コラムスピン :第46回:「誇り高き寄生虫」

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第46回:「誇り高き寄生虫」

~YOAKEは日本の音楽業界の「夜明け」になるのか?~

非常に刺激的な内容だった、2012年11月17日に開催されたトーク&ライブセッション「YOAKE」でのパネルディスカッション「リスナーの自由、ミュージシャンの自由」の模様をファシリテーターを務めた虎岩正樹さんに執筆していただきました。

この記事の筆者

残響塾 塾長、AMTグループ 非常勤ファシリテーター、シルク・ドゥ・ソレイユキャスティングパートナー etc。高校時代からバンドにのめり込み、イギリスの音大生時代は学業のかたわらヨーロッパ全土でストリートミュージシャンとして活躍。1993年に渡米し、L.A.にあるMI Hollywood を卒業後、同校のギターインストラクターに日本人として初めて就任。2000年にはIndependent Artist Programを同校で立ちあげ学科長に就任する。全米ネットワークでのテレビ出演をはじめ、アメリカでのレコーデイングやライヴの経験も多数。帰国後は音楽学校MI Japanの校長を2010年5月まで務めた。2011年5月に「残響塾」を残響レコードの元で立ちあげ、音楽の分野に限らず日本のインディペンデントマインドを束ねる活動に取り組んでいる。毎週月曜日に同塾で開催している「PrsnT!」というトークライヴイベントは全国5都市で開催中。また孫正義氏の後継者候補を育成するソフトバンクアカデミアグローバルCEOコースの社外生枠で上位入校を果たしている。

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身内ノリからの脱却へ

今から4ヶ月ほど前、このYOAKEというマイルストーンイベントを企画、実行した永田さんにパネリストとして出演して欲しいというお話を頂いた時、僕は永田さんに対してとんでもなく失礼で横柄な態度をとってしまったことを反省している。

YOAKE ~Music Scene 2013~】 音楽シーンの現在を感じ、未来を考えるトーク&ライブ

日本の音楽シーンの未来を考えるイベントだという主旨を聞いたとたん、いわゆる「業界」の人達が集まって身内話をする集まりにはあまり興味がない的なことをベラベラとほざき、挙句の果てには「インディペンデントアーティストや、役人や、著作権管理をしている団体や、メジャーレーベルの代表みたいな人が一度に集まってオープンな場所でぶつかり合えれば面白いんじゃないっすか?」みたいなこれまた無責任な発言をした。

「そうですね、わかりました」と終始にこやかに黙って僕の話を聞いてくれていた永田さんは、それでも僕に出て欲しいと言う。僕は正直永田さんが何をやろうとしているのかよく理解していないまま出演を了承してしまった。 それから2ヶ月ほど経ってから、永田さんからYOAKEのパネリストが決まったと連絡があった。エイベックス・ミュージック・パブリッシングの谷口さん、文化庁の壹貫田さん、クリエイティブ・コモンズのチェンさん、そして「ブラック・ジャックによろしく」の2次制作完全フリー化で一躍有名になった佐藤さんを招集したという。そして改めて「そこに僕も出てほしい」とのこと。

永田さんは僕の妄想を現実にしてしまったのである。


2012年11月17日、YOAKEでのパネルディスカッション 「リスナーの自由、ミュージシャンの自由」の模様 左→右:虎岩正樹(筆者)、佐藤秀峰氏(漫画家)、ドミニク・チェン氏(NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事)、谷口 元氏(Avex Music Publishing 代表取締役社長)、壹貫田剛史氏(文化庁長官官房著作権課課長補佐)

「相違を公にする」というエンターテイメント

僕がいきなり冒頭でメジャーレーベルのHPのトップに出てくる違法DL実刑化に伴うユーザーに対しての警告文のメッセージについての「説明」を谷口さんにしていただいたイントロも含めて、実はすべてが打ち合わせ無しの進行だった。

もはや作る側と受け手側を分けることすら無意味だというのが僕の主張でもあり、逆に無断コピーは常に悪だという固定概念は商売の邪魔になるのではにないかというロジックから以前DrillSpinにこんな文章を寄稿させて頂いた。このディスカッションの冒頭で僕が紹介したケイティ・ペリーの事例である。

2012/8/14掲載:違法アップロードを認める権利

この主張に対して文化庁の壹貫田さんが非常に的確な発言をして下さった。「行政は法を押し付ける事が仕事ではない、ただ渋谷のスクランブル交差点を歩いている若者達にはそれが間違って伝わってしまっているようだ」と。同じ危機感を共有できた瞬間だったように思う。


壹貫田剛史氏

クリエイティブ・コモンズのチェンさんが提唱する「文化に自由を実装する」という思想は、僕が例に上げたケイティ・ペリーのような事例を見れば(少なくとも海外では)メジャーレーベルのビジネスモデルにも顕著に現れている。今後日本の音楽シーンではどのようにこの「自由」がどのように解釈されていくのかについて、オープンな場所で意見の相違を確認できた事は非常に有益だった。


ドミニク・チェン氏

本来はインディペンデントミュージシャンが出てくるべきだったのかもしれないが、ある意味漫画家の佐藤さんをお招きできたのはこのディスカッションのハイライトになったと個人的には思う。業界は違えども、漫画を録音物に置き換え、出版社をレコード会社に置き換えれば問題は共通であることは明白で、そういった意味では表現者の代表としての佐藤さんの一連の発言は明確で痛快だった。アーティスト自身が権利を理解、管理し、「自由」であることの大事さを明確に具現化することで経済的な結果も出している佐藤さんの事例は日本の音楽シーンにも大きなヒントを残してくれたはずだ。 終了後沢山の方々に「見ていてハラハラした」というコメントを頂いた。だとすればひとまず成功だったのだと思う(笑)。

言葉では言い表せない最大限のリスペクトと感謝を谷口さん、壹貫田さん、チェンさん、そして佐藤さんにこの場を借りて送りたい。僕の「子供の視点」からの無茶ぶりにそれぞれの立場があるにもかかわらず、真摯に、公の場で、フランクに発言していただいた。おかげでクローズな場所ですり合わせをするのではなくて、それぞれの立場や方法論は違っても目指す場所にブレが無い事を確認し、まずはオープンな場所で議論を始める事が大切なんだということは会場にいたすべての人に伝わったと思う。

後日、谷口さんから
「議論がやっと佳境に入ってきたところで時間切れでした。そのために、話し足りない=誤解されているかもしれない事だらけでの降壇。会場で聴いてくれていた皆さんの真剣な眼差しに答えるためにも、パート2をどこかでやらせてください。」


谷口 元氏

そしてチェンさんからは
「インターネットを起点として「自由」をもっと文化に実装したいと考え、活動している自分としては、権利を保有している企業や文化庁のような行政機関、そしてクリエイターがオープンにかつ緊張感をもって議論する場がもっと開催されれば良いと思いました。もしも2回目を開催するのであれば、谷口さんや壹貫田さんが、違法ダウンロードの説明に終始せずに、もっとポジティブな提言を行えるような流れで議論ができればと思います。」
 
とのコメントをそれぞれいただいた。

佐藤さんもTwitterで2回目への参加表明をして頂き、僕のDrillSpinの記事にも共感して頂いた。


佐藤秀峰

そして文化庁の壹貫田さんからもパート2への出演快諾だけでなくこんなメッセージを頂いた。
①クリエーターの皆さんも、ユーザーの皆さんも、コンテンツに興味がある人は、是非、著作権にも興味を持っていただき、ちょっとでいいので勉強してみてください。 特にクリエーターの皆さんは、「なぜ著作権制度というものがあるのか」という点に、思いをはせてみてください!きっと何かが見えてくるはずです。そして、何が見えるかは、皆さん次第です。それで良いのです。とりあえずは(笑)
②著作権(法)は、決して無味乾燥なものではありませんし、行政に押し付けられているものでもありません。ユーザーも含めて、コンテンツに携わる皆さん全員が、どのように著作権(法)を捉え、活用するのか。すべて皆さん自身の問題なのです。
③著作権制度に限らず、世の中、法律で何でも解決出来るわけじゃありません! 特に、コンテンツ・ビジネスを巡る状況は、日々激変しているからこそ、法律や 制度を変えることによってではなく、ビジネスやソフトロー(規範意識?)で柔軟に対応することのほうが合理的なことだってある、と僕は思います。そのためにも、 最初の①にあるように、ちょっとで良いから、みなさん、著作権(法)に想いをはせてみてください!

あれほど立場や意見が違っても参加者全員が「続編をやりたい」と言っていることが一番の収穫だったのかもしれない。もっとこまめに、常にオーディエンスを交えながら、オープンディスカッションを開催していくことを約束して終了となった。

Special thank you from my heart

このとてもROCKな企画を本当に実行してしまった永田さんに心から敬意を表したい。僕は20代前半から40になるまで海外にいたので日本の音楽業界の慣習やら常識を知らない。日本の音楽学校の校長をしていた時期もあるのでアカデミックなトピックとしては興味があったけれども、実体験的には全くと言っていいほど未経験者の僕を永田さんはファシリテーターにしてしまった。実際に当日の僕の進行に関しては賛否両論あるだろう。しかし、僕が「外」の立場から比較的ダイレクトにモノを言える性格だという部分を永田さんは買ってくれたのだと固く信じて、失礼を承知で僕は子供の自分を押し通した。そうすることで色々な意見が飛び交うことを永田さんは期待してくれていたのだと思う。

音楽にプライドを持って寄生するということ

個人的には、YOAKEで田中茉裕さんを始めて生で見れたことが衝撃だった。残響SHOPでもCDを置かせてもらっているので、曲はよく聞いていたけど、恥ずかしながら僕は一番前の席で彼女の歌を聞いて大泣きした。


田中茉裕

僕は自分の本番がもうすぐだというのに、田中さんの歌に泣かされながら、改めていつでも自分は「音楽に寄生する誇り高き寄生虫」でいたいことを自覚していた。僕自身、自分の音楽活動より、音楽をキャリアにしたいと思っている人のための教育をメインにやるようになった時に肝に命じた言葉である。田中さんのようなアーティストが心置きなく歌い続けられる社会を作っていくにはどうすればいいのか?彼女が歌を書けなくなってしまったら、46歳の僕は公衆の面前で泣く機会を失ってしまう。彼女のようなアーティストがいなくなってしまったら僕達のやっていることなど意味のないことを田中茉裕さんはワンフレーズで僕に思い出させてくれた。

その「誇り高き寄生虫」の大先輩として、永田さんは今日本の音楽産業が抱える構造的な問題に対してかなりの危機感を持って早急に横穴を空けなければならないと色々なことに取り組んでいる。YOAKEというイベントがそのひとつの集大成として無事終了したことは本当に永田さん個人だけではなく、日本の音楽シーン全体にとっても大きな前進だった思う。残響塾としてもこれからもどんどん協力していければと思っている。

実際にあれだけの大勢の方たちが音楽をキーワードに集まってきたわけで、作っている人も、届けてる人も、聴いてる人も、みんな音楽の側にいたいと思ってることは確かだった。多少見解や立場が違ってもすべての人をフラットにしてしまうのが音楽のパワーだとすれば、日本の音楽シーンを大きく動かすのは使い古されたビジネスプランではなくて、やはり音楽そのものなのではないか?

常にMusic First. そして Musician First.
アーティスト自身はもちろん、リスナーももう一度その原点に立ち返ってみる事で日本の音楽シーンにも「夜明け」が訪れることを確信している。

関連リンク

◆YOAKE:
http://www.facebook.com/YoakeMusicScene?fref=ts
http://www.yoake2013.jp/

◆一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント:
http://www.mcagent.info/
https://www.facebook.com/pages/一般社団法人-ミュージッククリエイターズエージェント/348041511936425

◆文化庁
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/index.html

◆AVEX GROUP
http://www.avex.co.jp/index.html

◆NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
http://creativecommons.jp


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◇ドミニク・チェン氏近著:
『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック
クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』ドミニク・チェン著


◇メディア:
【WIRED】[インタヴュー] フリーカルチャーという思想をめぐって:ドミニク・チェンとの対話
http://wired.jp/2012/07/09/freeculture/

◆佐藤秀峰
http://mangaonweb.com

◆残響塾
https://www.facebook.com/zankyojuku

■この筆者「虎岩正樹」の関連リンク

twitter:@toramas
Facebook:https://www.facebook.com/zankyojuku

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