コラムスピン :第86回:音楽ストリーミングサービスの現状と近未来予測

更新

バックナンバー一覧

第86回:音楽ストリーミングサービスの現状と近未来予測

2013年前半に「今年はサブスク元年!」というフレーズを何回か見聞きしましたが、その後の状況と今後の予測をおなじみ山口哲一さんに書いていただきました!

この記事の筆者

1964年東京生まれ。音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト。株式会社バグ・コーポレーション代表取締役、デジタルコンテンツ白書(経済産業省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げ、実践的な研究を行っている。著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本(ダイヤモンド社)』『プロ直伝!職業作曲家への道(リットーミュージック)』『世界を変える80年代生まれの起業家(スペースシャワーブックス)』などがある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

明けましておめでとうございます。
新年最初のコラムとして「ストリーミングサービスの現状と近未来」というお題をいただきましたので、ビジネス視点から、音楽ストリーミングサービスの現状と近未来予測をまとめてみました。


クラウド型音楽サービス3分類

まずは、ストリーミングサービスについて概観しておきましょう。クラウド型のストリーミングサービスは大きく3種に分けることができます。

1.オンラインジュークボックス=Spotify型
全ての音楽を好きな時に、様々なデバイスで聴くことができるサービスです。世界では、Spotifyが急速にユーザーを増やしています。日本でもソニーのMusic Unlimited、KDDIのKKBOX、レコチョクBESTなどが、2013年にサービスを開始しています。


2.パーソナライズドラジオ=PANDORA型
ユーザーの嗜好に合わせて、リコメンドする形で音楽を聴かせるネットラジオサービスです。米国ではPANDORAが、人気を博しています。日本でもいくつかサービスが始まっています。後述の「dヒッツ」や、昨年12月にUSEN/HMV が始めたスマフォ向けラジオサービスは、たくさんのチャンネルからユーザーに選ばせるという「多チャンネル」型で、ユーザーごとへのリコメンデーション機能はありませんが、大きく分けるとこのカテゴリーに入ります。


3.ストレージロッカー=iTunes Match型
個人が所有する音楽をクラウド上に管理して、どのデバイスでも聴けるようにするサービスです。アップルのiTunes Match、アマゾンのAmazon Cloud Driveの機能が代表的です。


「dヒッツ」の罪と罠

2013年の日本の音楽配信サービスでは、NTTドコモのラジオ型サービス「dヒッツ」が最も会員数が多いサービスになっていますが、喜ばしい状況とは言えません。ユーザーのアクティブ率が著しく低いからです。月に1回以上使うユーザーが1割程度というのは、音楽サービスとしては、ほとんど使われていないと言ってもよいレベルです。月額315円という金額設定が解約手続きの煩わしさを考えると「まあいいか」と思われる金額設定なのかもしれません。
ユーザー数が伸びているのは、docomoショップの営業力で、サービスの魅力ではありません。携帯電話の契約や機種変更の際に、セットで契約する営業方法、四角印をチェックするところから「レ点営業」と呼ばれている、営業手法に依るところが大きいです。公共サービスである通信会社が、アクティブ率が低いサービスを「レ点営業」することは、社会問題になる危険性もはらんでいます。

レコード業界に収益をもたらしていますが、フューチャーフォンの「着うた」との大きな違いは、新たな市場の創造がされていないことです。モバイルには、音楽とユーザーの接点を日常的に増やすという効用もあるはずですが、その役割は果たせていません。ユーザーに支持されないサービスからの収益というのは、コンテンツビジネスとしては、歪な状態です。今の状態が長期に継続すると、考えるべきではないでしょう。


2013年のデジタル音楽サービスは”エンジンブレーキ”の年だった

では、2013年のデジタル音楽市場は、どんな年だったのでしょう?iTunes StoreなどのPC/スマフォ向けDL型サービスは伸びたものの、「着うた」マーケットの壊滅を補えず、ストリーミング型サービスは、まだ黎明期という状態でした。先進国でデジタル音楽市場が下降しているのは日本だけで、欧米と比べると、周回遅れを走っているような状態です。

音楽配信サービスの普及には、原盤の権利許諾の窓口になっているレコード業界の協力が必要です。一昨年秋以降、日本の音楽市場を活性化するために、インターネットに音楽を解放していこうという方向性ではあるのですが、スローテンポでした。レコード会社をはじめとした音楽業界の主要プレーヤーも、デジタルサービスを活用していこうという方向を向いていて、ブレーキは踏んでいません。ただ、アクセルを踏む勇気が無くて、結果、エンジンブレーキが効いてしまった、そんな2013年だったと思います。

次のフェーズに進むことへの恐怖感もあったのでしょうし、日本社会特有の「横並び意識」も災いしたかもしれません。今年は、昨年のスローテンポを取り戻すような変化を期待しましょう。


注目はSpotify JapanとLINE MUSIC

2014年注目の音楽サービスは、なんと言っても、Spotify JapanとLINE MUSICでしょう。



世界中でユーザー数を急増させているSpotfiyは、有料会員が増え続け、まもなく1000万人に到達すると言われています。米国での伸びも著しく、世界の音楽サービスの主役となっています。
Spotfiyの特徴には、Facebookと連動したソーシャル性の高さや、peer to peer技術の応用によるスムーズな再生、レコード業界と協調した完全合法性などが上げられます。クラウド&常時接続時代のサービスと言えるでしょう。

料金体系はフリーミアムと呼ばれるモデルです。広告が付いたり、同一楽曲の再生などに制限がある形の無料会員と、オフラインでも自由に再生できる有料会員を組み合わせたモデルですが、有料会員へのコンバージョン率が30%超と高いのが特徴です。アクティブユーザー率も高く、無料で使い始めると、どんどん音楽が聴きたくなって、有料会員になっていくという導線が上手に作られています。母国スウェーデンでは、既に10人に1人が有料会員となり、減少を続けていた音楽産業売上を回復させる役割も果たしたそうです。
日本法人は1年前に設立済みですが、今年中には日本でのサービス開始を目指して準備中です。日本の音楽ファンに世界的な人気サービスが体験できる意義は大きいと思います。



もう一つの注目は、LINE MUSICでしょう。こちらも今年の上半期にはサービス開始されるようです。若年層のコミュニケーション・プラットフォームとして圧倒的な人気を誇り、グローバルにも広がっているLINEでの音楽サービスには、大いに期待したいです。
サービスの内容は一切、発表されていないので、推測するしかありませんが、「音楽版のスタンプ」を狙っているはずです。ユーザーのコミュニケーションを活性化するための音楽活用が、どういうサービス設計で行われるのか、そんな視点で注目したいと思います。「音楽版スタンプ」が”発明”されたなら、これまでに無い新たなカテゴリーの音楽サービスが登場するかも知れません。

KKBOXの「Listen with(一緒に聴く)」機能にも注目です。KKBOXは台湾で圧倒的なシェアを持つアジアナンバー1のストリーミングサービスです。台湾でのブレイクのきっかけになったのは、プレイリストを再生しながらチャットする独自の機能「Listen with」だそうです。PARCOとコラボしたキャンペーンでは、新山詩織が、スペイン坂スタジオで、「公開Listen With」を行いました。自分の楽曲に加えて、影響を受けた楽曲などを紹介することは、アーティストPR手法としても有効なようです。


プレイリスト共有は日本で普及するか?

ストリーミングサービスの魅力として必ず語られるのは「プレイリスト」の共有です。ユーザーが自分の好きな曲を、何らかのテーマで組み合わせて、「プレイリスト」化して、友人知人に紹介するという遊び方です。中高年の方は、ドライブのために自分で選曲したカセットテープをつくった記憶がありませんか?その現代版が、ずっと手軽にできます。SNSを使えば、知らない人にもオススメの音楽を紹介できます。
既に、Spotifyの中では、プレイリストのフォロワーが100万人という影響力のあるアーティストやインフルエンサーが登場しています。これからの楽曲PRにおいては、プレイリスト共有の活用が重要になっていくでしょう、以前のFM局でのオンエアーのような役割になるでしょう。

個人的には、「プレイリスト」共有という言葉の響きには、ピンとこない気持ちもあったのですが、音楽シーンで権威のある、英国公共放送局BBCが「Playlister」というネットサービスを開始するなど、世界的な「プレイリスト」流行の中で、日本でも「プレリ」などと呼ばれて、広まっていくのかなと思うようになりました。




ストリーミングが広がるとCDが売れなくなるの嘘

さて、ストリーミングサービスの普及で日本の音楽市場は、どんな風に変わっていくのでしょうか?新年につき、ポジティブシナリオをご披露させてください。

欧米に比べて周回遅れのように見える日本の音楽配信市場ですが、ラッキーなのは、パッケージ市場のシステムが残っていることです。他国では姿を消したCD専門店が、全国規模で、たくさん残っています。
また、iTunes Storeがデファクトにならず、着うたというフューチャーフォン専用のサービスが広まった日本では、ダウンロード型からストリーミング型への移行がスムーズです。

そして、ストリーミングサービスとパッケージ販売は、共存しやすいという利点があります。様々な音楽を、いつでも聴けるという機能と、好きなアーティストの作品をコレクションしたいという欲望は、ユーザーにとってもベクトルが異なっていて、共存が可能です。

また、ガラパゴスと言われた日本の携帯コンテンツの経験は、ストリーミングサービスがデファクトになった時に、付加サービスのマネタイズに役に立つことでしょう。待ち受け画面や着せ替え携帯の発想が加わると、ストリーミングサービスを多面的に楽しめそうですね。

今は、ユーザーの利便性を中心において、音楽シーンの活性化のためにテクノロジーを活用する時代です。

英国の楽曲認識アプリShazamは、スマフォに楽曲を聞かせると、曲名とアーティスト名を教えてくれるというシンプルな機能ですが、年間でiTunes Storeで1億曲以上のダウンロードを誘発しているそうです。Shazamが無ければ起きなかった無かった音楽との出会いをつくり、需要を誘発したのです。



ストリーミングサービスが広がるとCDが売れなくなる危惧する声もあるようですが、果たしてそうんでしょうか?今の時代は、楽曲を聴くためだけなら、CDを買わなくても、YouTubeなどで済んでしまいます。今、パッケージを購入するユーザーは、ジャケットや歌詞カードなど含めたコレクションとしての喜び、アーティストとの関係性の証などの様々な付加価値を含めて、購入しているのではないでしょうか?

もし、ダメージを受けるとすれば、CDレンタル店でしょう。ストリーミングサービスが普及すれば、CDレンタル店は無くなっていきます。建前を置いておくとすれば、ほとんどのレンタルユーザーはリッピングをするためにCDを借りている訳で、手間を掛けずに聴けるようになれば、レンタル店からは離れていくでしょう。そういう意味では、レンタル店が購入している枚数分のマイナス影響はあるということもできますね。
一方で、前述のShazamのように、音楽との出会いが増えることは、新たな興味を喚起し、需要も促しますので、トータルとしてみると、ストリーミングの普及は、パッケージ売上にもプラスの影響をもたらすと私は思っています。


日本の音楽市場の可能性~パッケージとストリーミングには相乗効果がある!~

SONYのウォークマンが登場した時は、「音楽が持ち歩ける」と、ライフスタイルを変える大きな衝撃がありました。クラウド化と常時接続には、ウォークマンの登場を超える、大きな可能性があるのです。

ストリーミングサービスが着実に普及して、モバイル最盛期の2000億円を回復すれば、3000億円のパッケージ市場と共に、世界一の音楽市場となります。
伸張を続けるコンサート市場も含めて、世界が羨む成熟市場となるでしょう。 音楽業界としては、あとは海外輸出を!ということになるのですが、ここでもテクノロジーの活用、デジタルサービスとの連携が肝になることは間違いありません。

そういう意味で、日本人ベンチャーによるITサービスに大きな期待を持っています。昨年9月に、拙著『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワービックス)を出版したのは、そんな問題意識からです。紹介した起業家たちも頑張っています。特に、リンキン・パークと提携を発表したビートロボ社のPlugAirというスマフォガジェットは注目です。NANAやTunecore Japanもグローバル展開を準備しているようです。


PlugAir公式サイト → https://www.plugair.com/ja/

『世界を変える80年代生まれの起業家 ~起業という選択~』
(山口哲一著、スペースシャワーネットワーク)


amazon.co.jpで買う

ウエラブルデバイスにも期待しています。Google glass、Telepathy One、iWatch、NIKE+FUELBANDと様々な新商品が発表されていますが、音楽との関連性があるものばかりです。視覚よりも聴覚の方が、「空き時間」は長いですし、新たな音楽サービスの契機となる可能性があります。


ストリーミングサービスの普及とテクノロジーの活用で、ユーザーにとっても、アーティストにとっても、既存のレコード業界にとっても、win/win/winとなる、そんな理想的な音楽市場が日本に訪れることを、2014年の初夢とさせてください。

私の予測の信憑度(笑)については、過去3年間、個人ブログで独断的予測を行っていますので、こちらをご覧になってください。

◆ブログはこちら↓
独断的音楽ビジネス予測2014 ~今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる~

■告知

無料メルマガ「音楽プロデューサー山口哲一のコンテンツビジネス・ニュース・キュレーション」
http://www.mag2.com/m/0001620824.html

CREA web連載『来月、流行るJポップ~チャート不毛時代のヒット曲羅針盤~』
http://crea.bunshun.jp/category/culture-006/

WEDGE infinity連載『ビジネスパーソンのためのエンタメ業界入門』
http://wedge.ismedia.jp/category/entertainment

Rittor Music連載「WEB版 職業作曲家への道」
http://rdm.ne.jp/column/melodist

プロ作曲家育成「山口ゼミ」第4期生募集中
http://www.tcpl.jp/openschool/yamaguchi.html

■この筆者「山口哲一」の関連リンク

blog:「いまだタイトル決められず
Twitter:http://twitter.com/yamabug
詳細プロフィールはこちら:http://ht.ly/42reJ

■この筆者「山口哲一」のコラム

コラムスピン 第70回:iTunes Radioの「存在の耐えられない軽さ」と音楽ストリーミング市場の明るい未来
コラムスピン 第64回:コンテンツ輸出を国家支援するべき4つの理由
コラムスピン 第50回:プロとアマチュアを分けるモノ。
コラムスピン 第43回:続続・iTunes Storeは日本では失敗してるんだよ
コラムスピン 第42回:続・iTunes Storeは日本では失敗してるんだよ
コラムスピン 第40回:iTunes Store は日本で失敗しているんだよ。
コラムスピン 第25回:音楽の本質的魅力は音質とは関係ない、と思ってた…。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

人気記事

1.2万円のヘッドホン(FOSTEX T50RP)を改造して12万円台の音にする
海外のヘッドホンマニアの間では定番となりつつあるFOSTEX T50RP MOD(改造)を自腹切ってやってみました。良い子は真似... 筆者:編集部K 2014/04/08(火) DrillSpin Picks
第35回:イーグルスだけじゃない、70年代ウエストコースト・ロック・バンド名作10選
多くの人からリクエストがあり、60年末から70年代に活躍したウエストコースト・ロック・バンド10選を特集。初級者にもマ... 筆者:小川真一 2012/06/22(金) 読むナビDJ
第101回:「ロックと日本の60年」第2章 “アイドル”の原型、カバー・ポップス
連載シリーズ第2章は、洋楽曲を日本語で歌うカバーポップス、アイドルと全米No.1を獲得した坂本九「上を向いて歩こう」... 筆者:沢田太陽 2015/05/19(火) コラムスピン
第41回:70年代ファンクここから聴け!ベスト10選
どれも代表曲ばかりですが、やっぱり全部いいね!生演奏モノホンのファンクにズボズボと浸ってください!! 筆者:印南敦史(いんなみ あつし) 2012/09/07(金) 読むナビDJ
第114回:「ロックと日本の60年」第14章 2000年代、世界のシーンは動き、日本は閉じた
日本では90年代の影響がことのほか長く君臨し、00年代とのリンクはどこに?iPodが発売(2001年)、iTunes Music Store(03... 筆者:沢田太陽 2015/08/13(木) コラムスピン

コラム一覧

画像について

Close it

DrillSpin内で表示している人物等の画像は、検索エンジンで画像検索を行ない、その最上位の結果を参照しています。 場合により最適ではない画像が表示されることがあります。

閉じる