読むナビDJ :第12回:VOCALOID曲・再入門講座(前編2007-2008)

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第12回:VOCALOID曲・再入門講座(前編2007-2008)

「初音ミク」「VOCALOID」という現象をもう一度、2007年のスタートから現在までを辿る動画付き大特集。 今回は、2007~8年の2年間の代表作でナビする。

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今の日本の文化現象は、知っている人はどこまでも詳しくなれて、知らない人はいつまでも知らないままでいられる、そういう相互不干渉のまま、それなりの規模を獲得してきたものばかりである。いつ火がついたのかもわからずに、気がつくと出自のわからない“流行”や“人気”に囲まれている。そんな体験を2000年代の日本で一度もしなかった人は少ないのではないかと思う。

「ニコニコ動画」(2006年12月12日~)を主要舞台とした「初音ミク」(2007年8月31日〜)に代表されるVOCALOID関連も、どうやらそれに近い文化らしい。VOCALOID楽曲を聴くことが日常生活に組み込まれている人たちがいる一方で、「あれは一部の人が好きなヤツでしょ」と話題を横目にやり過ごしてきた人、「海外でも人気があるらしいね」とニュースを目にはしていても、実際に楽曲を聴いていたのは「鏡音リン・レン」(2007年12月27日〜)が出た頃で止まっている人、そういう人が自分の周りには沢山いる。彼・彼女らが新たにVOCALOID楽曲を聴く機会はもうほとんどなさそうだった。

2011年10月21日にヤマハがVOCALOIDエンジンの新バージョン「VOCALOID 3」を発売した。このメジャー・バージョンアップは久しぶりの大きな出来事で、一度気分をリフレッシュするきっかけになるかもしれない。なので今回は、再入門者向けに振り返りつつ定番曲を改めて紹介していきたい(再入門なので「初音ミクとは」「VOCALOIDとは」という話はもちろんしない)。

※「ニコニコ動画」を見るには、登録&ログインが必要です。

2007年「ひっくり返るよ、当然」

Otomania「VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた」(2007-09-04)

今この記事を読んでいるくらいの人なら、2007年にあった出来事はほとんど覚えているはずだ。2007年8月31日にクリプトン社から「初音ミク」が発売されてから、最初に起きたのは「ネギを持つ」というキャラ付けがユーザ側から行われたこと。そのきっかけとなったのがこの動画である。初音ミクとネギの組み合わせはあとから公式設定に組み込まれた。


ika「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」(2007-09-20)

ニコニコ動画では初音ミクを使用した楽曲が優先的に注目を集めるようになったが、最初期によく聴かれたのはこの曲だった(一ヶ月弱で100万回再生)。イントロやエンディングにまだ未完成らしき雰囲気も漂うけども、いわゆる往年のJ-POPらしい作風は、「こんな風に使えるソフトなんだ」という良いサンプルになったのではないだろうか。この頃、初音ミクを特集した『DTMマガジン』2007年11月号(10月6日発売)は三日で完売して話題となった。フルバージョン「みんなみくみくにしてあげる♪」は『Heartsnative』(2009-10-21)に収録。


kz「Packaged」(2007-09-25)

声の処理一つとっても、音色の選択にしても、2007年の時点でこの曲だけ完成度が他と違った。2007年で1曲だけ選ぶならこの曲になる。kzlivetune)は2008年にメジャーからCDを出し、最近もClariSへの楽曲提供などを行っている(ネットレーベル周辺とも交流が盛ん)。「初音ミク」の登場は、ボーカリストと出会うきっかけがなかなかなかったDTM作曲家が世に出るきっかけになった。2008年の「Last Night, Good Night」(2008-07-31)も合わせて。


ゆうゆP「SUPER HATSUNE BEAT vol.1」(2007-11-18)

初期有名曲を全部触れるスペースはないので、初期名メドレーである本作で代替させてほしい。様々な他人の楽曲を全部打ち込み直し&アレンジし直して、ユーロビート・ノンストップミックスにしてしまった、手間のかかったトラックである。歌われている曲は「恋スルVOC@LOID」「White Letter」「なぜか変換できない」「えれくとりっく・えんじぇぅ」「タイムリミット」「みっくみくにしてあげる♪【してやんよ】」。原曲と聴き比べると印象の違いが楽しいはず。


♪loadorigin「初音ミク「すいません・・・、鏡音リンを予約したいのですが・・・」」(2007-12-01)

これは曲ではなくて初音ミクに無理やり喋らせたネタ動画。2007年12月27日に発売された「鏡音リン・レン」の音声もまだ公開されていなかった時期に投稿されている。初音ミクが野菜のネギだから、鏡音リンはこれでどう?という話題。これにより鏡音リンのやんちゃなキャラクターイメージを定着させてしまった。


ryo「メルト」(2007-12-07)

初音ミクの定番曲トップ3に間違いなく入るであろう大ヒット曲であり、ニコニコ動画における初音ミクの在り方を決定づけたのもこの曲だった。というのは、ガゼルhalyosyなどの歌い手(もちろん人間です)がこの曲の「歌ってみた」動画を投稿しはじめ、関連動画が増殖、オリジナル版の再生数も合わせて増加していったのである。「歌ってみた」によって楽曲に別の魅力が生まれ、オリジナル版にもその魅力の残像が累積してくるという、楽曲が単体で完結しないリゾーム状のコンテンツ消費スタイルが広がっていくきっかけとなった。以前からあった「歌ってみた」文化が初音ミクとがっつりぶつかった重要な一曲。

2008年「ネットに舞い降りた天使」

ゆうゆPbaker「SUPER DEADBALL BEAT」(2008-02-25)

2008年最初のトピックは、デッドボールPの投稿楽曲がニコニコ動画から削除された事件である(2008-01-17)。歌詞に下ネタが多かったことからの処置だが(初音ミクは公序良俗に反する利用はNGという規約がある。デPは受け入れ修正版を再投稿)、これにより初音ミクは誰のものか?/何であるか?が改めて議論された。ここで紹介するのはデPのオリジナル版ではなく、前出のゆうゆPがリミックスしたメドレー。オリジナル版は現在CD『EXIT TUNES PRESENTS THE VERY BEST OF デッドボールP loves 初音ミク』で聴ける。


WhiteFlame黒うさP)「カンタレラ」(2008-02-18,第二版02-21)

初音ミクと、初音ミク以前に出ていた男声VOCALOIDKAITO」を使った、背徳的な雰囲気漂うデュエット曲。もとは同人サークルWhiteFlameが別のボーカリスト(めらみぽっぷ)で発表していた作品を、改めてVOCALOIDに歌わせて投稿したもの。別のVOCALOIDを連れてくることで、新たにキャラクター同士の“関係性”が生まれ、その関係性への注目が別の拡がりを生んでいく。その初期の例といえる。


キャプテンミライ「幻想論」(2008-04-04)

キャプミラPによる「幻想論シリーズ」の第一作で、全体的なアレンジは80年代テクノポップ風味。「鏡音リン・レン」は使用感にクセがあったこと、初音ミクがまだまだ好調だったこともあって、「リン・レンならこれ!」という代表曲はすぐには生まれなかった。しかし「リン・レン」から新たにVOCALOIDに参入してきた作曲家が秀作を量産していた時期でもあり、どこかセンチメンタルなこの曲もその一つ。


cosMo@暴走P「初音ミクの消失(LONG VERSION)」(2008-04-08)

初音ミクは人間ではなくソフトウェアであるから音域に限界はなく息継ぎのタイミングも必要ない、という認識を楽曲に反映させたのがこの曲。早口というレベルを超えた高速ボーカルで、人間の歌唱の代替ではない、ソフトウェアにしかできない歌唱の一例。のはずだが、JOYSOUNDには登録されている(この曲を無理やり歌うことで宴会芸的に盛り上がるようだ)。2010年にはメジャーからCDも出た。なお、これより前にさらに速いショート・バージョンが発表されている(2007-11-08)。この曲が好きな人にはwowaka「裏表ラバーズ」(2009-08-30)も推薦。


supercell「ワールドイズマイン」(2008-05-31)

「メルト」でブレイクしたryoを中心に結成されたsupercellが「恋は戦争」に続いて発表した人気曲。2007年に主流だった「初音ミクは“電子の妖精”/バーチャル・アイドル」「VOCALOIDを使うのはDTMユーザだから電子音楽/テクノポップと親和性が高い」という連想は、supercellが登場した頃からひとつ前のモードになった。アイドルキャラや、画面の中から外の貴方に話しかける電子故の葛藤ではない、もう少し汎用性を高めた物語風歌詞と、打ち込み感を減らし疾走感のあるバンド・サウンド的な方向性。“ボカロック”と呼ばれるようになるこの傾向はすでにある。


halyosy「Fire◎Flower」(2008-08-02)

男声「鏡音レン」の定番曲というとこの曲を連想するがどうだろう。人間だと苦しくなる音域を自由に歌わせられるために、つい高音に偏りがちなVOCALOID曲の中で、うまく低音を活かせているのは特筆すべき点である。歌詞は青春・恋愛、曲調はボカロック。2011年にはらっぷびととのコラボレーション版も発表された。


ラマーズP「ぽっぴっぽー」(2008-12-11)

歌詞に「野菜ジュース」が頻出する不思議な展開、ラップと歌の中間的なボーカル表現のハマり具合など、耳に残りやすいハッピーハードコア調の四つ打ちトラック。かわいい二枚絵の単純な繰り返しによる動画(ニコニコ動画では自動ループ設定がONなので延々再生される)があまりにも曲とマッチしており、多くの派生動画が生まれた。曲・歌詞・動画のすべてが相乗効果で盛り上がった好例。


iroha「炉心融解」(2008-12-20,再投稿:2009-08-30)

女声「鏡音リン」の定番曲を選ぶとしたら、かなりの確率でこの曲が上位に来るはずだ。作詞はkuma(alfred)、動画と絵をなぎみそ、ロゴデザインを三輪士郎、幼少リンの服デザインを裏花火が担当した総合的なコラボレーション作品。マイナー調の曲も良いが動画も完成度が高いという、2008年末を締めくくる良作だった。

次回は2009年以降を取り上げる(つづく)。

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