コラムスピン :第40回:iTunes Store は日本で失敗しているんだよ

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第40回:iTunes Store は日本で失敗しているんだよ

~「日本の音楽市場状況2012」・週刊ダイヤモンド「アップル特集」の誤り~

大型CDショップとレンタルのチェーン店舗。日本には海外にはない、日本独自の音楽を取り巻く環境があります。そんな中で考えるべき今後の展望とは?

この記事の筆者

1964年東京生まれ。音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト。株式会社バグ・コーポレーション代表取締役、デジタルコンテンツ白書(経済産業省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げ、実践的な研究を行っている。著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本(ダイヤモンド社)』『プロ直伝!職業作曲家への道(リットーミュージック)』『世界を変える80年代生まれの起業家(スペースシャワーブックス)』などがある。

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日本の音楽業界におけるiTunes Storeの存在

先週の週刊ダイヤモンドの特集は、タイトルが「日本を呑み込むAppleの正体」でした。アップル社経営に踏み込んだ非常に面白い内容だったのですが、P54の音楽配信のページは、事実誤認に基づいた記事で目を疑いました。
「CDを殺したiTunes 音楽業界の見えない未来」というコーナータイトルです。フジテレビの音楽番組「HEY! HEY! HEY!」が終了することを導入部に、テレビの音楽番組で視聴率が下がっていること、CD売上が落ちていることを指摘するところまではよいとして、「そんな業界の構造変化に一役買ったのが、10年前に始まったアップルの音楽配信サービスのiTunesなのだ」という一文には驚かされました。この記者は、日本におけるiTunes Storeのシェアを調べているのでしょうか?IT専門のジャーナリストにありがちな、米国と日本の状況を混合した、事実を「パッチワーク」の様に組み合わせた誤った記事です。アップル社の経営については綿密に取材をする編集部も、わずか2ページの音楽配信に関する部分は、ろくに調べもせずに書くのだな、その程度の興味しか持たれていないのだな、とがっかりしました。もしかしたら音楽業界側の説明不足なのかもしれないと反省もしました。

※レコード協会「2011年有料音楽配信売上実績」の金額をもとにグラフ化「インターネットDL」の中にiTunes Storeの売上が含まれている

実は、本稿は、数週間前に依頼を受けて、別の内容で準備していたのですが、上記の記事を読んだ衝撃で、予定を変更して、日本の音楽配信事情と現状と、今後の展望について書くことにさせていただくことにしました。

知っている方にとっては、今更のお話ですが、まず、日本の音楽市場について復習してみましょう。
日本でもiPhoneやiPodは普及しました。パソコンでの音楽再生アプリとしてのiTunesは広く使われています。けれども、欧米で音楽配信のデフォルトプラットフォームとなったiTunes Storeが日本でのシェアは1割にも満たず、失敗している、というのが日本の音楽配信市場の最大の特徴です。
日本の音楽配信は「着うた」と呼ばれる、モバイル向け配信が牽引。売上の9割を占めていました。パソコン配信は1割程度で、MORAなどもありますので、iTunes Storeのシェアは6~7%程度と推測されていました。
但、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)からスマートフォンへの以降で、トレンドが変わっています。2008年をピークにモバイル向け音楽配信が落ち始めています。スマートフォンはパソコンですから、ガラケーが減る分だけモバイル向け配信の売上が下がるのは当然ですね。ただ、スマフォへの転換が進んでも、インターネット配信は伸び悩んでいて、2011年もモバイル配信1,347億円に対して、231億円に留まり、全体の約15%です。米国ではiTunes Storeのシェアは7割以上と言われていますので、その差は非常に大きいと言えるでしょう。

日本でiTunes Storeが成功しなかった理由は?

iTunes Storeが広まらなかったのは、大きく二つの理由が考えられます。
レコード業界最大手のソニー・ミュージック・エンターテインメント(以下、SME)所属のアーティストを始め、いくつかの有力なアーティストの楽曲がiTunes Storeで販売されていないこと。SMEも海外では、iTunesに提供しているのですが、日本では頑なに拒んでいます。
もう一つは、日本にしかないCDレンタル店という業態の存在です。世界に類を見ないこのサービスは「貸与権」という法律でも守られています。アナログレコード時代につくられた法律と業界慣習が、デジタルとなったCDにおいても、そのまま続いているのは不思議な話ですが、ご存じの通り、TSUTAYAやGEOなど、全国で約2800店のCDレンタル店が存在し、数百円でアルバムを貸しています。iPodユーザーは、CDレンタル経由で取り込み、楽曲を聴くケースも非常に多いと想像できます。
1曲150円~200円で好きな曲だけ買えるというアップルモデルが音楽の価格を下げたと言いますが、アルバムが数百円で手に入るのなら、値段という事だけで言えば、ユーザーにとっては、レンタル店の方が安い訳です。

さらに押さえるべきポイントとして、日本では、まだまだCDが粘っていて、意外に売れているという事実があります。
7,000億円以上あったピーク時に比べれば、1/2になっているとはいえ、2011年のCD+音楽DVDの売上は3,618億円あります。2009年に米国の売上を抜いて、世界一のCD売上国になっているというのも、意外に知られていないデータです。
売上だけではありません。米国は、日本で言えばスーパーマーケットに当たるウォールマートと通信販売のアマゾンが主力になっていますが、日本にはCD専門店が根強く残っています。先日、北関東でWonder Gooを運営するワンダーコーポレーションが、新星堂と資本業務提携するというニュースが発表されました。個人的に本音としては「新星堂はもう無理かな」と思っていたのですが、この提携で、多くの店舗が継続されます。となると、日本には、諸外国ではほぼ絶滅した「CD専門店のナショナルチェーン」が、タワーレコード、ローソンHMV、TSUTAYAと併せて、4社あることになります。他にも山野楽器や京都のJEUGIAなど地域型のチェーン店も頑張っています。この状況は、国際的な視野で見ると「異常事態」と言えるでしょう。
CDを定価で売るという「再販制度」と、レコード会社と直取引をする「特約店制度」が、守りに強い理由と思われますが、いずれにしても、「パッケージビジネスは、もう終わりだよね」と決めつけずに、ポジティブな視点も併せ持つべきと思います。最近のITでのキーワードの一つに「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」がありますが、まさにCDショップこそO2Oとしてユーザーとの接点となる場ではないでしょうか?

ちなみに、細かなデータや分析に興味のある方は、我田引水で申し訳ありませんが、先月発刊された『デジタルコンテンツ白書2012』(経済産業省監修)をご覧下さい。編集委員を務め、音楽部分については私が執筆を担当させていただいています。昨年の2011年版でも、日本の音楽配信市場でのiTunes Storeの「失敗」について、はっきり書いておいたのですが、広まって無いようで残念です。
白書の中では、「オリコンシングルチャートの形骸化」「ライブエンターテインメントや著作権二次使用の堅調な伸び」「世界で支持されるJ-Popと普及の課題」「ニコニコ動画の隆盛と同人音楽」などの章立てで書かせていただいています。

『デジタルコンテンツ白書2012』の購入先はこちら。
「日本の音楽配信事情2011~ジャーナリストや評論家に音楽ビジネスの間違った認識が多すぎる!~」

日本の音楽ビジネスの展望

では、そんな特殊な日本の市場は、これからどうなるのでしょうか?今後の展望について考えたいと思います。
これまでの内容から誤解しないでいただきたいのですが、私は、現状の日本の音楽市場の状況が良いとか、このままで大丈夫とか、思っているわけではありません。まして、ともかくCDビジネスを守るべきなどと時代錯誤な事は考えるべきではありません。むしろ、レコード業界を中心とした仕組みの崩壊に非常に危機感を持っています。ただ、改善するために、まずは、現状認識を正確に持つべきです。

国際的に見た際の日本市場の特殊性は押さえました。では、日本の音楽ビジネスはどのように変わっていくべきなのでしょうか?

近年の世界的な潮流は、クラウド型の進展、サブスクリプション(月額課金)型のストリーミング(聞き放題)サービスの流行です。

スウェーデン発のストリーミングサービス「Spotify」が注目を集めています。欧州12ヶ国で展開し、昨年秋からは米国でもサービスを始めました。世界最大のSNSフェイスブックの幹部が「SpotifyはFacebook Musicだ」と発言したと言われるほど、ソーシャルメディアとの相性が良く、着実に広まっているようです。
Spotifyは大手レコード会社も出資し、楽曲を提供していますので、リリースされているほとんどの楽曲を聞くことができます。パソコン、タブレット、スマートフォンなどに対応しています。料金体系は「フリーミアム」と呼ばれるモデルで、無料でも楽しめますが、最大で月額1200円程度の料金を払うことで、広告が無くなったり、オフラインでも聞けたりと、段階的な料金設定になっています。有料会員も増え続け、2012年8月に400万人を超えたと発表されています。

日本でも、SONYが「Music Unlimited」というストリーミングサービスを始めました。着うた最大手の「レコチョク」も準備しているようです。
レコード会社がDRMを外したり、ストリーミングサービスに楽曲を提供したりと、インターネットにおける合法的な流通を推進する姿勢を取るようになったことは、賛否両論だった「違法ダウンロード刑事罰化」を含む著作権法改正のプラス面と言えるでしょう。

通信環境の改善とクラウド型サービスの充実で、楽曲を各自がダウンロードして管理する必要性は無くなっていきます。ソーシャルメディア上での友人のリコメンドやプレイリスト閲覧を通じて音楽と出会うことのできるストリーミングサービスは、新しい音楽体験をユーザーに提供します。ヘビーユーザーにとっては、レンタル店の代替機能も果たせることでしょう。
アップル社は、iTunes というダウンロード型のサービスのデフォルトになったが故に、ストリーミングサービスには、いまだ取り組めずにいます。(インターネットラジオサービスの開始は発表しましたが、オンデマンド型はありません。)これも、イノベーションのジレンマと言うのでしょうか?そして、日本は、iTunes Storeがデフォルトにならずに、パソコンでダウンロードする型の音楽配信が一般的にならなかった分、ストリーミングへの移行はスムーズかもしれません。

<関連記事>
「ストリーミング(聴き放題)サービスは、音楽産業復活の起爆剤になるのか?」

自分が好きな、本当に応援したいアーティストとの関係の証としてのパッケージの役割は残り、音楽との出会いはストリーミングサービスで行われ、音楽ファンは月額課金の有料サービスに加入する。(ついでに言うと、権利者には再生回数で透明性のある分配が行われる)というのが、私のイメージする数年後の日本の音楽市場です。
もちろん、これは楽観的な予測です。悲観シナリオを考えれば、CD売上はどんどん落ちて、ストリーミングは広まらず、YouTubeでしか音楽は聴かれず、レコード会社は倒産していく、ということも十分に考えられます。そうならないように関係者の努力が必要です。

ちなみに、コンパクトディスク(CD)という規格は今年で30周年だそうです。技術の移り変わりが早い昨今、主力商品の規格が30年前のものという業界は他にあるのでしょうか?標準規格として優秀だったということなのでしょうが、新たな規格を提案する努力も不足しているとも思います。ハイビジョン、3Dなどが出てきている映像との比較でも明らかです。ノートパソコンからCDドライブが無くなりつつある昨今、自宅のCDプレイヤーが壊れたら、果たして買い換えてくれるのでしょうか?
高音質のパッケージにパーソナルクラウドサービスをつけて、お店で買った瞬間からスマフォで、その楽曲が聴ける等々、ユーザーが利便性を感じる新しい商品形態を提案するべきでしょう。米国ではアナログレコードの売上が伸びているそうです。コレクションと考えれば、CDよりレコードの方が魅力的ですよね。思考を柔軟にして、ユーザーが喜ぶサービスを提供しなければいけません。

音楽ビジネスを取り巻く環境変化は、本質的かつ不可逆的なものです。加速もしています。この状況は試練でもありますが、チャンスでもあると思います。ユーザー視点を大切に、音楽を大切にしながら、新しいマネタイズのスキームを模索してきたいと思います。

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そんな今後の音楽ビジネスについて考察した書籍が10/25に刊行されます。『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略~“音楽人”が切り拓く新世紀音楽ビジネス~』(リットーミュージック)は、立場の違う4人による共著です。
本コラムにも参加していた髙野修平さん(「音楽を日常の国にするために必要なこと」も共著者です。私はともかく、他の3人は、気鋭の論客で、優秀なビジネスパーソンです。音楽やコンテンツビジネスの未来に興味のある方はご一読をお薦めします。

『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略~“音楽人”が切り拓く新世紀音楽ビジネス~』公式サイト

音楽プロデューサーとして、時代の変化を意識した新プロジェクトを始めました。サウンドプロデューサー浅田祐介氏との企画です。才色兼備の女性シンガーに参加を呼びかけ、一人の声の多重録音のみで楽曲をつくり、世界同時の配信リリースを行います。
「ソーシャルメディア最適化コンテンツ」を掲げたプロジェクトで、初期の活動費はクラウドファンディング「Campfire」を使って集めました。FBページのファン数は1万人を超えるなど、徐々に広まっています。
10/3リリースの『相沢まき from j-Pad Girls / 君をのせて』は、アマゾンDLチャートで見事1位、iTunesミュージックビデオJ-Popチャートで18位とチャートインしました。
10/10には、Sweet Vacationの活動停止から1年半ぶりのMayが、Bruno Marsの『Just the way you are』をカバーしたビデオがリリースされます。
皆さんのご意見、ご感想をいただけると幸いです。

「j-Pad Girls」YouTubeチャンネル
「j-Pad Girls」Facebookページ
「ソーシャル・コンテンツ・プロデューサー宣言!! ~「j-Pad Girls」スタートに当たって」
「エンターテインメントにおけるクラウドファンディングの可能性。「評価経済」に「j-Pad Girls」で挑戦!? ~Campfire体験記~」

■この筆者「山口哲一」の関連リンク

blog:「いまだタイトル決められず
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