コラムスピン :第74回:紙の編集という呪縛 ~紙のウェブ化ではない新しいかたちとは?~

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第74回:紙の編集という呪縛 ~紙のウェブ化ではない新しいかたちとは?~

仕事の中でも外でもよ~く話題となる、メディアとしての「紙」と「ウェブ」。数ヶ月間あたためたテーマです。皆さんのご意見も聞かせてください!

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大好きな音楽や雑誌などの未来について、日々思案。メジャー・インディー/国内外問わず、素晴らしき出版物やウエブコンテンツ、音楽やアートが世に広く届くように願いながら、今日も新しい動きに食指を動かし、感情たっぷりに発信中。

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休刊する雑誌、減って行く書店。けれど“誰でも発信者”時代はやっぱり楽しい

自分が“ロックバンドの魅力”に目覚めたのは、忘れもしない1993年の9月。ユニコーン解散の折に初めて彼らの曲に触れた当時小6の自分は、それまでのJ-POP路線から一気にバンドサウンドばかり聴くようになり、中学に入ってからはお小遣いを貯めてはCDを買い、ソロデビューしたばかりの奥田民生小沢健二が掲載されている音楽雑誌を片っ端からチェックしておりました。それに加えて、ひとりっこで鍵っ子だった自分の帰宅後の遊び相手といえば、スペースシャワーTV。雑誌や音楽専門チャンネルやラジオ、そしてレコードショップやライブハウスというものが網目のようになって、音楽好きの自分を包囲してくれている素敵な時代環境だったなあ、と思い返してみたりします。雑誌や広告業界の仕掛けというものが、“バブル後の何も無くなったけれどすべてがあった時代”(NHKで放映していた『AIR JAM』スペシャル番組で浅野忠信氏がこう表現されていて、まさに!と思ったのでした)に面白く、オルタナティブな手法で機能していたなあ、と。

そんなふうにメディアの恩恵を存分に受けてきたこともあって、現在も紙とウェブメディアの仕事に携わり、音楽への愛も変わらず持っている自分ですが、時は経ち、気づけば紙媒体の音楽雑誌はほとんどがその威力を失いつつあるような気すらするわけで。なんだか哀しい気分を払拭するべく、今回は、“これまで紙媒体で活躍してきた編集者がこれからすべきこととは何だ?!”というテーマを、私がかつて大好きだった“音楽雑誌”を中心に考えてみたいと思います。

『STUDIO VOICE』が2009年、『SNOOZER』が2011年休刊。そして今年も『WHAT’S IN』『PATi PATi』といった、かつての邦楽好きなら誰もが一度は手に取ったことがあるであろう音楽雑誌の休刊、ウェブサービスへの移行が話題となりました。またその2誌が紙媒体としての休刊を発表した際に、音楽雑誌『MUSICA』を発行するFACT社長の鹿野淳氏が「音紙メディアは音楽ジャーナリストの住処だと思っている」と自身のfacebookへ投稿したところへ、音楽ニュースサイト『ナタリー』の大山卓也氏が「なぜ音楽ジャーナリズムは紙でしかやれないって思ってるのか、その理由がわからない。鹿野さんみたいな人が本気で取り組めば、紙であれWEBであれ、それは自ずとジャーナリズムになると思う」とコメントしたところから公開対談までもがすぐに実現。ある意味、この時代における紙媒体・ウェブ媒体の編集者たちに突きつけられる課題が浮き彫りになってきている昨今です。

『音楽メディアってなんだ?』(2013年4月22日)


この公開対談ではナタリー大山卓也氏が、これまで紙の編集者がセンチメンタリズムに浸ってきちんと検討や挑戦をしてこなかった案件について、ざくざくと開拓をしていったという印象を受けました。

たとえば、情報を保存しておくならばやっぱり紙、ウェブの情報は流れていってしまう、という風潮に対しては、「保存性はウェブのほうがじつは高い」とバッサリ。 また、「手ざわりのあるものがいいですよね。っていうのはどういうことなんだろう? 自分の思春期の原風景”としての紙メディアというものにとらわれすぎなんじゃないのか?」とも。もちろん、今もそれに魅了される若い人はたくさんいる、と鹿野氏も話していました。しかし、「ウェブと紙は対立軸ではないことは大前提だけど、対立軸で語られて当然なくらい、紙育ちのひとはウェブで新しい表現をしようと挑戦してない」という大山氏の指摘はごもっとも。会場に映し出されていたソーシャルの意見も、“紙の編集者って、そんなことすらまだ考えていないのか……?”というようなものがチラホラとあり、やはり“紙の編集”にとらわれすぎて、もっと大きい意味での“編集”までトータルで挑戦できている編集者が少ない、というのが、残念ながら、現状なのかもしれません。

紙媒体の編集、というのはとても手の込んだものですし、一度校了したら書き換えは効かない。だからこそ責任や愛情もウェブの何倍もあるのだ、という想いは個人的にもとても理解できます。ただ、そこにはこの時代における読み手側の利便性や選択肢という視点が欠如しているのではないか、と感じることもしばしば。そもそも、音楽メディアなのであれば、動画や音楽をミックスできる可能性のある世界に挑戦しない手はないと思うわけですが。(ここには著作権の問題も絡んできますので、もちろん一筋縄ではいかないのも承知なのですが。)

この課題はもちろん音楽雑誌やカルチャー誌に限ったことではなく、ファッション誌もエビちゃん人気の頃の赤文字系と呼ばれる雑誌群の発行部数などから比較すると2008年リーマンショック以降でぐっと発行部数は落ち込んだといわれ、休刊となる雑誌も相次いでいます。そんななか、新しい形を模索できているファッションコンテンツはまだまだほとんど見当たりません。もしかするとそれは既に紙媒体とは全く離れたところで生まれているのかもしれませんが。

そして、そもそも書店の数がぐっと減ってきているのも事実なので、ますます紙媒体は“紙だけで”生き抜く方法を探ることが難しくなっています。


書店数の推移(出典:日本著者販促センター) ※クリックで拡大

しかし一方、『ZINE』や『リトルプレス』といった少部数で個人的に作ることのできる冊子カルチャーが徐々に人気となり、BCCKS(ブックス)のような、誰でも電子書籍や紙の本が作れるサービスも登場しています。自分たちのできる範囲のことを自分たちらしく、発信してみようという、DIY精神溢れる(といっても、“クール”“かわいい”“素敵”“アート”といったテイストは忘れていない)小さな紙媒体や電子書籍は、ミニコミ/ファンジンといった領域を越え、ここ数年で確実に人気を博す媒体となりました。

BCCKS


また、cakesのように定額制でコラムを提供するサイトや、BLOGOSのようにあらゆるおもしろいブログの書き手が横並びに編集されるサービスも定着しつつあり、“読み手が読みたいもの”を提供できるウェブサービスは人気が高まっていることは確か。ハフィントン・ポストの日本版が登場したことで、“まとめ”を含むこの領域の“編集”は今後、より重要になってくるものと考えられます。

cakes


振り返ってみれば2000年代初頭の個人ブログ開設人気から急速に勢いをつけてきた“インターネットがあれば誰でも発信できる”時代の到来。この時代に編集者がすべきこととはなんなのでしょうか?

直ちにKINFOLK化せよ!? 編集者は映像もイベントもディレクションする時代へ。

ここのところ、『KINFOLK MAGAZINE(キンフォーク)』というアメリカの雑誌が日本でも人気です。“a guide for small gatherings”をキーワードとして掲げ、食や暮らし方といったものを通じて自分のごく身近な人々とどのように暮らすかのアイデアが詰まった本誌は、今年、日本語版が登場したことでも話題となりました。アメリカのオレゴン州ポートランドで始まったこの雑誌は、今やアメリカを中心とした世界中(主に英語圏)でフォロワーを生み出し、各地で同じテーマを設定し、主催者はそのエリアの読者に任せ、同時に雑誌の冠を掲げたイベントを開催する、ということにも成功しています。

KINFORK


つまり紙の雑誌を中心としてできあがりつつあるコミュニティを大切にし、そのコミュニティをファシリテートする権限は読者の代表に分散、それぞれのローカルに落とし込むことに成功しているといえる、驚異の雑誌なのです。

また、最新号が発売されるごとにリリースされるイメージムービーの美しさも評判であり、編集者は紙媒体である本誌のみならず、イベントや映像などすべての領域のディレクションをしているのだということが伝わってきます。

Kinfolk Story: Oregon Coast Retreat from Kinfolk (kinfolk.com) on Vimeo.

このような雑誌は、まだ多くは登場していませんが、韓国では『AROUND』という“ほぼKINFOLK”のような雑誌が登場し、この夏にはキャンプインフェスティバルを開催したとのこと。このKINFOLK周辺の熱は当分冷めそうにありません。

AROUND


また、KINFOLKよりもひと足お先に創刊していたカリフォルニアの『Anthology』というインテリア・ライフスタイル誌も、毎号イメージムービーを作成するなど、同じように“雑誌の持つ世界観”を紙以外の部分にも拡張することで、価値を確立している雑誌といえるでしょう。

Anthology


これは日本の場合であれば、音楽雑誌『ROCKIN’ ON JAPAN』が始めた『ROCK IN JAPAN』がそのものであるといえるかもしれません。この13年で日本の夏フェスの代名詞存在となったこのイベントは、3日間で17万7000人もの観客を動員。本誌には掲載されないジャンルのアクト(アイドルなど)も多く出演するがゆえ、もちろん本誌の読者ではない人々も大きく取り込み、もはやイベント自体が雑誌のような一覧性を持ち、編集されるようになったケースといえるかもしれません。

“紙でなくては表現できないこと”を考えるより、映像なども取り込んだ電子書籍を早く実現してほしい!

そもそも、「紙 vs ウェブ」などという構図は、もうとっくの昔に終了しているもので、むしろ、なぜ紙媒体で編集をしてきた人間は、そんなに紙にこだわり続けるのかが一般の人には理解されないほどに、世の中は先に進んでいってしまっている、というのが現在の状態であるような気がします。

ただ、“紙は紙”“ウェブはウェブ”という棲み分けがあって、ウェブはそのウェブ専門の人に任せておけばいい、という状態に身を置いてきてしまった紙媒体編集者は少なからずいるのではないか、と、個人的な肌感覚としてここ数年感じています。しかし、“ウェブ専門の編集者”というものは実際にはそう存在しているわけもなく、ウェブ領域には今とても編集が必要とされているというのが現状ではないでしょうか。

ニューヨークの地下鉄などでは、Kindle Paperwhiteで普通に小説を読み進める人々を、多く見かけます。そういった光景を目の当たりにすると、日本でもおそらくこういった未来はすぐにやってくるのではないか、と思ったりもするわけですが……。電子書籍は、漫画や小説といった静的なものの人気に“今のところ”留まっている、という状態でしょうか。

雑誌の電子書籍化に関していうと、エディトリアル・デザインの知識があり、その上で、EPUB3形式やHTML5での版組みを行えるデザイナー、すなわち、エディトリアル・デザイナーとウェブ・デザイナーの中間でどちらも行き来できる人材の育成が急務といえるかもしれません。これは、編集者でも同じです。ただ、紙媒体用にデザインされたデータをPDFにして売っていても、電子書籍として面白みがあるはずもなく……! 映像や音楽などとシンクロさせた電子書籍を誕生させるためには、より編集の力が必要になるのと同時に、編集者が技術のこともわかる必要があるはずです。

電子書籍 以外にも編集が必要な領域は広がっている

編集者として『もしドラ』『スタバではグランデを買え!』など多くのヒット作を出し、前述の『cakes』を立ち上げた編集者の加藤貞顕氏は自身のtwitterで以下のように発言されていました。





そう、これぞまさに冒頭のナタリー大山氏の発言のなかでも触れた「紙の編集者がウェブで新しい表現をしていない」と言われてきたことへの明快な回答だな、と感じました。(さすがは加藤氏です……。)そろそろ本当にウェブの編集と技術について、あらゆる、これまで紙でやってきた編集者も、学ばなくてはいけない時なのではないでしょうか。

そんな流れのなか、ひとつのニュースが先週飛び込んできました。自身が編集長を務めた音楽雑誌『SNOOZER』の2011年休刊後、イベントなどは展開しつつも自身で媒体を持つことはしてこなかった田中宗一郎氏。その田中氏が、2013年10月から『sign』という音楽サイトを始めるという声明を発表したのです。ロッキング・オン出身で独立して以降、洋邦取り混ぜた音楽雑誌である『SNOOZER』で一時代を築いたタナソウ氏の動向は音楽好き・紙媒体好きならば誰もが気にしていたところ。昨年12月に行われた『サンデージャーナリズム』という対談企画のなかで「もう雑誌は退廃・滅亡だ」といった内容を話していた彼が、ここから立ち上げるウェブメディアとは一体どんなものになってゆくのでしょうか? いやがおうにも、期待は高まるばかりです。

SUNDAY JOURNALISM』アーカイヴ(有料音声ダウンロード)


田中宗一郎氏が新しく立ち上げるウェブメディア『sign

いよいよ、編集者が紙媒体だけにこだわる時代の本格的な終焉かもしれません。
そろそろもっとおもしろいメディアを作るために、紙媒体以外にも編集の英知を結集させようじゃありませんか……!(と突然声明を出したくなるほどです。笑)

“物を大切にしなさい”と言われて育ってきたからなのか、はたまた、古きよきものを大切にするだけの歴史があるからこそなのか、一部の編集者は紙への触感であるとか、“紙でしかできない表現”を探り続けることに躍起になっているような気もします。しかし、そのノスタルジックな暗中模索よりは、思っていたより早く進んでしまうこのスマートフォンや携帯台頭の世の中へ、もっと編集方法や紙とウェブの技術を横断したダイナミックかつ緻密な表現を探っていくべきなのではないでしょうか。

最近の電子書籍の傾向としてはこういったものもあるようで、映像や音楽などをミックスさせたコンテンツが徐々に登場してきています。

DIGITAL BOOK FACTORY


ただし、電子書籍に限らず、前述の『KINFOLK』のように紙媒体とウェブサイトとイベントを軸に企画する際にも、すべて、編集の技能が求められるというわけです。

これまでのように大量に作って、大量に置いてもらい、大量に売る、というメガなメディアは、無くなって行くのかもしれません。しかし、細やかな領域をカバーし、よりニッチな嗜好を充たすことのできるメディアや売り方が求められてきているようです。
きっと、本当に“売れる”電子書籍やウェブコンテンツが登場するのは、紙媒体を軸にしてきた編集者たちが本格的にそれ以外のことへ取りかかり始める、これからなのではないかと思っています。

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Twitter:@emr_81

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