コラムスピン :第76回:これからの音楽を発信するリアルな場とは?

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第76回:これからの音楽を発信するリアルな場とは?

~ローカルに根ざしたレコードショップとオルタナティブなライブスペースの可能性~

コラムスピン第74回「紙の編集という呪縛~紙のウェブ化ではない新しいかたちとは?~」の筆者が、全国のテイスティな発信型ショップ&ライブスペースを8店紹介!行ったことある方、是非コメントください!

この記事の筆者

大好きな音楽や雑誌などの未来について、日々思案。メジャー・インディー/国内外問わず、素晴らしき出版物やウエブコンテンツ、音楽やアートが世に広く届くように願いながら、今日も新しい動きに食指を動かし、感情たっぷりに発信中。

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HMV、WAVEなど大型CDショップが東京の中心部に軒を連ね、渋谷の宇田川町には小さくもコアな音楽ファンが集まるレコードショップが多数存在、ライブハウスはもちろん、映画でいえばミニシアターも多数あり、それらがカルチャーを作り上げた時代。そんな90年代後半から、随分と時は経ちました。東京という都市で働く多くの人の毎日の生活のありようを変えていったのはインターネットだったかもしれません。

では、そこから形を変えた“リアルな場”はどこへいったのでしょうか?
もう音楽やカルチャーを軸として人が集まり何かが生まれるリアルな場所は、必要無くなってしまうのでしょうか?
いえいえ、皆さんご存知のとおり、もちろんそんなことはありません。

どうやら、小さいながらも確かなファンを持ち、オルタナティブな世界観を打ち出すそれらの場所の多くは、東京ではない場所で確かな産声を上げつつあるようなんです。そしてまさにこれからの音楽シーンを支えるのはこういう形なのではないか、と思えるほど、興味深いレコードショップ、ライブスペースが日本国内でも次々と誕生しているような気がしてきました。

ということで、今回は筆者の個人的な趣味の領域でもある『音楽とローカル』について、実際のショップやライブハウスの動きを追いつつ、触れていってみたいと思います。筆者もまだ訪れたことが無い場所がありますが、人からの話題だけでなく一刻も早く自ら訪れてみなくてはと思っている場所ばかりです。

FLAKE RECORDS/ 大阪府大阪市 西堀江

今年8月、海外サイト「BuzzFeed」によって発表された「アナタが死ぬ前までに訪れて買い物をするべき魅力的な世界のレコード店27選」に選出されたのが大阪のFLAKE RECORDS!

日本からはほかに東京・渋谷のタワーレコードが選ばれていますが、世界中の魅力的なレコードショップと肩を並べる形で大阪のカルチャーの中心ともいえる堀江のレコードショップが選ばれたことは、じつに喜ばしく、本当に日本の誇りだ……!と、筆者も勝手に感動していました。おめでとうございます!


27 Breathtaking Record Stores You Have To Shop At Before You Die


記事中で紹介されているFLAKE RECORDSの店内写真

FLAKE RECORDSは2006年9月にオープンした、オルタナティブ・ロックをメインに新譜を扱うレコード店です。CDもありますがアナログ盤の品揃えが非常に豊富で、日本ではここにしか入ってこないようなレアものも数多くあります。


店主の和田貴博氏(通称“ダワさん”)は、ショップの展開のみならず店頭やショップを飛び出してのイベント企画や海外アーティストの招聘にも大きく貢献。インディー/メジャー問わず日本のミュージシャンとの交流も深く、スタート以来7年の月日のなかで確固たるカルチャーを作り上げてきたショップといって間違いないです。とくに関西で活動をするミュージシャンからの信頼は絶大、地元から近いところにこういった存在があることは、“わざわざ東京まで出ていかずとも、ここを活動の拠点にして腹を据えていこう”と思えるきっかけになるのではないか、とすら感じるのです。これぞ、ローカルに根付きつつ世界にも認められる価値を持ったレコードショップです。

THROAT RECORDS /奈良県奈良市

オルタナティブ・ロック・バンド「LOSTAGE」のベース・ボーカルとして自身もミュージシャンとして活躍する五味岳久氏が、バンドで運営する自主レーベルから発展させて2012年11月よりスタートしたレコードショップがTHROAT RECORDS。新譜CD・アナログはもちろん、中古盤を多く扱う同店は、LOSTAGEメンバーの地元である奈良県にオープンしました。



店主である五味氏は前出のFLAKE RECORDSのダワ氏とも非常に交流が深く、恐らく今回のレコードショップ開店に至るまでには、多大な影響を受けたのではないでしょうか。五味氏は“五味アイコン”と呼ばれる自作のtwitterアイコン画でも人気を博しており、そのデザインの腕も確か。

自身がデザインしたバンドやレコードショップ限定のグッズも取り扱い、ポップさも忘れていません。バンドマン自身が店主なので、彼らのライブ次第でお店の営業日は変動しますが、そのDIYな運営に魅了されわざわざ奈良まで足を運ぶ人々は後を絶たず、「いつかは行ってみたい」と遠くから想いを馳せている潜在的なファンも多くいるはずです(筆者もそのひとりです)。

地元のバンドが地元で音楽にまつわるショップを開くことで、自ずとその地での知名度は上がりますし、そもそも既にライブを中心として全国的に活躍中のバンドが自身の地元で活動することにこだわって開いた場とあれば、れっきとした“音楽にまつわるローカリゼーションの動き”といえるでしょう。

残響shop /東京都&宮城県

2011年5月にできた東京の「残響shop」は、インディーズ・レーベル「残響record」が運営するレコードショップであり、「残響塾」という講座を行うイベントスペースでもあります。


参考リンク:スタートから半年ほどの頃の残響shopのインタビュー記事

渋谷区神南エリアの細い通りを一本入ったところにひっそりと存在しているショップですが、いつも中では何かしら熱いことが起こっていると噂されるこの場所。残響record所属のアーティストのCDはもちろん、セレクトされたインディー・ロックなどを中心として、試聴にもひと工夫することで音楽と触れ合う場を作り出し、また同時に楽器なども販売しています。

コラムスピン第34回(2012/8/28):
店頭のCDを見せずに聴かせたら売上が4倍に伸びた!
~CDの売上が急上昇した小売店の実例~


NAVERまとめ:
ジャケ買いならぬ聴き買いで売上を4倍に伸ばした「残響SHOP」

一方、残響塾はワークショップ形式で行なわれるイベントが多く、サブタイトルとして「Independent Thinker’s Lounge」という名前もついています。(残響塾facebookページ

これは、音楽に限らずカルチャー全般について、そのプレイヤー自身が自立し、自身を表現するさまざまな方法を身につけられるよう開かれている学校とでもいいましょうか。
これからの時代の音楽やカルチャー、そしてそれを取り巻く環境について、新しい方法を探る人々が日々集まり、トライアルをしている、という状況のように感じます。

……と、こんなことが渋谷の神南で起こり始めて2年経った今年、なんと「残響shop」の2号店として仙台店がオープン! 筆者、こちらのお店にはまだ行けていないのですが、東北6県の拠点ともいえる仙台の街にこういった場所が生まれ、東京とも緩やかに繋がりながら独自の展開を見せていくであろう、これからの展開には注目したいところです。


残響shop仙台
残響shop仙台 twitter

ANTENNA・飛雷針 /長野県長野市 権堂

2011年より「ANTENNA」というフリーペーパーを長野市内で制作していたチームが始めた音楽とカルチャーの発信基地が、長野県長野市の権堂という、善光寺に程近いエリアにあります。


Shed.ANTENNA


ANTENNA ONLINE STORE

この発信基地「Shed.ANTENNA」には、「飛雷針」という名前のついた小さなライブスペースと「CD部」というCDやTシャツなどを扱うショップが共存。またそもそもこの「Shed.ANTENNA」が入っている場所は、かつて呉服問屋さんだった大きな蔵作りの建物や納屋を、カフェやレザーの工房、学びのスペースなどを営む若者を中心とした事業者たちでリノベーションした「OPEN」というひとつの大きなパブリックスペースなのです。


長野県権堂パブリックスペース「OPEN」

「かつて長野市内にあったタワーレコードが閉鎖したことがきっかけで、ほしいCDを買える場所が無くなってしまった。そのショックは大きくて、だったら少しでも自分たちでできることをやろう、ということでデザインを中心とした仕事をしつつCDショップも始めました」と、フリーペーパー「ANTENNA」も作るメンバーのひとり、山崎智子さんは、店頭でお会いした際に話してくださいました。(ANTENNAの皆さんはこれまた前出の残響shopとの交流もあり、ここにも少なからず残響shopという存在の影響を感じました。)

ちなみに、こんなブログエントリーも見つけました。
2011-07-13 タワーレコード長野店 閉鎖に思いを馳せて

90年代後半から2000年代初頭までに全国にできたタワーレコードやHMVといった大型CDショップも、インターネットの普及とともに地方店は統合、閉店したところも多くあるはずです。しかし、かつてそこで知った“音楽と触れ合う悦び”のようなものは、時を経てからそれを体験した人々によってそれぞれの地域に還元され、それぞれの形でまた新しく芽吹いてゆくのかもしれません。

瓦レコード/長野県松本市

前出のANTENNAと同じく長野県に、もうひとつとても気になる場所が。「瓦レコード」という名前をもつちょっと不思議なスペースです。なんでも、古民家の畳空間にレコード・CDコーナーや仮眠スペースまであるという“パーティーハウス”とのことで、ライブイベントなども多く開かれている模様。


瓦レコード運営 古川陽介氏インタビュー(2009年のもの)

もとを辿れば11年ほど前、当時、信州大学にあった「社会生活とコミュニケーション」という授業を取っていた仲間でたまり場的を求め借り始めたところだったとのことですが、その後は名だたるミュージシャンやDJがふらりと演奏するような場所へと進化し続けているとのこと。ちなみに、今や長野を代表するフェスである「りんご音楽祭」を始めたのもじつはこの瓦レコードのメンバーなのです。


りんご音楽祭

そして、りんご音楽祭のサイト内「ABOUT」にもあるように、11年前の学生当時から、古川さんたちの想いは一貫しているようです。街の活性化や、シーンの底上げ、地方分権…… これらはすべて自分の土地を愛するがゆえの、音楽を通じての壮大な社会生活やコミュニケーションへのチャレンジなのでしょう。こういった動きは各地で起こっています。

城下公会堂/岡山県岡山市

「後楽園」で有名な岡山城の目と鼻の先、路面電車の停留所でもある城下というところに「城下公会堂」という名の、カフェでありライブスペースでもある場があります。そしてさらに上階にも2軒、音楽と食事やお酒を楽しめる場所が。この3軒の場を経営する森山幸治さんは自身もDJとして活動されたり、野外イベントなどの企画を手掛ける一方、じつは岡山市の市議会議員もされています。


サウダーヂエンタテインメントWEBサイト

城下公会堂は昼間はカフェ、夜は音楽イベントも行われる空間である一方、時には「マチナカギカイ」という架空の議会の場を設け、若い世代が屈託の無い議論を展開するためのイベントを行ったりするとのこと。この場があることで、市政も音楽も、同じレベルで興味を持ち、感じ取れるようになってくるのではないか、と思えます。
岡山という街の未来を考える時には、議会で語られることも、その街に存在する音楽のあり方も、きっと同じ土俵にあってしかるべきなのかもしれません。

城下公会堂なども関わりのある「マチノブンカサイ」というイベントが、昨年秋に続き今年も開かれると聞きました。


マチノブンカサイ2013

街の中心部にある廃校となった小学校を使って開かれるイベントは、今年の出演者もとても豪華です。音楽ライブだけでなく屋台やワークショップも盛り込まれた地域のお祭り。岡山はIターン移住者も増えていると聞きますが、こういったフェスのような地域のお祭りがあることで、その街の住人だけでなく外から訪れた人がそれをきっかけにその土地を気に入り、後々に移住を考えるという可能性も大いに感じます。

more records/埼玉県さいたま市

都心からも電車で1時間かからない通勤圏内である埼玉県大宮駅からすぐのところに、2011年9月にオープンしたのが「more records」。もともと大手レコードショップの店員だったメンバーを中心に始まった、とあって、紹介されている音楽ジャンルの幅広さがまず大きな魅力とのこと。


more records

新旧問わずに良き音楽を紹介することをコンセプトとし、リスナーと音楽との出会いを作り出す仕掛けが盛り込まれた店舗では、驚くほどの数の試聴機が用意され、インストアイベントも頻繁に行われており“音楽をレコメンドする”“音楽と人を繋ぐ”ということのプロフェッショナルがお店を運営しているのだとわかります。


Quetic more records インタビュー

今や本部で一括管理され各店舗に届くコメントや販促物ではでなく、誰かの手書きコメントをきっかけに試聴機でたまたま聴いたりする、という“偶然の出会い”を生み出すこと。インターネットにはまだなかなか無い、セレンディピティのようなものがたくさん用意されているmore recordsには、これまでは特定のカルチャー色の無かった街で何か面白いことを仕掛けていこうというワクワク感がつまっているような気がします。今年3月に“人と人でモノやコトがつながる場所をつくりたい”というコンセプトで開かれた「MORE STYLE MARKET」というイベントも、more recordsの主催。音楽だけでなく、アートや雑貨も扱い、ワークショップも行うというマーケットをひとつのレコードショップが旗ふりをして開くことで、少しずつまた街の人の繋がりができていく。なんだかとってもおもしろくて、素敵ですよね。個人的にも是非また開催していただきたいイベントだったりします。

ちなみにmore records店内の様子はこちらから配信されていますので、気になった方はまずチェックを。

ヒソミネ/埼玉県さいたま市

今回最後に紹介するのは、これまた埼玉の、大宮のお隣りの駅近くに今年オープンしたばかりのライブハウス「ヒソミネ」。


ヒソミネ

自身もバンド「Aureole」で活動する森大地氏が、自身のレーベル「kilk records」の活動の延長線上で、人が集いミュージシャンが正当に評価される場所を作ろうとしたことがきっかけで誕生したライブハウスです。
このライブハウスはそもそも立ち上げの段階から多くの人の力を集める形を選択し、クラウドファンディングのプラットホーム「campfire」を使って一般の音楽リスナーからも設立の出資を募ったことが大きな特徴でした。


OTOTOY:kilk recordsが提案するライヴ・ハウス「ヒソミネ」がリリース!


campfire:ヒソミネ・プロジェクト

ここでも、“音楽を通じて人が集まる場所を作ろうとする時に、本当に必要なものは何だろう?”と考え、試行しているプロジェクトがスタートしたようです。音楽ライブのみならず、Ustream放送局や映画の上映なども今後は力を入れていくとのこと。まだライブハウスもスタートして半年足らずですが、小さくも誰にでも開放されていることを目標においた音楽やカルチャーが集まる空間は、きっとこれから、大宮付近での新しい動きの中心地となるのではないでしょうか。期待しています!(じつはこちらのプロジェクト、筆者も出資したのです。笑)

いかがでしたでしょうか?

人が動くことで人に会い、集まり、そこで生まれた何かをさらに多くの人と共有したいと思うこと。これは恐らく、とても根源的な欲求なのかもしれません。つまり音楽だってそうで、録音された音源だけでよければ今はダウンロードできるし、たったひとりのなかで完結することもできなくはない。でもやっぱりそれは誰かとの交流のなかで共有してこそ、楽しみが拡張していくものなんだと思います。音楽とコミュニティ/コミュニケーション、つまり音楽と生活について、いろいろと考えるきっかけをもらえる場所について、今回は触れさせていただきました。

もちろん今回ご紹介させていただいた場所に限らず、ニッポン全国まだまだいろいろなところがあると思いますし、もっと視野を広げれば世界的にもきっとこういう場が次々と生まれてきているのではないでしょうか。 また、こういった小さめの規模から確実に周囲との繋がりを作るにあたっての音楽のあり方は、これから先、たとえば都市を離れIターンやUターンをする人のヒントにもなるはず。その証拠に、各地で小規模ながらその土地と密着した特徴的なフェスも増えてきていますよね。
「こんなローカルと音楽の関係性があるよ!」「こっちでも何かおもしろいこと起き始めてるよ!」という情報がありましたらぜひぜひ、教えてください。

こんな感じで、どうやら筆者のローカルと音楽の関係性を探る個人的な旅、当分飽きそうにもありません。よろしければまたお付き合いください!

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Twitter:@emr_81

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