コラムスピン :第11回:CDでなければならない理由はないのでは?

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第11回:CDでなければならない理由はないのでは?

~自分の音楽を広めるための海外での動き~

「なぜCD」リレー連載6回目は、いま注目の渋谷のミュージックスポット、ワークショップ「残響塾」塾長、虎岩正樹さんからの寄稿です。ミュージシャンとして海外滞在歴が長かった虎岩さんが見る、世界のトレンドとは?

この記事の筆者

残響塾 塾長、AMTグループ 非常勤ファシリテーター、シルク・ドゥ・ソレイユキャスティングパートナー etc。高校時代からバンドにのめり込み、イギリスの音大生時代は学業のかたわらヨーロッパ全土でストリートミュージシャンとして活躍。1993年に渡米し、L.A.にあるMI Hollywood を卒業後、同校のギターインストラクターに日本人として初めて就任。2000年にはIndependent Artist Programを同校で立ちあげ学科長に就任する。全米ネットワークでのテレビ出演をはじめ、アメリカでのレコーデイングやライヴの経験も多数。帰国後は音楽学校MI Japanの校長を2010年5月まで務めた。2011年5月に「残響塾」を残響レコードの元で立ちあげ、音楽の分野に限らず日本のインディペンデントマインドを束ねる活動に取り組んでいる。毎週月曜日に同塾で開催している「PrsnT!」というトークライヴイベントは全国5都市で開催中。また孫正義氏の後継者候補を育成するソフトバンクアカデミアグローバルCEOコースの社外生枠で上位入校を果たしている。

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確かに最近「CDが売れない」という話をよく色々なところで耳にします。色々な統計を見てもこれは日本に限らず間違いない事実のようで、各方面でいろいろな方がその理由について語っていらっしゃいますので、僕はこのトピックを日本の外での事例をあげながらちょっと違う角度から考察してみたいと思っています。

CDが売れなくても困らないIndependent Artist達の台頭

今CDが売れなくて困っている人達は決まって既存の流通をベースにした人達です。確かに「CD」を「売る」という形で音楽を広めてきた人達はアーティストを含め確かに大変な時代です。しかしCD=音楽 売る=広めるという事が大前提である必要は果たしてこれから必要なのか?というのが最初の疑問です。

最初にここで紹介するジョナサン・マン というアメリカのアーティストは、毎日必ず一曲作曲し、録音して、そのPVまで制作してYou Tubeにアップロードするという活動をベースにしています。本人も言っていますが、一曲一曲のクオリティがそんなに高い訳ではないのですが、もう既にこの活動を1,000日以上休む事なく続けている事自体が彼の「売り物」なのです。iPhone4の発売直後、アンテナに設計ミスがあったことが世界中で話題になった時、Appleの大ファンであるジョナサンが、スティーヴ・ジョブズの(謝罪)会見前夜にiPhone4の「応援歌」を作曲してアップしたところ、当日スティーヴ・ジョブズが会見の際にその曲をオープニングのテーマとして採用したことで彼は一躍有名にになりました。この曲の再生回数は現時点で121万回、購入したい人は99セントで買えます。更にアルバムは一年単位でまとめられていて、例えば2年目のアルバムは364曲入りでオープンプライスです(笑)。

ジョナサン・マン(Jonathan Mann)ホームページ
http://www.jonathanmann.net/index

iPhone 4 song

Jonathan’s bandcamp

ここで注目したいのは彼のビジネスモデルの中にCDというメディアを買ってもらって音楽を広めるという概念が全く存在していない事です。それよりSong A Dayのジョナサンとして認知されることで生まれる「商品」を彼は売り物にしている。実際に既存のレコード会社を通していれば364曲入りのアルバムを出すという事すら無理な話ですよね。

Jonathanのような「有名な無名アーティスト」だけがこういった動きをしているわけではもちろんありません。例えば一時期EMIに所属していた「メジャーアーティスト」であるオーケー・ゴー(OK GO)は、5ドルの予算で作ったデビューPVが爆発的に世界中に広がり、今ではメジャーを離れ奇想天外なPVのアイディアを武器に直接大企業をスポンサーとして招き入れる手法でとてもフリーな活動スタイルを手に入れたと言えるでしょう。

オーケー・ゴーの5ドルの予算で作った最初のPV

オーケー・ゴーの最新PV (made in partnership with Chevrolet)

もうおわかりですよね?CDが売れなくなったのは音楽が聴かれなくなったからではもちろんありません。いかにCDを売るかということを考えている人を横目に、今回紹介したようなCD以外で音楽を広めているアーティスト達に「時間」を取られているという比較的単純な理由なのです。

例えば、日本で洋楽が売れないのは洋楽が突然つまらなくなったわけでもなく邦楽のクオリティが飛躍的によくなったからでもありません。 本当に新しいエキサイティングな世界中のインディペンデントアーティストの音源はもうかなり前から大手のCD屋さんには並んでいないのです。音楽業界という良くも悪くも「沢山売らないと儲からない」システムに乗らないと音楽が広まらないという時代が終わった事に世界中の大勢のアーティストが気づきだしたのです。試し前述したbandcamp(バンドキャンプ)でランダムに音楽をサーチしてみて下さい。皆さんが知らなかったあなたの好みにあった素敵な音楽に(無料で)巡り合えるのにそんなに時間はかからないはずです。去年遂に日本の音楽市場がアメリカの市場を抜いて世界で一番大きな市場になったというニュースは、裏を返せば日本以外の国では着々とそれまでの物流ありき、音源販売ありきのビジネスモデルから脱却しつつあるという見方もできませんか?

流通ビジネスが主体だった時代から自我を持ったアーティストのサポートビジネスの時代へ

ジョナサンオーケー・ゴー(OK GO)のように今までの流通ありきのビジネスモデルでは考えられなかったような独自の新しい広め方で自分の音楽を世に出しているアーティスト達を僕はインディペンデントアーティストと呼んでいます。世界で確実に主流となりつつある流れをいち早く掴んでその動きをサポートする新しい音楽ビジネスもここ数年沢山出てきました。前述したbandcampというサービスで誰でもネット上で小売店を持てるようになりました。自分で曲の値段が決められるだけでなく、オープンプライス(投げ銭)というファン側に価値を決めてもらう事ができるという画期的なシステムです。ここには「音楽には定価がなくてはならない」という固定概念は既にありません。

bandcamp(バンドキャンプ) ホームページ
http://bandcamp.com/

マイクロファンディングという発想も本来のレコード会社の存在意義を再考させるだけの勢力になりつつあります。Kickstarter(キックスターター)のようなサービスで不特定多数の大衆から自分のプロジェクトに小口で投資してもらうというやり方が簡単にできるようになった今、CDを発売したいから初期投資をしてもらうという理由だけではレコード会社と契約する事にあまり意味がなくなってきたのです。

Kickstarter(キックスターター)
http://www.kickstarter.com/

その他にもtunecoreのようなiTunes Storeを始めとする世界中のデジタルストアに自分の音楽を手数料だけで契約してくれるサービスや、reverbnationのようにインディペンデントアーティストのグローバルプロモーション、マーケティングまでもを一手に引き受けてくれるサービス等、世界的にはアーティストと音楽ビジネスの関係だけでなく、音楽ビジネスのあり方そのものも大きく変革している事は間違いなさそうです。

tunecore(チューンコア)
http://www.tunecore.com/
reverbnation(レヴェブネイション)
http://www.reverbnation.com/

パッケージ音楽の未来と「後追い日本」の役割

僕も若い頃は「ジャケ買い」をよくしましたが、今本当の意味でジャケ買いに値する経験ができるのはbandcampやspotifyのような「場所」だと思っています。しかもストリーミングで全部の曲が聴けてしまうので昔に比べたらはずれる確立はかなり低いというオマケ付きです(笑)。ここで僕が今一番危惧しているのは日本の音楽業界がCDを売るというビジネスモデルに固執するあまり、日本の一般的な音楽ファンがそういった新しい音楽に探せる仕組みに触れられていないのではという点です。その証拠に今日僕が紹介した世界的にアーティストに使われている新しい音楽ビジネスのほとんどが日本語化されていません。それだけ日本での利用率が低いか、最初からそれだけの需要が見込めないと判断されているのが現状です。

と言っても、個人的にはモノとしての音楽が残って欲しいという想いは強くあります。これだけ配信だなんだって言ってますが、残響レコードは残響shopというCD屋さんも渋谷のど真ん中でやってますしね(笑)。全ての街からCDショップはもちろん書店までもが消滅しつつあるアメリカみたいになっちゃたらつまらないし、そこには答えがあるとも思っていません。しかし世界的に見ればデータとしての音楽が流通の主流になる(既になっている)こと、音楽産業の主権はアーティストに戻りつつある事は誰も否定できない事実です。だからこそ日本の外で起こっている「事実」をしっかりと理解し見極めた上で、日本からの回答を世界に向けて発信していく必要があるような気がしています。僕は「街のちょっと頑固だけどやたら詳しいオヤジが居る店」の復活がカギになると個人的には考えていて(笑)。利便性だけを考えたらどうやったってネット配信にかなうわけがない。だったら「不便さ」や「おせっかい」をどうやってもう一度楽しめる価値観として復活させるかが、パッケージ音楽の将来を決めるんじゃないかな、、?と、ふと考えたりします。まあこれは音楽の世界に限ったことじゃないですが、合理性だけでは動かない日本人の「遊びゴゴロ」が世界の新しいスタンダードなったらカッコイイですよね!

良くも悪くもこの混沌とした時代に正しい答え、だれもが信じていいマニュアルみたいなものはしばらく出てこないと思っていた方がよさそうです。だから漠然と不安でいたり現状維持でいるのか、それともこれを最大のチャンスだと思うのか、、、、僕は後者のほうが単純にROCKっぽくてカッコイイと思ってますがw,、、、これからの日本の音楽シーンを担うみなさんのご意見を色々な立場から是非聞きたいですね!お待ちしてます!

■残響塾
https://www.facebook.com/zankyojuku
http://zankyojuku.tumblr.com/

説明:
「学校じゃない学校」~ ますます「他人の正しい」には任せきれない時代になりつつあります。自分の「正しい」を持っている人を社会は求めています。自主性、クリエイティビティを尊重することの大事さをアーティストの視点から社会に継承していくために「残響塾」を開校しました。すべてのひとが持っている「ユニークなプロセス」を簡単にシェアできる新しい空間を皆さんと創っていければと思っています。

ミッション:
日本のindependent Thinker達を集結します!

東京都渋谷区神南1-14-1 コーポナポリ1F
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■この筆者「残響塾 塾長 虎岩正樹」の関連リンク

twitter:@toramas
Facebook:https://www.facebook.com/zankyojuku

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