コラムスピン :第42回:続・iTunes Storeは日本では失敗してるんだよ

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第42回:続・iTunes Storeは日本では失敗してるんだよ

~日本の音楽市場の特殊性の功罪。歴史から学べ、もう次のフェイズが始まっている。<前編>~

10月6日に公開し、大反響と多数のコメントを寄せられた「iTunes Storeは日本では失敗してるんだよ」。今回は続編として、「音楽配信前史としての着メロ」をお送りします。

この記事の筆者

1964年東京生まれ。音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト。株式会社バグ・コーポレーション代表取締役、デジタルコンテンツ白書(経済産業省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げ、実践的な研究を行っている。著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本(ダイヤモンド社)』『プロ直伝!職業作曲家への道(リットーミュージック)』『世界を変える80年代生まれの起業家(スペースシャワーブックス)』などがある。

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大きな反響で音楽配信市場への関心を知りました

前回のコラムスピンへの寄稿「iTunes Storeは日本で失敗してるんだよ」が好評でした。ありがとうございました。
3日間で48,000PV、はてなブックマーク900超、ツイートとフェイスブックの「いいね!」が共に1,700超という反響にびっくりしました。一番嬉しかったのは、サイト解析による平均滞在時間6分21秒というデータです。真剣に読んでくださった皆様に改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

さて、こんなに多くの方が日本の音楽市場に関心をお持ちということがわかったので、前稿で書ききれなかった部分の補足を、続編的にまとめたいと思います。
ツイッターやサイトでのコメントなど、ざっと目を通しました。おおむね好意的で、ほっとしました。「知らなかったので、勉強になった」「面白い」と言ったコメントが多くて嬉しかったです。ごく一部ですが、否定的な反応もありました。アップル社の熱狂的なファンにとっては、否定的な表現は許しがたいのでしょう。「失敗」という言葉に、引っかかる方もいらっしゃいました。

私が、わざわざ括弧付きで「失敗」というタイトルしたのは、目を惹きたかった(いわゆる「釣り」)からでは無く、iTunes が「大成功」というような言説が多いので、そこに対してオブジェクションしたかったからです。近年のアップル社の隆盛に目を取られてデータチェックを怠ってしまうのでしょうね。最初に気づいたのは、佐々木俊尚さんのベストセラー『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー携書)でした。全体としては、意欲的な好著だと思うのですが、音楽に関する引用は、ほとんどと言っても良いくらい、事実誤認もしくは勘違いです。困ったものだなと思っていたら、先日の「週刊ダイヤモンド」の特集がありましたので、微力ながら声をあげた次第です。

グローバルブラットフォームと国内ルールの軋轢!?

繰り返しになりますが、日本でも諸外国と同様に、iPodやiPhoneは普及しました。PCでの音楽再生アプリとしてiTunesは広く使われています。にも関わらず、欧米では圧倒的なシェアを持つようになった音楽配信サイトとしてのiTunes Storeが、日本で「だけ」、デフォルトにならなかったことこそ、日本の音楽配信市場において、最も注目し、分析すべきポイントのはずです。

前稿で私は、iTunes Storeが普及しなかった理由として、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)などレコード会社が楽曲を提供しなかったことと、レンタルCD店の存在の二つをあげました。ネット上の意見では、普及の阻害要因として他に、クレジットカード決済への抵抗感を挙げている方もいらっしゃいました。致命的なポイントとは思いませんが、通信会社による電話料金からの自動引落としとの比較で言えば、ユーザーの使いやすさに大きな差がありますよね。アップル社は決済を「外だし」するとは考えにくいですから、俯瞰すると、グローバルなワンストップのプラットフォームという指向性と、日本の国内ルールとの軋轢という見方はできるかもしれません。

レコードレンタルという業種が、全国に広まり、それを追認する形で「貸与権」という法律ができ、業界間の話し合いの仕組みもできて、25年以上経ちますが、いまだにレコード業界をはじめとする音楽業界は、レンタル業界に対して苦々しい思いを持っています。自分たちが丹精込めてつくった作品を安売りして儲けているという意識です。ところが、そのいわば鬼っ子のような存在のレンタル店が、日本のレコード会社が「黒船」と恐れたアップル社の音楽配信の普及を止めたのだとすると、歴史の皮肉を感じませんか?私は音楽ビジネスに携わる者として、他人事の様に語ることはできませんが、ジャーナリズムがiTunes Storeとレンタル店の関係について語るのなら「レコード業界は結果として、"毒をもって毒を制した"のか?」くらいの分析はして欲しいものです。概して新しいITサービスを語る際は、旧来型のビジネスモデルを軽視する傾向がありますが、ユーザー視点に立つことは重要でしょう。

「iPad」の商標権を主張した中国

話がそれますが、中国には「iPad」と言う商標をもっている会社が、アップル社を商標権違反で訴えて、裁判所が6000万ドルを支払わせる判決を出したいうニュースがありました。

「中国での「iPad」商標権訴訟、6000万ドルで解決」
多くの日本人は中国の知財への後進性の証左と笑っているようですが、私は少し違う見方をしています。
これは、中国政府が米国企業アップル社に命じた「入国税」みたいな、喩えは悪いですが「縁日のテキ屋のショバ代」みたいなものではないでしょうか?特許というルールでは中国は不利なので、商標という基準を引っ張り出した訳です。「うちの国で商売したいなら、まず48億円払え」ってことです。アップル社が支払ったのは、それでも中国市場進出にメリットがあると感じたからでしょう。中国に見習えとは全く思いませんし、中国もそろそろ変わってもらいたいですが、世界各国が自国のエゴむき出しでシビアな争いをしている中で、日本人だけ呑気なのは危険だなとも思います。私たちはもう既に、好む好まざるに関わらず、グローバルな競争にさらされているのですから。

それから誤解しないで頂きたいのですが、私はアンチアップル派ではありません。昔からMacのPCは数多く買っていますし、iPodもiPhoneもiPadも愛用者です。ユーザーとしては、ライトですがアップルファンと呼べると思います。音楽プロデューサーとして作品をつくっている立場でも、世界中に楽曲を販売してくれるプラットフォームは魅力的ですね。ただ、コンテンツホルダーの立場で言うと、海外のプラットフォーム事業者に、一方的に全てルールが決められてしまうのは、気持の良いことではありません。特にアップル社は問答無用スタイルですからね。

「着うた」市場の終焉

さて、本題に戻ります。実は、2010年頃から日本の音楽配信市場の変化が始まっていて、私の「iTunes Storeの失敗」という分析も、そろそろ時代遅れになっています。前稿では、論点がぼやけるので割愛しましたが、「ガラケー対応の着うたがあったため、iTunesは普及しなかった」という状況は、もう終わっています。昨年辺りから、着うたの売上は激減しているのです。2012年上半期の売上は前年同期に比べて63%しかありません。(日本レコード協会調べ)実は、日本の音楽配信は次のフェーズが始まっています。まだ次の主役は見えてきません。そんなタイミングの今、もう一度、歴史を学ぶことには意味があるのでは無いでしょうか?




※まとめたものをグラフ化。ソーシャルゲーム等市場の増加と着メロ、着うたフルの減少が確認できる

音楽配信前史としての「着メロ」

音楽配信の前史としては「着メロ」があります。有名曲のメロディを携帯電話の呼び出し音にするというサービスが流行したのは覚えている方も多いのではないでしょうか?ピークの2004年には1,167億円(モバイルコンテンツフォーラム調べ)まで伸びました。着メロは、有名楽曲を使うので作詞作曲者に著作権料が支払われるだけで、レコード会社には収益はありませんでしたが、携帯電話での音楽コンテンツが収益を上げることを知ったわけです。

通信環境が整備され、携帯電話端末の機能が向上したことで、CDと同レベルの音楽ファイルを配信、再生させることが可能になってきました。「着うた」という名称は「着メロ」の延長線上にあることが窺えます。iTunesをはじめとするインターネット音楽配信の不振をよそに、「着うた」市場は若年層に拡がっていきました。
多くのビジネスパーソンは、そう言ってもピンとこないのではないでしょうか?売上データを知っても「着うた」プラットフォームは特殊なサービスという印象を持たれる方が多いように思います。おそらく知人に着うたをダウンロードしている人が居ないのではないでしょうか?実は、僕の周りにもほとんど居ません。

「着うた系アーティスト」という言葉が生まれたように、携帯電話で音楽を楽しむという行為は、若年層を中心にある特殊なクラスターに偏って起きたムーブメントです。このジャンルに詳しい友人の言葉を借りるなら、(ちょっと語弊のある表現ですが)「地方都市に住むギャルとヤンキー」に支持されたサービスなのです。
「着うた系アーティスト」の代表的な存在は西野カナでしょうか?ギャルカルチャーの中心的存在として、人気を広げていきましたね。
「YouTubeでビデオクリップを無料で見て、気に入ったアーティストをレコチョクで落として聴く」という新しい音楽消費の形が普及していったのが「着うた」の隆盛でした。2008年に1200億円にまでなりました。新しい音楽ジャンルも産みました。
「泣きうた」という言葉も生まれましたが、平易な歌詞と、わかりやすい旋律が共感を呼んだようです。携帯電話でインナー・イヤフォンで聞きやすいように、高音が強調された音響バランス(極端なドンシャリ)も特徴です。

YouTubeでの拡散法については、BLUE BIRD BEACHという新人アーティストで実証的な実験を行っています。男性3人組のボーカルグループで「着うた系」との親和性もあるので、興味のある方は、下記をご覧下さい。

<関連投稿>
「YouTubeの再生回数について考えてみる」

レコード業界が大同団結した「レコチョク」

「着うた」市場の隆盛には、シェアの7割強を占めると言われた圧倒的なプラットフォーム「レコチョク」の存在も大きいのでは思われます。サービス開始時は「レコード会社直営」(=レコ直)という名称で、公式であるという打ち出しが、日本のユーザーに安心感を与えて、他のCPを押しのけてシェアを伸ばしたと考えられています。レコチョクを運営する株式会社レコチョクは、日本の大手レコード会社5社による共同出資で、日本レコード協会加盟会社がコンテンツを供給しているプラットフォームです。要するにメジャーレコード会社による公式サービスということですね。独占禁止法という観点での是非に関しては、本稿の趣旨から外れるので触れませんが、とにもかくにも、日本の音楽配信市場の一人横綱でした。

普段は、同業他社のライバルとして競い合うレコード会社が、共同事業を積極的に推進することになったのは、前述の「着メロ」の経験に加えて、欧米で広まるiTunes Music Storeの脅威があったからだと思われます。peer to peerの普及や違法音楽ファイルの氾濫に悩まされていた欧米のレコード会社が、合法で音楽配信を行うというアップル社への楽曲配給に同意しました。(日本では頑なに拒んでいるソニー・ミュージックエンタテインメントも海外では配給しています)アップル社CEOの故スティーブ・ジョブズ氏のカリスマ性と人脈も効果的だったと言われています。米国での音楽市場のシェアはアップルが急伸していきました。その事態に、日本のレコード会社は大きな脅威を感じていたのです。もともとレコードビジネスは、再販制度(商品を定価で売ること)と特約店制度(レコード会社と直接契約しているお店)で守られてきた事業です。レコード会社は「大切な商品を自分達の目の届かないところでは売りたくない」というマインドを持っています。単曲売りや販売価格の強制などiTunes Storeのやり方とは、体質的にも相容れません。「着メロ」市場の隆盛で、日本では携帯電話で音楽を聴くユーザーニーズがあることを知っていたレコード業界は、大同団結してモバイル向けの音楽配信事業を始めた訳です。

これが、成功したのは前回説明した通りです。音楽配信市場の9割はモバイルが占め、その内の7割強はレコチョクが握るという形ができあがりました。ここまでが日本の音楽配信の過去の歴史です。この音楽配信市場がフィーチャーフォン(ガラケー)からスマートフォンへの移行で崩れています。スマフォは小さなパソコンですから当たり前ですね。「着うた」市場の終焉は間近です。統計データとしてモバイル配信とインターネット配信を分ける意味が無くなってきています。この変化でiTunes Storeも売上を伸ばしているようです。ただ、2012年上半期のインターネット配信は前年同期比33%増。スマートフォンの普及の急伸に比べれば、小さな伸びに留まっています。

◆有料配信売上実績から見たインターネットダウンロードとモバイルの相関関係
(2005年から前期/後期半年ごとに合計、単位:百万円)

※引用:一般社団法人 日本レコード協会の「各種統計」より

さて、日本の音楽配信は次のフェーズが始まっています。ここからは、現在進行形~近未来のお話をしたいのですが、この辺で与えられた紙幅が尽きました。この続きは次回に譲ります。今回もご意見、ご感想をお待ちしています。質問も歓迎です。

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こんな時代の変わり目の音楽ビジネスに関する書籍を10/25に刊行します。『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略~“音楽人”が切り拓く新世紀音楽ビジネス~』(リットーミュージック)は4人による共著です。4人とも職種は違いますが、実業に携わるビジネスパーソンです。出版に先立って、フェイスブックページを始めています。発売前にAmazonチャートで345位、音楽書チャート1位と注目をいただいています。
11/8には出版記念のトークイベントを行います。著者4人が揃いますので、興味のある方はいらしてください。

『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略』フェイスブックページ
『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略』公式サイト

もう一つ。音楽プロデューサーとして、こんな時代の変化を意識した新プロジェクトを始めました。「j-Pad Girls」は、サウンドプロデューサー浅田祐介氏と「ちょっとは新しいコトやんなきゃね」と始めました。才色兼備の女性シンガーに参加を呼びかけ、一人の声の多重録音のみで楽曲をつくり、世界同時の配信リリースを行っています。コンセプトは「プロフェッショナルによるソーシャルメディア最適化コンテンツ」。初期の活動費はクラウドファンディングを使って集めました。FBページのファン数は12,000人を超えるなど、徐々に広まっています。興味を持っていただけると嬉しいです。

「j-Pad Girls」YouTubeチャンネル
「j-Pad Girls」Facebookページ
「ソーシャル・コンテンツ・プロデューサー宣言!! ~「j-Pad Girls」スタートに当たって」
「エンターテインメントにおけるクラウドファンディングの可能性。「評価経済」に「j-Pad Girls」で挑戦!? ~Campfire体験記~」

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