読むナビDJ :第54回:Bandcampで盛り上がるインディーゲームの世界

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第54回:Bandcampで盛り上がるインディーゲームの世界

アメリカの音楽配信サイト、Bandcampで盛り上がっているインディーゲーム・ミュージックの数々。クラブ系、ロック、アンビエントからワールドミュージックまで。まったく知らなかった新たな発見があります!!

この記事の筆者

1981年石川県生まれ。東京大学大学院博士課程でポピュラー音楽と美学について研究、非常勤講師をつとめるかたわら、音楽やゲームなどの様々なコンテンツに関して執筆しているフリーランス。主な商業誌での原稿は、『ユリイカ』2011年2月号「ランキングとレイティング ビルボードとピッチフォークに見るポップの美学のゆくえ」、『ユリイカ』2010年9月号「「軽薄な聴取」 から 「ライブ回帰」 へ」、『CROSSBEAT増刊 ULYSSES』2010年10月号「オルタナティヴ・メディアとしてのビッグイシュー」 など。また卒業論文「音楽雑誌におけるロック批評の構造 雑誌『ロッキング・オン』における渋谷陽一の美学 」をGumroad上で販売。

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アーティストが売上のわずか15%(PayPal手数料をのぞく)を収めるだけというアメリカの革命的音楽配信プラットフォームのBandcamp。日本ではまだまだ認知度もユーザー数も少ないが、個人的に昨年一番利用した音楽サービスは間違いなくBandcampだった。

スフィアン・スティーヴンスアマンダ・パーマーといった海外のインディペンデント・アーティストは積極的に利用しているこのサービス。ユーザーにとっての最大のメリットは、ほとんどの音源が無料で全曲試聴できること!今年のグラミー賞最優秀新人賞にノミネートされているアラバマ・シェイクスフランク・オーシャンといったアーティストの音源も公開されている。

しかしながら、Bandcampを有名アーティストの音源試聴のためだけに利用するのはもったいない!そこには有名無名を問わず、恐ろしいほどの音楽が溢れており、グローバルな音楽シーンの最先端があるのだ。私個人の利用法は毎日、BandcampのWebサイトにアクセスし、中央のトップセールスや右端のスタッフ・ピックアップをチェックすること。(このトップセールスとスタッフのセレクトが微妙に異なるのが興味深い。トップセールスには有名アーティストの他、海外オタクカルチャーと関わりが深い音源が並ぶの対して、Bandcampのスタッフはいわゆる「インディー・ロック」的な音源をピックアップする。)


Bandcamp

今回は、そんな世界の音楽のるつぼとでも言うべきBandcampで盛り上がっているシーンの1つとして「インディーゲーム」を取り上げたいと思う。インディーゲームとは、ごく大雑把に言えば、個人や小規模なグループで開発したビデオゲームだ。海外ではゼロ年代にPCやXbox360などで、ゲームのダウンロード販売が根付き、多くのクリエイターがゲーム開発に参入した。そこには、従来のように販売会社から資金提供を受けずに、独立してゲームを制作するクリエイターたちが存在し、彼らが制作するのが「インディーゲーム」というわけだ。昨年2012年にはドキュメンタリー映画『Indie Game: The Movie』が公開されるなど、海外のインディーゲーム・ブームは既に最高潮まで到達した感すらある。


『Indie Game: The Movie』トレーラー、サウンドトラックはJim Guthrie(ジム・ガスリー)

そんなインディーゲームの世界とBandcampの関係は予想以上に深い。そもそもBandcampが現在のようなポピュラリティを獲得したきっかけは、人気の高いインディーゲームのデベロッパーたちがこぞってBandcampにゲームのサウンドトラックをアップロードして、販売を始めた2011年と言われている。当のBandcampのスタッフたちにすれば、この流れはまったくの偶然であり、予想外のことであったらしい。(スタッフが書いた以下のエントリが参考になる。「レコード産業の先導者としてのゲーム・サウンドトラック」)

ともかく、現在のBandcampがインディペンデントな音楽とゲームという2つの「インディー」文化の接点となっているのは非常に興味深い。そしてBandcampを通して音楽だけではなく、インディーゲームというカルチャーに触れることができるのはなかなか楽しい。実際のところ、これらのインディーゲームのサウンドトラックは音楽的にも非常にクオリティが高く、ゲーマー以外の人にも非常に魅力的な音楽であるのだ。

「ゲーム音楽」といえば、ファミコン世代の8bitのチップチューンなどの楽曲を思い浮かべる人も多いかもしれないが、海外のインディーゲームでは最先端のクラブ・ミュージックやインディー・ロックからアンビエントやワールドミュージックなど多種多様の音楽が溢れている。実際にインディーゲームに楽曲を提供するコンポーザーはインディー・ロックのアーティストや電子音楽のプロフェッショナルだったりするため、ゲームを遊ばないリスナーでもこれらの音楽を聴く価値はある(そもそも、試聴するだけならばタダなので、聴いて損はしない)。そして、彼らのようなインディペンデントなアーティストとゲーム・クリエイターのコラボレーションは、おそらく現在においてもっともクリエイティブな試みといって良いだろう。

今回、有名なインディーゲームのサウンドトラックから、ゲーマーではないリスナーでも楽しめる10曲をピックアップする。インディーゲームの世界の超有名作品ばっかりなので、ゲーマーの人は知ってて当たり前のタイトルばかりで退屈かもしれない。ゲームのサントラということもあってインストが中心なので、作業用BGMにはぴったりだろう。

C418「Sweden」 from 『Minecraft』




もはや「インディーゲーム」という言葉と関係なく大ヒットしている『Minecraft』。シリーズ累計2000万ダウンロードという驚異的な人気を誇る本作のサウンドトラックをつとめるのは、C418ことDaniel Rosenfeld(ダニエル・ローゼンフェルド)だ。現在、『Minecraft』を開発しているMojang(モヤング)の従業員で、サウンドトラックだけではなく、ゲーム内の効果音なども手がけるアーティストだ。

クラシカルなピアノ曲を基本としながらも、若干荒いサウンドのテクスチャーはドット絵と3Dが合わさった『Minecraft』の世界観に相応しいBGMになっている。Xbox360版のトレーラーであるYouTubeはクラブ・ミュージック風のリミックスになっているが、公式サウンドトラックは全体として癒し系のアンビエント。疲れた脳をほぐす心地の良い楽曲が詰まっている。

『Minecraft』公式サイト:https://minecraft.net/

おまけ


Laura Shigihara「Zombies On Your Lawn」 from 『Plants vs. Zombies』




日本人の父とフランス系アメリカ人の母を持つLaura Shigihara(ローラ・シギハラ)は、インディーゲーム界のアイドルとでも言うべきシンガーソングライター。幼いときからピアノを習うとともに、ビデオゲームにどっぷりハマった彼女は、数多くのゲームソングをピアノでアレンジしていたという。一時は日本のレコード会社から歌手としてデビューするという話もあったそうだが、彼女はゲーム会社に楽曲提供する道を選んでいる。

本作は日本でも有名なカジュアルなタワーディフェンスの『Plants vs. Zombies』に含まれるヴォーカル曲だ。そのキュートな声とポップなメロディーは日本人の耳にも非常に馴染みがよく、英語バージョンと共に日本語バージョンもある。『Plants vs. Zombies』以外の様々なゲームに楽曲を提供するとともに、そのキュートな歌声を響かせている。

『Plants vs. Zombies』公式サイト:http://www.popcap.com/games/plants-vs-zombies/

Danny Baranowsky「Hot Damned」 from 『Supermeatboy』




Edmund McMillen(エドモンド・マクミラン)とTommy Refenes(トミー・レフリーデグス)のTeam Meatの2人が制作した『Super Meat Boy』は超シンプルだが凶悪な難易度のジャンプアクションゲームだ。そのハードコアなゲーム内容にふさわしく、サウンドトラックもチップチューンとディストーションギターを混ぜあわせたロックな音楽だ!コンポーザーのDanny Baranowsky(ダニー・バラノウスキー)は、『Super Meat Boy』以外にも『Canabalt』や『The Binding of Isaac』といったインディーゲームに楽曲を提供している。

だが本作の音楽の特徴は、カリフォルニア州サンタクルーズで育ったEdmund McMillenの趣味が反映されているだろう。メルヴィンズのTシャツを着て、タトゥーを入れまくっているMcMillenの姿はゲーム・クリエイターというよりも、西海岸のハードコア・パンクスに見える。実際に彼は、ゲームだけではなく、アンダーグラウンド・コミックなどを制作してきたパンク・カルチャー出身のクリエイターだ。

『Supermeatboy』公式サイト:http://supermeatboy.com/

Jim Guthrie「The Whirling Infinite」 from 『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』




Jim Guthrie(ジム・ガスリー)はカナダのシンガーソングライター。もともとカナダのインディー・ロック・シーンで活躍していたバンドマンだが、今ではiOS向けに開発されたゲーム「Superbrothers: Sword & Sworcery EP」のコンポーザーとして有名だ。本作の後、彼は冒頭で紹介したドキュメンタリー映画『Indie Game: The Movie』の音楽も手がけている。彼は単にゲームに楽曲を提供するだけではなく、本作に「出演」までしている。

そもそも『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』は美しい音響とレトロなドット絵で楽しむアーティスティックなゲームである。名前の通り、本作はゲームというより「ゲームを模したサウンドトラック」とでも言うべきものだ。全編に渡ってJim Guthrieが作曲した音楽はミステリアスな雰囲気にマッチしている。ゲーム・スタジオの『Capybara Games』はトロントから支援を受けて、本作を制作したそうで、カナダとではこのようなアーティスティックなプロジェクトを自治体がサポートするという取り組みが行われている。

『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』公式サイト:http://www.swordandsworcery.com/

Chipzel「Focus」 from 『Super Hexagon』




インディーゲーム界のミニマリストとでも言うべきTerry Cavanagh(テリー・キャヴァナフ)が制作したiOS向けゲーム『Super Hexagon』。配信3日で1万ダウンロードを達成するという大ヒット作品なのだが、その内容は迫り来る壁を避けるだけという超シンプルかつ高難易度なゲームだ。最初は10秒と生き残れないという鬼のようなゲームで、トレーラーを見るだけでは一体このゲームのどこが面白いのかさっぱり分からないだろう。

しかしながら、実際にゲームをしなくても、Chipzel(チップゼル)が提供したチップチューンは十分にカッコイイ。ChipzelことNiamh Houston(ニアム・ヒューストン)は北アイルランド在住の女性アーティスト。主にGAMEBOYを利用して、ダンストラックを制作している。また実際にゲームをやってみると、シンプルに見えるこのゲームが音楽と上手く調和していることが分かる。ミニマリストTerry Cavanaghのグラフィックセンスも素晴らしく、一人でVJをやっている気分になる。

『Super Hexagon』公式サイト:http://superhexagon.com/

Kan Gao「To the Moon - Main Theme」 from 『To the Moon』




『To the Moon』は日本のRPGツクールで作られた「RPG風」のアドベンチャーゲームだ。ゲームといってもお話は一本道でゲームらしい部分は非常に少ない。しかし、その優れたシナリオとノスタルジックで美しいドット絵、そして叙情的な音楽は高く評価されている。

楽曲を提供しているカナダの作曲家Kan Gao(カン・ガオ)は、本作のデザイナーもつとめる。動画はメインテーマを元にした楽曲で、後半ではLaura Shigiharaが歌う挿入歌が聞くことができる。メインテーマにつながる2つだけの音を元にした楽曲はゲーム内で非常に重要な意味を持つため、本作も『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』同様、音楽に重きを置いたゲームとなっている。

『To the Moon』公式サイト:http://freebirdgames.com/

Darren Korb「Build That Wall (Zia's Theme)」 from 『Bastion』




Supergiant Gamesによって制作された『Bastion』は、絵本のような美しいビジュアルと洗練されたゲームデザインから数々のアワードに輝くアクションRPGだ。ビジュアルだけではなく、音楽の面でも非常に独特で、中東アラブ風の民族音楽とブルースが合わさった雰囲気が魅力だ。

コンポーザーであるDarren Korb(ダレン・コーブ)は自身でその音楽を「acoustic frontier trip hop」と呼び、アメリカのフロンティアとエキゾチックなファンタジー世界に合わせた作曲を行ったといわれる。ビデオはDarren Korb自身のギターとAshley Barrett(アシュレイ・バレット)による生演奏。かなりシブいブルース系の楽曲で、何も言われなければとてもゲーム音楽とは思えない雰囲気をしている。

『Bastion』公式サイト:http://supergiantgames.com/

Tomáš Dvořák「The Castle」 from 『Machinarium』




チェコのAmanita Designの『Machinarium』はファンタジックなロボットが登場するポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーゲーム。海外では流行りのスチームパンク的な世界観であり、音楽も電子音とアコースティックが合わさったかなり個性的ものに仕上がっている。

楽曲を提供したTomáš Dvořák(トマシュ・ドヴォルザーク)もチェコの作曲家であり、クラリネット奏者。本作のサウンドトラック以外にもFloex(フロークス)という名義でBandcampなどから音楽をリリースしている。アンビエント、エレクトロニカ、ジャズなどのジャンルを軽々と横断する彼の音楽は実験的ながらも、非常に聴きやすい。

『Machinarium』公式サイト:http://amanita-design.net/games/machinarium.html

Disasterpeace「Compass」 from 『FEZ』




『FEZ』はゲーム開発者のカンファレンスで「日本のゲームはクソだ(Your games just suck)」と発言して物議を醸したクリエイター、Phil Fish(フィル・フィッシュ)が制作したゲーム。ドキュメンタリー映画『Indie Game: The Movie』を見れば、彼がいかに苦労して5年間もかけて本作を制作したかが分かり、この発言は一時の気の迷いであったことが理解できる。

ゲームの内容は2Dのアクションゲームでありながらも、奥行きを持った独創的な世界を探索するパズルゲームだ。楽曲を提供したのはDisasterpeace(ディザスターピース)ことRich Vreeland(リック・ヴァリーランド)。アメリカのバークレー音楽院出身のコンポーザーだ。サイン波を多用したサウンドは独特なサイケデリックな高揚をもたらすとともに、ドット絵描かれた『FEZ』の世界観とも非常にマッチしている。

『FEZ』公式サイト:http://fezgame.com/

Jasper Byrne「Hotline」 from 『Hotline Miami』




昨年、2012年はインディーゲームが大ブレイクした年であったが、本作『Hotline Miami』は昨年リリースされたインディーゲームの中でも年間ベストとしてしばしば挙げられているもの。実際に最近、インディーゲーム好きの人に会う度にこの作品の名前が挙がる。

トレーラーはマイケル・マンの映画のような雰囲気だが、ゲームの内容はそれ以上に血なまぐさいバイオレンス。殺し屋になってひたすら敵をなぎ倒していくシンプルなゲームだが、サイケデリックな音楽で異常なテンションになる。

制作したのはCactus(カクタス)ことJonatan Söderström(ヨナタン・ゼーダーシュトレーム)というスウェーデンの有名なゲーム・クリエイター。サウンドトラックには、ここで取り上げたJasper Byrne(ジャスパー・バーン)はドラムンベースシーンのアーティストで、『Lone Survivor』などの他のインディーゲームにも楽曲を提供している。他のアーティストも多数参加しており、どの曲も半端なくかっこいい。80年代をテーマにしたゲームとあって、楽曲はEDMっぽいものもあるが、よりディープでシリアスでドラッギー。

『Hotline Miami』公式サイト:http://hotlinemiami.com/

■関連リンク

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Bandcampの日本語解説ページ
Bandcampのメリットなどについて
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卒業論文:「音楽雑誌におけるロック批評の構造 雑誌『ロッキング・オン』における渋谷陽一の美学

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