読むナビDJ :第17回:VOCALOID曲・再入門講座(後編2009-2011)

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第17回:VOCALOID曲・再入門講座(後編2009-2011)

ばるぼらがおくる、VOCALOIDの大筋をいっきにつかむ「再」入門講座。後編は、ボカロがどんどんオーバーグラウンド化する2009年1月~最新の2011年12月まで。

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2009年「ただでさえ天使のミクが感情という翼を持って女神になろうとしてるな」

otetsu「星屑ユートピア」(2009-01-30)


流星P「RIP=RELEASE」(2009-01-30)

2009年最初のトピックは「巡音ルカ」の発売だった(2009-01-30)。多くのPがすぐにルカを使った新曲を発表し“ルカ祭り”状態となったが、中でも発売日と同日に公開されとくに注目を集めた二曲が、otetsu「星屑ユートピア」と流星P「RIP=RELEASE」。その仕事の速さも驚異的だが、どちらも歌声が自然に(まるで人が歌っているように)聴こえる「神調教」がルカの魅力を引き出していた。otetsu氏には“伝説のルカマスター”というタグがつけられたほど。ルカの歌声を初めて聴いたのがこれらの曲だった人も少なくないのでは。


アゴアニキP「ダブルラリアット」(2009-02-05)

巡音ルカ使用の代表曲として連想するのはまずこの曲である。「ルカを最初に見たときに、ダブルラリアットをしているイメージが降りてきました」という味わい深い説明文もさることながら、楽曲と歌詞の哀愁漂うポップ感、および説明文を体現する自作PVが素晴らしい。何はともあれ一度は再生してほしい。どこかワイルドな印象はアゴアニキPがもともとバンドで活動しているためだろうか。


doriko「ロミオとシンデレラ」(2009-04-06)

dorikoのロック・スタイルの代表曲。前年に注目を集めメジャーデビューのきっかけになった「歌に形はないけれど」(2008-01-20)や「夕日坂」(2008-03-22)がバラード曲だったことの反イメージと、ジュリエットではなくシンデレラを選ぶ歌詞の微妙なズラし方が新鮮だった。この前後から徐々に、ボカロランキングのヒット上位に、これまでの初音ミク=バーチャル=SF=テクノ/エレクトロ路線とは違った、スピード感がありかつマイナー調のロック・サウンドが頻繁に顔を出すようになり、2010年以降の主流となっていく。


minato@流星P「magnet」(2009-05-01)

初音ミク巡音ルカの禁断の愛を描いた大ヒット・デュエット曲。前年のWhiteFlame「カンタレラ」の系譜とも言えるが、この曲は拡散率が桁違いであり、2009年に最も派生動画が生まれた曲だという(約2000件)。ミクとルカを別のキャラに置き換え、「歌ってみた」で男同士で歌ったりと、そのエロティックな歌詞の世界を様々な文脈で楽しむことが面白がられた。同人的なVOCALOIDの楽しみ方の最初のピーク。動画は再アップ版。CDは現在も販売中。


sasakure.UK「*ハロー、プラネット。」(2009-05-24)

チップチューン、ドット絵の自作PV、RPGゲームの台詞のように綴られる歌詞の世界観。それらから感じられるゲーム音楽の影響(sasakure.UKはもとはBMS作家として知られていた)と、VOCALOID自体が既に持つ背景の相性の良さも手伝って、非常に完成度の高い(ミラクル!)ポップスになっている。2010年にメジャーデビューしゲーム音楽の分野でも活躍。2011年12月にロックバンド・有形ランペイジを結成。同人レーベルVoltage of Imaginationの架空アニソン・コンピ『空想活劇・参』では漫画家・西島大介&歌い手・そらことのコラボレーションも行った。GUMIを使った「カムパネルラ」(2009-10-28)なども推薦。


Dixie Flatline「Just Be Friends」(2009-07-04)

(※ニコニコ動画は現在非公開)

本職で音楽関連の仕事をしていたというDixie Flatlineによる泣きのエレクトロR&B。4か月ほどで100万再生を突破したこの曲も「巡音ルカといえば」と連想される代表曲の一つだろう。別れと旅立ちを描いた歌詞もあわせて人気も高く、騒動で引退したゆのみP制作のPVも物語をサポートするいい役割を担っていた。Dixieの初期ヒットであるリン・レンを使ったR&B曲「ジェミニ」(2008-03-07)もキラキラとした独特のポップさがあり、追って聴いてほしい。


うたたP「Project Diva desu.」(2009-10-31)

2009年後半のトピックとしてPSP用音楽ゲーム『初音ミク -Project DIVA-』の発売がある(2009-07-02)。メインのリズムゲームの他に、着せ替えモードやエディットモード(PVを自作できる)があったのが大きい。さらにゲームはアーケード版も作られたのだが、この曲はその『Project DIVA Arcade』用の新曲公募に応募された一曲。「ディバディバ」「ディバデス」を繰り返すボカロハウスで、2011年7月にLAで開催され5000人以上を集めたライブイベント『MIKUNOPOLIS in Los Angeles』でオープニングに使われた。ダブステップ風味を足したリミックス版「Project Diva desu. DX」(2012-01-09)も最高。

2010年「でも縞ぱんじゃなかった(´・ω・`)」

Treow/PV:@まさたかP「【第4回MMD杯本選】Chaining Intention【PV】」(2010-02-13)

ニコニコ動画のボカロ界隈には“VOCALOID・アンダーグラウンド・カタログ”という「再生数一万以下だがストイックで奇個性なVOCALOID曲の作者」を集める企画がある。一般的なランキングには登場しないもののマニアックに支持を集めているPがリストアップされており、「Chaining Intention」作者のTreow氏もそうしたアングラPの一人。ころころとリズムがペースチェンジするこの奇妙なダンストラックのオリジナル投稿日は2008-11-08だが、2010年にMMD杯に@まさたかPが投稿したこのPVは、まるで最初から曲と動画がセットだったかのような完成度で大きく話題を呼んだ。オリジナルの約二倍の再生数をこのPVバージョンが記録しており、PVの存在が楽曲に再び光を照らした好例。


yuukiss/PV:Yumiko@まさたかP「【ロリMEIKO】Nostalogic (single edit) 【実写PV】」(2010-03-01)

ショート版(radio edit)の投稿日は二年以上前(2008-02-09)だったが、踊ってみた動画をYumikoが公開し、それをさらにエディットした@まさたかPのPVが公開される派生的な動きが起きたことで、楽曲×踊り×映像のコラボレーションによるフル版が満を持して登場した。楽曲は「'90s回帰」をコンセプトに、小室哲哉のヒット曲(trf「crazy gonna crazy」、華原朋美「keep yourself alive」、TM Network「BE TOGETHER」……)などを意図的に混ぜ合わせたような、タイトル通りの懐かしいJ-POP感に溢れている。なお“ロリMEIKO”とは初音ミク以前のVOCALOIDである「MEIKO」の声を子供っぽい声に聴かせる調教(調整)で、打倒・初音ミクとしてyuukiss氏が考案した。


佐久間正英「春が咲く 私は唄う(Goodnight_to_followers)」(2010-04-18)

現在公式に聞けるサイトが見つからないため楽曲自体を紹介できないのが残念。BOØWYGLAYJUDY AND MARYをはじめJ-POPのサウンドを作ってきたプロデューサーの一人・佐久間正英がこの日、巡音ルカを使った楽曲をウェブにアップロードし公開し大きな反響を呼んだ。また、毎月ヒット曲のコード譜を掲載している雑誌『歌謡曲ゲッカヨ』は2010年6/7月号で初めて「初音ミク他、音声合成ソフトウェア人気曲集」特集を組み(佐久間インタビューも掲載)、以後定期的にボカロ曲を掲載するようになっていく。


DECO*27「モザイクロール」(2010-07-15)

株式会社インターネットから発売されている「Megpoid(通称GUMI)」(2009-06-26)を使った楽曲で、初の週刊VOCALOIDランキング1位&初の100万再生超えとなったのがこの曲。akkaとmirto(三人あわせて甘党トリオ)が制作したちょっとダークなムードのあるアニメPVも人気の一因。ノリのいいギターロックだがヴォーカルは意外と抑制されているのも聴きやすい。GUMIを聴くならとりあえずここから。DECO*27は2010年にメジャーデビュー、2011年には柴咲コウTeddyLoidとユニット「galaxias!」を結成。


daniwell「Nyanyanyanyanyanyanya!」(2010-07-25)

ポップなメロディが延々ループされる中毒系の曲で、この曲にあわせて様々なキャラクターを躍らせる「MMDにゃにゃにゃ選手権」が開催されるほど無数の派生動画が登場した。R.twoによるMMD振付バージョンはとくに人気高し。個人的に、最初は初音ミクの声が全く聴きとれずカラオケかと思ってしまったが、何度か聴いているうちにメロディにあわせて「にゃ」を全篇通して歌っていたのに気づいた。息継ぎのタイミングがほとんどないので「歌ってみた」ではなく「歌ってみろ」タグがつけられている。


ハチ「マトリョシカ」(2010-08-19)

500万回近い再生数を誇る初音ミクGUMIのデュエット曲。「馬鹿っぽくて、どんちゃんしたの」と作者が説明するような派手なロックサウンドで、入り乱れた歌詞の解釈は様々だが、促音(っ)・拗音(ゃゅょ)・長音(ぁぃぅぇぉ)が頻出し、歌って気持ちいい発声を意識したのだと思われる。そのためか関連する“歌ってみた”動画の再生数も半端なく(150万再生超えが3つもある)、“歌ってみた”で最も人気のある楽曲だという。味のある絵柄・文字も良い。


EasyPop「ハッピーシンセサイザ」(2010-11-22)

巡音ルカGUMIのデュエットによる、タイトルらしい幸せなムード(冒頭の歌詞はやや失恋ムードだが)に包まれたテクノポップ曲。オリジナルは静止画だが、踊り手のめろちんが振付をした動画が100万再生を突破するなど、“踊ってみた”の投稿が多い。派生動画の数が増えれば増えるほどオリジナルの参照回数も多くなる。人の創作意欲を触発する作品ほどネットでは人気が出やすいということの実例。

2011年「P名言ってみろ!」

くちばしP「(Θ)どういうことなの!?」(2011-01-13)

2007年から投稿している古参であるくちばしPの、二日で10万再生を突破したヒット曲の一つ。歌詞のかわいらしさ、繰り返しのサビのメロディの中毒性もさることながら、MikuMikuDanceを使った自作PVのシンクロ度も気持ちよく、MMD処女作というのが信じられないほど。ちなみに動画に使われているノースリーブの初音ミクは「Lat式ミク」と呼ばれ(3DCGモデラーのLatがデザインしたもの)、公式とはまた違った人気がある。


ぽわぽわP「ストロボラスト」(2011-01-20)

歌い上げ・声を張り上げる初音ミクの使用は無数にあるが、この曲の囁くような使い方は珍しく、ミニマルなバックトラックとの相乗効果がクールな印象を盛り上げる稀有なミク曲である。作者のぽわぽわPはこの曲を最後に引退宣言を出したが、鏡音リンを使った「怪盗・窪園チヨコは絶対ミスらない」(2011-05-30)で復帰した。


じょん「メテオ」(2011-03-20)

3月11日夜公開予定だったものを見合わせ、内容を一部修正したという8分半のミクトランス。バラード調で静かにはじまり、途中からリズム、ウワモノなどが覆うように重なって曲を一新させる瞬間が気持ちいい。SOEによるイラスト&ムービーと、かぶさるコメントの弾幕のイリュージョンは見モノ。ユーザが選ぶ「2011年度VOCALOID生放送大賞」受賞。VOCALOID3 Library「IA -ARIA ON THE PLANETES-」(2012-01-27発売予定)のβ版を使った別バージョンなどもあり。「Solosail」(2011-11-12)なども推薦。


wowaka「アンハッピーリフレイン」(2011-05-02)

前作「ワールズエンド・ダンスホール」(2010-05-18)から約一年ぶりに発表された、05-18発売の同名アルバムの表題曲。荒々しいギターとドラムのガレージロック・サウンド、歌えそうで歌えないちょっと歌えそうという絶妙に早口なボーカル。一日も経たずに10万再生される驚異的なスピードを記録した。


黒うさP「千本桜」(2011-09-17)

黒うさPにとっては前編で取り上げた「カンタレラ」を超えるヒットとなった、ギターとピアノがせめぎあう和風ボカロック。漢字が多く硬質な印象の歌詞、一斗まるによるイラスト、三重の人によるPV編集が“大正浪漫”のイメージを強くアピールしてくる。


じん「カゲロウデイズ」(2011-09-30)

近年のフィクションの流行だったループものの匂いも漂わせる、背景に何かあるような淡々としつつ残酷な歌詞が聴く側の想像力を刺激するようで、私的解釈で描き直したPVや、別視点からの替え歌(ジャガイモデイズ)などが登場。“歌ってみた”や“踊ってみた”とはまた違った派生作品が生まれた。しづ制作のPVは赤・青・白黒の禁欲的なカラーリングや微妙な手ブレ感など細かい芸が効いている。


家の裏でマンボウが死んでるP「スイートフロートアパート」(2011-10-24)

甘そうなタイトルとゆったりとしたハウスミュージックの組み合わせによる、家の裏でマンボウが死んでるPの初のGUMI使用曲。家の裏でマンボウが死んでるPの大きな特徴である物語が展開する歌詞、加えて歌詞と同じくらい重要なPV(本作イラスト:マンボウの姉)がこの曲でも大きなポイントになっており、P名を含め人に教えたくなるギャップの可笑しさがヒット要因の一つだと思われる。


YonoP「蛍火」(2011-12-03)

初音ミクAppendを使用、2010-12-27に投稿した楽曲を半年以上かけてリメイクしたもの。もともと自身のバンドで演奏していた曲らしく、エモ一歩手前のセンチメンタルなギターのリフやメロディが印象的な佳作。リズムに合わせた音符の弾幕もきれいなのでニコニコ動画のコメント表示での試聴を推薦。


念を押すと、前編・後編を通して挙げている曲はVOCALOIDが好きな人には定番・基本といえる曲ばかりである。2011年についてはまだ最近なので定番とは言えないだろうが、おおよそ人気の高い曲を取り上げた。

とはいえ、オリコンチャートのトップ10を聴いていれば世間の流行の最先端にいるとはもう誰も思えなくなったように、ここに挙げられた曲がボカロファン皆に愛されカラオケで頻繁に歌われているヒット曲だとしても、これでVOCALOIDが理解できたとは実際のところ言えないのでは、というのも予想がつくはずだ。これは「一部の人」の人気にすぎないのでは……と安心できないかもしれない。

しかしインターネットによって個人という存在が改めて問われるようになって以降、世の中は多様な「一部の人」で成り立っていることが可視化された。世の中には「一部の人」以外が好きなものは存在しない。なぜなら「一部でない人」などいないからだ。皆がそれぞれの好みの内輪で需要と供給をくり返している。どこで流行してるのかわからない流行を追うよりも、自分の好きな「一部の人」達の流行を追う方がずっと大切なことだ。インターネットはそれを肯定も否定もしない。

とりあえず、VOCALOIDに興味が戻ってきた時のために、この記事をブックマークしておくといいでしょう。

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読むナビDJ 第12回:VOCALOID曲・再入門講座(前編2007-2008)
読むナビDJ 第8回:インターネットと音楽の歴史を辿って(後編)
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読むナビDJ 第5回:日本のネットレーベルをまだ知らないアナタのために

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