コラムスピン :第68回:2013年後半の音楽ストリーミングサービスを占う

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第68回:2013年後半の音楽ストリーミングサービスを占う

~Googleの新音楽サービスから、音楽ストリーミングに起こっている「トレンド」を探る~

5月中旬に発表されたGoogle Musicですが、アメリカのみのサービスとなるため情報に乏しく「どうなのよ?」という感じ。アメリカ国内での反応も含めたレポートと、今年後半の大きな流れを予測しました。

この記事の筆者

学生時代は米国オレゴン州で生活。高校でネットラジオ、大学でNapsterを体験、以来オンラインテクノロジー x 音楽コンテンツ x 人の在り方について関心を持つ。海外のデジタル音楽トレンドをテーマに、ソーシャルな音楽サービスや業界の最新動向、デジタルを活用したアーティストのクリエイティブなプロモーション活動事例をいち早く日本で紹介するブログを運営しています。ジャズのアナログレコードから、ネットでの音楽発掘まで、幅広くインディーズ系アーティストを応援しています。

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やっぱり2013年は音楽ストリーミングサービス元年になりそうですね。

Googleは5月に新しいサブスクリプション型聴き放題音楽ストリーミングサービス「Google Play Music All Access」(以下GPMAA)を発表し、即日からサービスを開始しました。開発者向けカンファレンス「Google I/O」で音楽について発表を行ったのは、2011年の「Google Play」(元Music Beta by Google)以来となるので、実に2年の年月が経っていることになります。
GPMAAは聴き放題型の月額定額制音楽サービスです。しかし残念ながらそしていつものように、大手企業Googleが発表したサービスにも関わらず、GPMAAは現在米国のみでしか利用ができません。従って今回の発表が日本のメディアでは騒がれることはありませんでした。まだ一般的な知名度は一部の業界ウォッチャー以外には広がっていないのではないでしょうか?

Google Play Music All Accessは、Spotifyキラー?

ここで簡単にGPMAAの機能をご紹介したいと思います。

Webサイトandroidcentral.comの記事でのキャプチャ

  • デジタルロッカー
    GPMAAではクラウド上に自分が持っている楽曲を最大2万曲まで無料で保存することが可能です。またAndroidのダウンロードストア「Google Play」で購入した音楽コンテンツも自動で保存されます。GPMAAでは、クラウドからのダウンロードも可能になります。リスナーはGPMAAで自分が保存した楽曲にアクセスしてストリーミング再生することが可能になります。
  • 音楽ストリーミングサービス
    GPMAAはSpotifyやRdioなど音楽ストリーミングサービスと競合する音楽サービスです。GPMAAの「数百万曲」の楽曲カタログ(正確な曲数は公表されておらず)自由に音楽を再生することが可能になります。音楽ストリーミングでは当たり前になった検索機能やプレイリスト作成機能に加え、「Listen Now」「My Library」「Playlists」「Explore」などといったフィーチャーから、新しい音楽をレコメンドしてくれたりキュレートされたプレイリストで簡単に音楽再生を始められたりと、リスナーに多彩なオプションを提供してくれます。
  • ラジオ機能
    アーティスト、アルバム、楽曲を選ぶと、近しいジャンルやアーティストを自動的に再生し続けてくれるラジオ機能があります。また、何を聴いていいのか決めかねている時に便利なのは、リスナーがこれまで聴いた曲の履歴から判断して自動でオススメのステーションをレコメンドしてくれる機能です。またラジオ再生中に次の楽曲が見えるよう、楽曲リストを表示してくれるので、好きな曲だけを先に移動させたり、曲を削除することなど、自分の好きな聴き方にパーソナライズド化することができます。

以上がGPMAAの主な機能になります。Googleはこれらのサービスを月額9.99ドルで提供しています。こんなに多くの機能を9.99ドル? すごく魅力的なハイブリッドなサービスのように思えますね。なぜなら、Spotifyなど従来の音楽ストリーミングサービスは個々の機能は提供できても、3つを網羅したサービスは、どの企業も実現していません。こんなに便利機能を満載した総合的なサービスだったら、今使っているサービスを解約して即利用したくなるのでは?とGoogleは期待していることでしょう。

期待を満たせなかったGoogleの音楽サービス

しかし始まったばかりのGPMAAは、大きな驚きを提供することができませんでした。Googleの発表をレポートしたアメリカのメディアやブロガーの多くは、GPMAAを手放しで称賛することはありませんでした。中には、GPMAAの発表を見たメディアの中には、「GoogleはiPhoneの後にAndroid、Facebookの後にGoogle+、そしてSpotifyの後にGPMAAを作った企業」と見なす意見を持つ人も見受けます。新しいサービス分野への進出においてGoogleは二番煎じのイメージが否めないことから、今回の音楽サービスも、先行するSpotifyやPandoraといった企業の機能をアレンジしているように映ります。そして、肝心のユーザーが音楽サービスに抱いている期待を満たすことができませんでした。

GPMAAが達成できなかった期待値とは何か?以下に簡潔にまとめてみました。

  • マルチプラットフォーム対応不可
    現在はAndroidとウェブブラウザでの利用のみに限られています。しかし多く人はGPAMMがiOS対応することに期待していました。また他社が提供しているようにテレビやセットトップボックスなどデジタル家電への連携も皆無な状況でした。先日、Google幹部がiOS対応を数週間以内に始めることを明らかにしました。
  • 米国のみでの展開
    さほど大きな驚きではありませんが、GPMAAも他社サービス同様に米国のみでの展開に留まります。従って日本からの本格的な利用は現在できません。Googleは海外展開に関しては、コメントをしていません。

    Google Play日本語版サイト
  • ソーシャルメディアとの連携と共有機能
    GPMAAはGoogleのサービスとしては当然ながら自社のSNS「Google+」との連携が標準搭載されています。一方で他社サービスが強調するFacebookとTwitterとの連携は実現していません。よって音楽を友人と共有したい場合は、Google+のみでしか共有出来ないのが現状です。
  • 有料プランのみ
    大きな驚きを与えたことと言えば、GPMAAが有料プランでの展開のみだったことです。価格は月額9.99ドルで、30日のフリートライアルが利用可能になっています。しかし、SpotifyやPandoraのように無料プランはありません。またSpotifyやRdioのように他社が提供する2種類の有料プランも存在しません。

以上の4点が発表時点で期待を大きく裏切られた形となりました。4番目の料金問題以外はソフトウェアのアップデートによって将来的に解決できる問題で、今後への期待にはなっています。

2013年後半の音楽ストリーミングサービスを占う

Googleの音楽サービス参入は、上で記した通り、魅力と不満が交わった発表でした。一方で、13年ぶりにプラス成長した昨年の世界の音楽市場を考慮すると、業界のビッグネームであるGoogleの参入は業界全体にとって大きな転換期となるかもしれません。これは音楽業界だけでなく、大手企業、スタートアップ、一般消費者を巻き込んだ音楽サービスのうねりの始まりと考えてもよいのではないでしょうか?

2012年の音楽売上、ナップスター登場以来初めて世界的にプラス成長、デジタル音楽売上がさらに拡大


ここでは、2013年後半に音楽サービス分野がどのように変化していくかを大胆に占ってみたいと思います。ここに挙げてみた3つのトレンドは、専門的な観点ではなく、どのように一般消費者まで音楽サービスが拡がるかを考慮して挙げました。

  • 大手IT企業の参入
    今回はGoogleが新たに音楽ストリーミングサービスの分野に参入を果たしました。そして今後期待されるのは、デジタル音楽最大手であるAppleが新しい音楽サービスを何時開始するかです。このことからも、これまでは比較的スタートアップが中心だったデジタル音楽サービスの分野に、2013年後半は大手テクノロジー企業が本格参入または強化してくると予想されます。

    予想するだけでもAppleの他に、Amazon、高級ヘッドフォンブランドの「Beats by Dr. Dre」、Microsoft、サムスンが参入またはサービス強化を狙ってくるでしょうし、Google傘下のYouTubeも独自にサブスクリプション型サービスの展開を試みています。大手企業の参入で何が変わるのか?それは彼らが持つ技術、マーケティング、資金、エコシステムが業界内に注入されることで、音楽サービスがよりアクセシブルなモノへと変化することでしょう。彼らの存在を追うことで、音楽サービス全体に起こる変化の方向性が見えてくるのではないでしょうか?
  • スポークスパーソンの存在
    Googleの発表に欠けていると感じたのは、音楽に関するスポークスパーソンの存在でした。デジタル音楽が普及するこれからの音楽サービスの世界では、ビジネス層やメディアといった専門的な層への啓蒙と、一般消費者への啓蒙と全く違うターゲットへの訴求が同時に必要になるでしょう。音楽サービスに理解を得て浸透を促すためには、強烈なパーソナリティとビジョンを持つスポークスパーソンの存在が絶対に必要だと感じます。

    例えば他社の音楽サービスを見てみると、必ずAppleでは故スティーブ・ジョブズ、Spotifyでは若手経営者のCEOダニエル・エクや投資家のショーン・パーカー、Beatsなら有名音楽プロデューサーのドクター・ドレーとレコード会社社長でプロデューサーのジミー・アイオヴィン、Pandoraならタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた創業者のティム・ウェスターグレンがいます。これらの企業は彼らが存在することによって、より顔が見えやすい企業となりサービスを人の言動で伝えることができるようになります。

    さらに、音楽サービスに必要な人材はエバンジェリストの存在です。サービスを一晩で普及させることは不可能です。どんなにSNSや広告を使っても実現出来ません。そのためには、日頃から音楽サービスの普及に貢献してくれるサポーター的存在のエバンジェリストが、これからの時代はオンライン、オフライン、ソーシャルの世界で重要視されるでしょう。
  • マス層向けのサービス設計
    有名企業が参入を始めると、一般消費者(アーリーアダプター以外)にも音楽サービスの認知度は高まるでしょう。そこで、最も期待されるのが、マス層向けの使いやすいサービスの設計です。GPMAAがiOSなどその他のプラットフォームに展開が期待される最大の理由としては、Androidユーザーに制限することなく一般消費者でも利用可能となることです。またスマートテレビ、セットトップボックス、デジタル・オーディオプレーヤーなどの家庭デバイス、そして車載システムなど、一般消費者がどんな環境にいても、いつもと同じ音楽環境を実現できるように周辺のデバイスへの対応も必要になってきます。つまりマルチプラットフォーム化・マルチデバイス対応は、マス層に向けて音楽を日常化し普及を促進しやすくします。

    また、プラットフォーム・デバイス対応するだけではなく、一般消費層が本当に求めている機能を追求する流れが本格化すると思います。それは単に「ソーシャル機能を追加」することでも「楽曲数を増やす」ことでもありません。モバイルキャリアによる決済、SNSと連携したコミュニティ機能、国際展開とローカリゼーション、レコメンデーションやキュレーションによる「音楽発見(ミュージック・ディスカバリー)」の強化、「セレンディピティ」と「パーソナリゼーション」による音楽発見の楽しみ方の訴求など、「新しい音楽体験」を可能にしてくれる本質的な魅力がますます追求されると感じます。

3番目の予想は、音楽ライターの柴那典さん のコラムと同意するところが大きいので、こちらもご覧ください。

「聴き放題」だけでは音楽ストリーミングサービスが成功しない理由

2013年は多くの「サブスクリプション型音楽サービス」が開始する年となるはずです。日本でもレコチョクBestやGroovy、KKBOXなどが始まり、Spotifyの上陸も噂されています。音楽業界にとっては音楽サービスの大きな変化の一年になるはずです。また、Googleの新サービスが示すように、大企業もデジタル音楽に関心を示し始めています。そして恐らくGoogleやAppleは日本市場も視野に入れて動いていることでしょう。

彼らの存在は、音楽サービスに変化をもたらしてくれます。それはとてもポジティブな影響となるでしょう。2013年後半には、音楽サービスがアクティブなリスナーやテクノロジーのアーリーアダプター向けだけのツールではいけないという意識が高まるはずです。カジュアルなリスナーや一般消費者にまで理解が及ぶ、アクセスしやすいパーソナルな音楽体験が求められている時代がすぐそこまで来ています。

一般消費者にまで音楽の魅力を訴求できるサービスがいち早く登場することを願って、そして2013年後半のさらなる変化に期待しています。

■この筆者「Jay Kogami (ジェイ・コウガミ)」の関連リンク

ブログ「All Digital Music」:http://jaykogami.com/
Twitter: http://twitter.com/jaykogami
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