庫です。なかでも、ミナス地方特有の浮遊感溢れる歌声を聞かせてくれるのが、ヘナートとパトリシアの夫婦デュオ。インドのマントラにオリジナルのメロディとハーモニーをつけて歌うというコンセプトは、その崇高な美しさに人種や宗教の壁を超えて人々の胸を打ちます。今年の5月に“静かなる音楽”をテーマにした<sense of "Quiet">という音楽フェスが行われたのですが、出演者全員で彼らの楽曲をセッションした光景は忘れられません。




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Carlos Aguirre

「Hombre Que Mira Al Mar」

そもそも“静かなる音楽”に注目集まり始めたのは、アルゼンチンの本国ですら入手困難な辺境シンガー・ソングライター、カルロス・アギーレのブレイクからでしょう。雄大な自然を切り取ったかのような純粋な音楽は、地球を半周した我が国で大々的に店頭展開され、来日公演を実現するまでにいたりました。この一連の動きには様々な愛に満ち溢れたストーリーがあるのですが、そのあたりはぜひ自力で検索して探してみてください。いずれにせよ、アルゼンチンの知られざるコンテンポラリー・フォルクローレの世界が、日本の音楽ファンやミュージシャンに及ぼした影響は、けっして小さくはないと思っています。




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Fennesz + Sakamoto

「0320」

アコースティックな音楽だけでななく、プログラミングされたエレクトロニカなども、同じように聴かれているとことが、“静かなる音楽”のいちばんの特徴といえるかもしれません。オーストリアの前衛ギタリストであるクリスチャン・フェネスと、われらの坂本龍一が共演した2枚のアルバムも、やはりクワイエットな音像に仕上がっています。美しいピアノと同じレベルで美しいノイズにまみれる快感は、何物にも変えがたいもの。真っ白な病室で聴いているような感覚に陥ってしまうのは、やはりこの時代が病んでいるからなのでしょうか。




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Glenn Gould

「Scriabin Desir: Part 1」

ポスト・クラシカルに興味を持ったリスナーは、いわゆるクラシック作品にも少しずつ目を向けています。それまでのクラシック・ファンとは違う視点で室内楽や現代音楽を聴くのは、とても新鮮な体験。その無数にある演奏家のなかでも、ライヴをかたくなに拒否しレコーディング及び編集作業を重んじたという変人カリスマ・ピアニスト、グレン・グールドは、昔からクラシック・ファン以外にも人気でしたが、生誕80年・没後30年ということもあって再び脚光を浴びているようです。彼の代表作といえば一連のバッハの録音なのでしょうが、ロシアの作曲家スクリャービンというマニアックな対象をポップな感覚で聴かせてしまうのも、また魅力のひとつといえます。




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中島ノブユキ

「忘れかけた面影」

こういった“静かなる音楽”の動きは、日本のミュージシャンとも自然な形でリンクしていきます。例えば、アンドレ・メマーリなどブラジルのミュージシャンとセッションした伊藤ゴローや、ラルフ・タウナーなどECMからの影響を受けたと思しきオレンジペコー藤本一馬などが素晴らしいアルバムを作っていますが、ジェーン・バーキンのツアーにも同行しているピアニストの中島ノブユキこそ、ジャパニーズ・クワイエットの代表といってもいいでしょう。室内楽風のエテパルマ・アンサンブルも見事ですが、この自作曲を含むピアノ・ソロはゴンザレスとも並べておきたい傑作。クラシックもボサノヴァも、彼の手にかかれば新しい命が吹き込まれ、心の中にある美しい風景を見せてくれるのです。




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青葉市子

「ひかりのふるさと」

ピアニストやギタリストといったミュージシャンだけでなく、シンガーに関しても“静かなる音楽”を感じさせる人が増えています。クラシック・ギターの弾き語りという独特の歌を聞かせる青葉市子は、そのなかでももっとも個性的なひとり。先述の静かなる音楽フェス<sense of "Quiet">にも日本代表として出演し、共演したヘナート&パトリシアの夫婦やカルロス・アギーレキケ・シネシからも絶賛を浴びたそうです。清らかでありながらも幽玄的な歌はとても“和”を感じさせ、それが日本らなではのクワイエットな世界を見事に表現しています。




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