読むナビDJ :第91回:アルゼンチン音響派・再入門10選

更新

バックナンバー一覧

第91回:アルゼンチン音響派・再入門10選

これはしばらくハマリそうです!アンビエント・テクノ、ポストロック好きにも響く未知なる音響世界。プレイリストを組んで、夜、延々と聴き続けたいです。

この記事の筆者

音楽&旅ライター。レコード会社勤務の傍らDJ、執筆、「喫茶ロック」企画などで活動。退社後、2年間に渡って中南米を放浪し祭りと音楽を堪能。帰国後は「ラティーナ」誌でのアルゼンチン音楽連載をはじめ、ラテン、ワールドミュージック、和モノから、旅行記や世界遺産にいたるまで幅広いジャンルで、雑誌、ウェブ、ライナーノーツの執筆、ラジオや機内放送の選曲構成、トークイベント、ライヴハウスのブッキング企画など多岐に渡って活動中。All About「アルゼンチン」ガイド。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』『喫茶ロック』最新の著書は『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

10年ほど前に、“アルゼンチン音響派”という言葉がしきりに聞かれたことを憶えているでしょうか。フアナ・モリーナの名盤『Segundo』(2000年)の世界的なヒットをきっかけに注目された、地球の反対側の不思議な音楽シーン。そのアルゼンチン音響派が日本で再燃の兆しを見せています。

“アルゼンチン音響派”という言葉は、実際には日本だけでの呼称です。特定のジャンルというわけでもなく、ロックやエレクトロニカから、前衛的なジャズや現代音楽に至るまで、様々なスタイルを内包しています。簡単にいってしまえば、“他のどこにもないアルゼンチンの個性派音楽”。フアナのサポートで注目を集めたアレハンドロ・フラノフフェルナンド・カブサッキは、来日してROVOをはじめとする日本のミュージシャンとも交流を深め、彼らのフォロワー的なノンジャンルのアーティストも次々と日本の音楽ファンに発見され始めています。また音響派周辺のアーティストは、デジタル・クンビアやポスト・クラシカルといった新しいジャンルにまでその枝葉を伸ばしていきました。

なぜ彼らのようなアーティストが同時多発的にアルゼンチンから出てきたのかは謎ですが、他人と同じことをやりたがらない芸術家気質、外ではなく内面に向かいがちな性質(ブエノスアイレスは精神科医が最も多い街といわれる)、ラテン先住民とヨーロッパ移民が入り交じった独特の文化環境などがヒントになるかもしれません。

今年2013年は、フラノフとカブサッキが立て続けにジャパン・ツアーを行い、フアナも5年ぶりの新作を発表。また、ノラ・サルモリアウリセス・コンティといった音響派周辺のアーティストも来日するなど、話題が尽きることがありません。ここでは新旧10組のアーティストをピックアップしました。日本から最も遠い国の個性に満ちた音楽をご堪能ください。

フアナ・モリーナ

「Eras」

もともとコメディエンヌだったフアナは、96年に本格的なシンガー・ソングライターとしてデビュー。実験的なセカンド・アルバム『Segundo』(2000年)によって世界的にブレイクしました。以来、寡作ではありますが、コンスタントに傑作を生み出しています。最新作『Wed 21』も、基本的にひとりで楽器と声を重ねた手法は変わらず、彼女にしか作り得ない世界観を構築。音の足し引きの妙と、この曲の映像のように、どこか不気味でコミカルな感覚が魅力といえます。ライヴにおけるサンプラーを駆使したパフォーマンスも必見。



ウェンズデイ21 amazon.co.jpで買う

アレハンドロ・フラノフ

「Micerino Alap - Micerino Tema」

フアナ・モリーナの『Segundo』で重要な役割を担ったアレハンドロ・フラノフも、音響派の代表的なアーティストのひとりです。もともとジャズやフュージョン系のキーボード奏者でしたが、2000年のソロ・デビュー以降は、世界中の楽器を操るマルチ楽器奏者として独自の世界を築き上げました。トイ・ポップからアンビエントまでを縦横無尽に駆け回る才人ですが、なかでも日本でヒットした『Khali』(2007年)は自他共に認める傑作。シタール、アルパ(ハープ)、ムビラといった多国籍な楽器の音色を生かしたアンサンブルが聴きどころです。



khali amazon.co.jpで買う

フェルナンド・カブサッキ

「Suerte」

フェルナンド・カブサッキフアナ・モリーナのサポートで注目を集めたギタリスト。フアナの初来日時に同行し、ROVOのメンバーと交流を深めたことで、その後も頻繁に来日公演を行っています。ロバート・フリップのギター・クラフトで修行しただけあって、ロック・スピリットを内包したプレイが特徴。とはいえ、ソロを弾くというよりは一風変わったリフを重ねたり、ノイズやループを巧みに取り入れるなどして、ギターを音響効果の一部として音楽に仕立てる技が見事。この曲は最新作『Luck』(2011年)に収録されたダンサブルな民族音楽風ナンバーです。



LUCK amazon.co.jpで買う

モノ・フォンタナ

「Tarde, De Tu Lado」

アルゼンチン音響派と呼ばれるアーティストたちがこぞってリスペクトするのが、モノ・フォンタナ。アルゼンチン・ロック界のカリスマ、ルイス・アルベルト・スピネッタのサポート・キーボーディストとして活躍していましたが、1998年にソロ・アルバム『Ciruelo』を発表して話題になります。彼の音楽は、ピアノをベースにフィールド・レコーディングされた現実音やサンプリング音を重ねて非現実的な世界を作り上げるのが特徴。セカンド・アルバム『Cribas』(2006年)収録のこの曲も、エリック・サティのようなピアノに絡まる様々なコラージュ音が強烈です。



Cribas amazon.co.jpで買う

ノラ・サルモリア

「Ilumina」

ノラ・サルモリアは、アルゼンチン音響派が騒がれた頃に注目されたシンガー・ソングライターのひとり。今年は本格的な来日公演が発表されて話題沸騰中です。彼女はジャズやフォルクローレの素養がしっかりあった上で、ピアノを弾きながらちょっと奇妙なメロディを歌うということで人気。最近ではエルメート・パスコアルに影響を受けたビッグ・バンドを主宰するなど、独自の路線を疾走中。最新作『Silencio Intenso』(2013年)からのこの曲も、どこへ行くのかわからないメロディ・ラインや中盤の強烈なスキャットなどに耳を奪われます。

サミ・アバディ

「New Padang」

サミ・アバディは、タンゴ・エレクトロニカのプロジェクトにも参加する実力派ヴァイオリニスト。しかしソロになると、エレクトリック・ヴァイオリンとエフェクターを駆使した個性的な奏法と、おもちゃやキッチン用品なども含めた様々な楽器を操るマルチ楽器奏者としてのセンスで、ユニークな作品を作り続けています。彼のサード・アルバム『Escuela De Vuelo Para Anfibios』(2006年)は、数多くの楽器の音色をおもちゃ箱にぶちまけたような傑作で、この曲のように色鮮やかな印象を持つサウンドがたっぷり詰まっています。

Escuela De Vuelo Para Anfibios amazon.co.jpで買う

ガビー・ケルペル&バルビナ・ラモス

「Carnavalcito」

ガビー・ケルペルも、アルゼンチン音響派が騒がれた頃に登場したクリエイターのひとり。『Carnabailito』(2001年)というアルバムがノンサッチを通じてワールド・リリースとなり、ローファイなプログラミングに土着的なフォルクローレのエッセンスをまぶした奇天烈サウンドで話題となりました。その後は舞台や映画の音楽を手がけたり、変名でデジタル・クンビアのDJとしても活躍。久々に発表したアルバム『Tira Torito』(2012年)は、プリミティヴなフォルクローレ歌手バルビナ・ラモスとのコラボレーションで、独自の世界を展開しています。



Tira Torito amazon.co.jpで買う

ウリセス・コンティ

「Manuel」

ここからは、アルゼンチン音響派の第二世代ともいうべき、新進のアーティストを紹介します。ウリセス・コンティはピアノをメインに演奏するマルチ奏者であり作曲家。非常に繊細でクラシカルなピアノを弾いたかと思えば、ヴォーカリストと組んでヴェルヴェット・アンダーグラウンドのようなロック・チューンを披露するなど振り幅の広さも持ち味のひとつ。リリカルながらどこかシニカルなピアノ・プレイは、先日の来日公演でも体感できました。この映像も、街の雑踏を効果的に音楽に取り入れることで、さらに彼の音楽をリアルなものにしています。



Atlas amazon.co.jpで買う

エミリオ・アロ

「Tigrero」

エミリオ・アロも新世代の音響派として注目を集めるひとりです。独特のアンビエンスを保ちつつも、ノイジーなギターやエレクトロニクス、そして民族楽器やトイ楽器などを巧みに取り入れ、曼陀羅状の音空間を作り出す才人。2007年にアルバム『Panoramico』でデビューし、2作目の『Estrambotico』(2011年)でその世界観をさらに推し進めました。この曲はその2作目に収録されていますが、フォルクローレのパーカッションとベース音によるグルーヴと、ミニマル・ミュージックのように奏でられていく様々な楽器とのアンサンブルが個性的。

Estrambotico amazon.co.jpで買う

トレモール

「Malambo」

ブエノス・アイレスはクラブ・シーンが盛んで、いわゆるハウスやテクノといったクラブ・ミュージックも多数作られています。そんなシーンとつかず離れずの絶妙なスタンスで活動しているユニットがトレモールです。現代音楽に通じる実験的なコラージュから、フォルクローレを電子化したような下世話なビートまでスタイルも多様。近年はデジタル・クンビアに接近し、ダンサブルな楽曲も発表しています。この曲も、無機質な電子音に、フォルクローレで使うボンボという太鼓を重ねるなど、凝りに凝ったアレンジ・センスに感服します。

Viajante amazon.co.jpで買う

■この筆者「栗本 斉」の執筆書籍

アルゼンチン音楽手帖

amazon.co.jpで買う

世界初!21世紀以降の「新しいアルゼンチン音楽」を紹介するディスクガイド。
フォルクローレ、ジャズから、タンゴ、音響派、エレクトロニカにいたるまで、洗練されたセレクトで、ジャンルを超えたラインナップ約250枚を厳選。

■この筆者「栗本 斉」の関連リンク

HP:http://www.tabi-rhythm.com/
twitter:@tabirhythm
facebook:https://www.facebook.com/tabirhythm
blog:http://blog.livedoor.jp/tabi_rhythm/

■この筆者「栗本 斉」のコラム

読むナビDJ 第90回:新装刊記念!「Light Mellow 和モノ」10選 パート2
読むナビDJ 第88回:新装刊記念!「Light Mellow 和モノ」10選 パート1
読むナビDJ 第85回:オリンピックと音楽の深い関係
読むナビDJ 第79回:知っていると自慢できるアントニオ・カルロス・ジョビンの10曲
読むナビDJ 第77回:誰もが知ってるアントニオ・カルロス・ジョビンの超名曲10選
読むナビDJ 第70回:グスタボ・サンタオラージャの映画音楽作品集10選
読むナビDJ 第64回:エレクトロ・ディスコ界のレジェンド、ジョルジオ・モロダー・ワークス10選
読むナビDJ 第61回:アルゼンチン・タンゴ meets ロック&エレクトロニカ
読むナビDJ 第58回:キューバ音楽の新潮流
読むナビDJ 第43回:アルゼンチン発コンテンポラリー・フォルクローレの世界
読むナビDJ 第42回:静かなる音楽~クワイエット・ミュージックを知る名作10選

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

人気記事

1.2万円のヘッドホン(FOSTEX T50RP)を改造して12万円台の音にする
海外のヘッドホンマニアの間では定番となりつつあるFOSTEX T50RP MOD(改造)を自腹切ってやってみました。良い子は真似... 筆者:編集部K 2014/04/08(火) DrillSpin Picks
第35回:イーグルスだけじゃない、70年代ウエストコースト・ロック・バンド名作10選
多くの人からリクエストがあり、60年末から70年代に活躍したウエストコースト・ロック・バンド10選を特集。初級者にもマ... 筆者:小川真一 2012/06/22(金) 読むナビDJ
第101回:「ロックと日本の60年」第2章 “アイドル”の原型、カバー・ポップス
連載シリーズ第2章は、洋楽曲を日本語で歌うカバーポップス、アイドルと全米No.1を獲得した坂本九「上を向いて歩こう」... 筆者:沢田太陽 2015/05/19(火) コラムスピン
第41回:70年代ファンクここから聴け!ベスト10選
どれも代表曲ばかりですが、やっぱり全部いいね!生演奏モノホンのファンクにズボズボと浸ってください!! 筆者:印南敦史(いんなみ あつし) 2012/09/07(金) 読むナビDJ
第114回:「ロックと日本の60年」第14章 2000年代、世界のシーンは動き、日本は閉じた
日本では90年代の影響がことのほか長く君臨し、00年代とのリンクはどこに?iPodが発売(2001年)、iTunes Music Store(03... 筆者:沢田太陽 2015/08/13(木) コラムスピン

コラム一覧

画像について

Close it

DrillSpin内で表示している人物等の画像は、検索エンジンで画像検索を行ない、その最上位の結果を参照しています。 場合により最適ではない画像が表示されることがあります。

閉じる