コラムスピン :第38回:音楽を日常の国にするために必要なこと

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第38回:音楽を日常の国にするために必要なこと

ネット上でライブ体験の共有はできるか?ソーシャルメディアマーケティングという視点からの「音楽の未来」について論じたコラムです。

この記事の筆者

1983年東京都生まれ。ソーシャルメディアマーケティング支援会社トライバルメディアハウスにてコミュニケーションプランナー/プランニングリーダーとして所属。音楽業界に関わらず様々なクライアントに対してソーシャルメディアマーケティング、デジタルマーケティングのプロモーションを支援している。音楽・エンタメ業界では企業やアーティストのソーシャルメディアを活用したコミュニケーションプランニング、コンサルタント、講演、執筆などをおこなっている。ソーシャルメディアと音楽ビジネスをテーマにした内容で、2012年9月初の単著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』を刊行。

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2012年9月15日、日本で興味深い音楽動画メディアが誕生しました。


それは“ソーシャル×音楽”のプロジェクト「JAMBORiii(ジャンボリー)」の一環で、このプロジェクトでは、“みんなでつながる、みんなで楽しむ、みんなで仕掛ける”をコンセプトに、WEBサイトやアプリ開発、動画配信などを通じて、ネット&ソーシャルメディアでの音楽との新しい出会い、新しい音楽ライフスタイルを提案していくようです。

プロジェクトの第一弾は、「ソーシャル×リアルタイム×音楽」がキーワードとなるWEB動画チャンネル「JAMBORiii STATION」となります。「WEB上に音楽フェスのような場所を作りたい」という想いから生まれたプロジェクトです。

今回は筆者のメインフィールドであるソーシャルメディアの視点からJAMBORiii STATIONを考察するとともに、音楽ビジネスのこれからについて記していければいいなと思います。


USTREAMやニコニコ動画はその場に起きている熱量をその場に参加していない人々同士も同持接続を可能にし、熱量がソーシャルメディアを通して伝搬することができます。

今までその場に参加した人しか味わうことができなかったものがテクノロジーの進化によって一緒に見る、体験する、参加することができるようになりました。しかし、それでは今までと何も変わりません。

JAMBORiii STATIONが今までの音楽動画メディアと何が違うのでしょうか? それは大きくわけると3つあります。

1.「デジタル上での感情の共有表現が圧倒的に広がった」

USTREAMやニコニコ動画はテキストベースの感情表現の[共有]が主でした。 テキストだから伝わることがあります。しかし、それではある種感情の表現が限定された状態でしかありません。

ライブに行けば、大声で歌う、友達と会話する、まわりのオーディエンスと一緒に手を振る、いま、目の前で体験している出来事を様々な方法で感情を表現することができます。

JAMBORiii STATIONでは、テキストはもちろんのこと、エモーティコンという機能で「感情」=「エモーション」をアイコンで表したものがあり、ライブ会場で手を振ったり、拍手をするように、沸き起こった感情をそのままボタンひとつで表現することができます。また、実際にはできないWEBならではのエモーティコンも存在します。


これによって、WEB上でもリアルに近い感情の[共有]表現が可能になりました。
しかし、もちろんリアルのライブや体験をコピーすることは出来ません。

けれど、リアルとWEBがこのJAMBORiii STATIONによっていよいよ近づいてきたといえます。
リアルとWEBの境界線がなくなることによって、一層リアルの価値は高まると同時にリアルを生で伝え、つながり合うことができるこのWEB上も存在価値を高めることができると考えます。

2.「熱量を落とさずに引く導線」

JAMBORiii STATIONでは画面上にレコメンドという形で商品やサイトへのリンクを表示させることができます。


例えば、ライブ中にこのJAMBORiii STATIONを使って参加しているユーザの中には、そのライブをしているコアファンもいれば、興味本位のライトファンや顕在層も多いでしょう。

リアルこそがファン階層のレイヤーを飛び越えることができます。

ユーザの熱量が高まったときに、すかさず商品リンクやレコメンド情報を画面に表示させることにより、ユーザは通常時よりも圧倒的に購入や興味の敷居が下がった状態で効果的に嫌らしくなくすっと伝えることができます。

それは熱量が高い状態を維持したユーザに効果的であり、なおかつソーシャルメディアでも自然に受け入れられる土壌を整えていると考えることができます。

3.「時間軸とタイミングを効果的に活用できる」

得てして、このような動画メディアは生中継であるが故に、中だるみしてしまったり、飽きてしまうことも多いです。ユーザはそこまで暇ではありません。つまみ食いは日常茶飯事です。
その中で、JAMBORiii STATIONはユーザがつぶやくソーシャルストリームとは別に主催者のコメントを別のエリアで表示することができます。

「回線が混んでいます」、「一緒に拍手をしよう」、リアルで起きていることと非常に近い形でWEB上のユーザにも働きかけることができます。以前書いたブログ「音楽の体験共有を増幅させるために前提となる2つのこと」でも述べましたが、「然るべきタイミング」をどれだけ作れるかがポイントです。

「然るべきタイミング」を理解した上で、実施するとリアルでの[共鳴]を増幅させることができます。同時に[共鳴]を[共有]へ回すというサイクルが加速します。

ただし、このような動画メディアを活用する場合、気をつけねばならない点があります。リアルのフェスは様々なステージやアーティストをつまみ食いすることは可能ですが、フェスという空間内にはユーザは属しています。そのため、「場」からいなくなることはありません。一方、JAMBORiii STATIONのような場合はWEB上なため、リアルの空間内に属していません。よって、離脱率が圧倒的にフェスと違うという側面を忘れてならない部分です。リアルより空間に縛られないのですから、よりきめ細やかなコンテンツと飽きないシナリオが大切です。

しかし、ソーシャルメディアを用いることで、潜在層、顕在層、ライトファンへのアプローチを可能にするため、リアルの空間内に属していないことを理解し、WEB上だからこそできることを有効に活用すれば、WEB上に素晴らしい音楽フェスのような場を作り出せるでしょう。

USTREAMやニコニコ動画を始めとしたリアルタイム動画メディアは群雄割拠の様相を呈しています。USTREAMやニコニコ動画の中にも無数の番組が存在しています。しかし、多くのユーザは毎日その番組を見ているわけではありません。(コアファンは別です)ソーシャルグラフやインタレストグラフから、たまたま知ることだってあるでしょう。

重要なことは、ユーザに何をお土産に帰ってもらいたいのかです。
好きなアーティストを放映するだけではそれはお土産にはなりません。「あ、次も見たいな」「ほかにどんな番組をやるのだろう?」とユーザがそのサービス自体に興味を持ってもらわなければなりません。言うならば、どのようにして提供しているサービスを「自分ゴト化」してもらえるかです。

そのサービスとは、JAMBORiii STATIONもそうですが、Spotifyはもちろん、USTREAMやニコ動、YoutubeなどのIT×音楽サービス群(動画メディア以外も)は意識しなければならないと思います。

アーティストや出演するゲストに100%ひっぱられるようでは厳しいでしょう。目指すべきはそのサービスを愛してくれるユーザをどれだけ増やせるかでしょう。その愛してくれる、「自分ゴト化」してくれるひとつが友人と一緒につながりながら見る体験かもしれないし、エモーティコンという新しい感情の共有表現ツールかもしれません。

重要なことは、機能的な側面でのソーシャルメディアのフィードから感情的な側面でのソーシャルメディアへのフィードが生まれてくるかが大切です。そのためには、ユーザの一日のタイムラインの中にそれらのサービスを組み込ませなければなりません。それができて本当の意味でのコアファンが生まれます。

そういった中でJAMBORiii STATION の最初の大きなフックとしてSuperflyの新作アルバムのフリーライブを生中継したことは興味深いです。しかし、ニコニコ生放送なども行うので、ほかのプラットフォームとの差別化、そして一歩間違うとSuperflyに引っ張られてしまうので、いかにJAMBORiii STATIONの魅力を多くのユーザに体験してもらうかが大事なポイントだと思います。

◆音楽を日常の国にするために

JAMBORiii STATIONはじめ、様々な音楽に関わるサービスやソリューションが生まれてきています。それは動画メディアにかぎらず、アプリやPCサービスなど多岐にわたります。

大切なことは、ソーシャルメディアで音楽を日常の国にすること。音楽をBGMではなくて、意識的に聴き、体験し、音楽の関与度を増やすこと。これができなければ変わらず音楽ビジネスは縮小していくだけだと思います。聴いてくれる、訪れてくれる人たちがあっての音楽です。それを無視して音楽が日常の国になることはありません。主語は音楽業界ではなく、リスナーです。

音楽をBGMではなく、意識的に聴く、体感する、伝え合う。そういったことがもっともっと多くの人の日常に根付かなければ音楽はただ消費されていくだけだと思っています。

音楽と触れ合う機会を増やし、音楽を聴く楽しみや面白さが、様々な場面やカルチャーの中に一層溶け込むことで、新しく音楽が好きで、好きでたまらない人たちそのものを生み出していくことが大切です。

そんな人たちを生み出していかない限り、どんなすごいサービスも一部の人だけにしか使われないし、広がらないと思います。

そのためには[共有]させるものを設計し、[共有]したくなるストーリーを紡ぎ、[共感]を持って広がる(拡散ではなく伝搬)文脈を構築しなければなりません。そして、[共鳴]という熱量が爆発した状態のユーザをリアルで持って、再びソーシャルメディアを通して[共有]したくなるサイクルを作り出すことです。

大切なことはどうしたら、忙しい1日の中で、音楽に時間を頂けるか。どうしたら、そもそも音楽を聴いてくれない人たちに、音楽を楽しんでもらえる機会と環境を作り出せるか。音楽に特段関心のない人たちの、音楽に対する関与度を上げることができるかです。一部の音楽に関与度の高い人だけに目線を向けていては、一層音楽ビジネスは縮小していきます。そのためには、まず音楽を日常の国にしなければなりません。

使い捨てではない、生涯大切にいきたいアーティストや楽曲をどれだけユーザの中に作っていけるか。音楽を愛する人たちを増やしていかなければ、何をやっても意味はない。そこにソーシャルメディアや音楽サービスは、音楽の新しい体験を創出するツールのひとつになりうるはずです。

履歴書の趣味の欄に「音楽鑑賞」とお世辞にも本当とは言いがたい人たちではなく、心から「音楽が趣味です」と言い切れる人を増やすことが大切です。

音楽を聴くデバイスに興味を持ち、音楽を聴くヘッドフォンやイヤホンにこだわり、音楽が鳴る音響機器に価値を感じ、ライブやフェスに毎年のように、訪れる人を増やし、仕事帰りに当たり前に居酒屋に行くのではなく、ライブハウスに行く。そういった文化を作っていく。日常的にBGMではなく、意識的に音楽を聴いている人たちを作る。そういう人たちが増えていくことが、音楽の関与度を上げ音楽ビジネスがより良くなっていく形だと思っています。

そのためには単独のサービスでは厳しいでしょう。では、どうしたらいいのか。それは音楽に関わるすべての人たちが新しいビジネスモデルを生みだすことです。足りないところは補えばいいのです。レコード会社、事務所、プロモーター、IT企業、ソーシャルメディアマーケティング。いつまでも過去のモデルにしがみつくことなく、【一緒に】新しい未来を作っていかないといけないと思っています。「オリコン何位」や「何万枚のセールス」などではなく、新しい指標を生みだすことが必要です。

そのとき、筆者はソーシャルメディアマーケティングの立場から、そして音楽を愛するひとりのリスナーとして、音楽に何か貢献できればと思っています。

■告知

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2012年9月27日(木)にソーシャルメディアと音楽ビジネスについての書籍『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』を発売いたします。

今回寄稿させて頂いたようなことやソーシャルメディアマーケティング、ソーシャルメディアと音楽ビジネスについての書籍になります。

書店やamazon等でご興味があれば手にとって頂けると幸いです。

■この筆者「高野修平」(たかのしゅうへい)の関連リンク

ソーシャルメディアと音楽ビジネスのブログ「a day on the planet」を更新中。
blog:a day on the planet
twitter:@groundcolor
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