読むナビDJ :第99回:2010年代に聴くべき、新しいピアノ・ミュージック

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第99回:2010年代に聴くべき、新しいピアノ・ミュージック

カテゴライズが難しいけど、とてつもなく美しいピアノ作品10選。夜、ひとりでこっそり聴きたくなる新たな音楽との出会いがきっとあります。

この記事の筆者

音楽&旅ライター。レコード会社勤務の傍らDJ、執筆、「喫茶ロック」企画などで活動。退社後、2年間に渡って中南米を放浪し祭りと音楽を堪能。帰国後は「ラティーナ」誌でのアルゼンチン音楽連載をはじめ、ラテン、ワールドミュージック、和モノから、旅行記や世界遺産にいたるまで幅広いジャンルで、雑誌、ウェブ、ライナーノーツの執筆、ラジオや機内放送の選曲構成、トークイベント、ライヴハウスのブッキング企画など多岐に渡って活動中。All About「アルゼンチン」ガイド。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』『喫茶ロック』最新の著書は『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)。

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楽器の王様といわれるピアノ。その原型が発明されてから、300年以上経つといわれています。現在使われているピアノも19世紀末にはほぼ完成されていたのだとか。そんな長い歴史を持つ楽器であるにも関わらず、いまだに新しいピアニストが登場し、斬新なピアノ・ミュージックが生まれています。

とりわけ、ここ数年の特徴としては、ジャンルにくくりきれないピアニストが現れ続けているということ。これまではピアノというと、クラシックやジャズ、もしくはヒーリング・ミュージックの類という印象でしたが、今やそういった固定観念は不要。以前のエントリ「静かなる音楽~クワイエット・ミュージックを知る名作10選」でも少し触れましたが、ポスト・クラシカルやアンビエント、エレクトロニカといったボーダレスな音楽におけるプレイヤーの躍進には目を見張るものがあります。こういったクワイエット・ミュージックの静かな盛り上がりの中で、昨年末には「THE PIANO ERA 2013」という国内外のピアニスト7人を集めて共演するというイベントも行われました。

ここでは、そんなノンジャンルのピアニストを10人セレクトしてみました。基本的にはこの1年くらいで新作を発表したアーティストを取り上げています。年令も国籍も様々ですが、十人十色のピアノ・スタイルをぜひお楽しみください。

Nils Frahm

「Says」

「THE PIANO ERA 2013」にも出演したニルス・フラームは、ドイツのベルリンを拠点に活動するアーティスト。ピアノ以外にシンセやエレクトロニクスも駆使し、親指をケガしたため9本の指だけで演奏したアルバム『Screws』(2012年)のようなコンセプチュアルな作風も個性的。最新作『Spaces』(2013年)は、ライヴ・レコーディングされた素材を加工して再構築した作品集。深遠な世界に吸い込まれそうな気分にさせられます。




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Hauschka

「Elizabeth Bay」

ニルス・フラームの先輩格ともいえるのが、ドイツ出身の作曲家フォルカー・ベルテルマンのソロ・プロジェクトであるハウシュカ。現代音楽や実験音楽の範疇で評価されると同時に、ムームヒラリー・ハーンなどとのジャンルを超えたコラボレーションも盛んに行っています。新作『Abandoned City』は、実在する廃墟の街をテーマにしたアルバム。プリペアド・ピアノによる音の曼陀羅は、楽器の可能性が無限であることの証明です。




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Fabrizio Paterlini

「Summer Nights」

ドイツが重厚な雰囲気の音楽が多いのと対称的に、イタリアでは非常にロマンティックなスタイルが豊富。なかでも、ファブリツィオ・パテルリーニのメランコリックなメロディやハーモニーは絶品です。この動画は昨年発表のアルバム『Now』のスタジオ・ライヴですが、1曲目の「Summer Nights」で一気にセンチメンタルな世界へトリップ。できたての新作『The Art Of The Piano』も、思わず涙がこぼれそうになるほど美しい内容です。




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Quentin Sirjacq

「Obsession」

フランスが拠点のピアニストというとチリー・ゴンザレスを思い出しますが、クエンティン・サージャックも無視できない存在。チル・ウェイヴ・ユニットのダコタ・スイートと共演したり、ファニー・アルダン主演の映画『BRIGHT DAYS AHEAD』のサントラを手がけるなど、振り幅の広いアーティスト。そんな彼が新作『Piano Memories』で挑んだのがピアノ・ソロ。匿名的な楽曲ながらリリカルな世界観が、聴く者を柔らかく包み込みます。




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Jóhann Jóhannsson

「Here They Used To Build Ships」

アイスランドのヨハン・ヨハンソンもユニークなピアニストのひとり。もともとはロック・バンドなどでキーボードを担当していましたが、徐々に映画やテレビ、演劇などの音楽を担当するようになり、2002年にアルバム『Englabörn』でデビュー。室内楽からエレクトロニカを取り入れた静謐な作風で話題を呼びました。アルバム『Copenhagen Dreams』(2012年)もドキュメンタリー映画のサントラで、映像を喚起させる音の粒が印象的です。




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Ketil Bjørnstad

「I」

ドイツの名門・ECMレーベルにも、ジャンルにくくりきれない個性的なピアニストが多数所属しています。作家としても活動するノルウェーのケティル・ビヨルンスタもそのひとり。一般的にはジャズ・ピアニストとして認識されていますが、そのスタイルはどちらかといえば現代音楽に近いかも。昨年発表したライヴ録音のアルバム『La Notte』では、チェロやエレクトロニクスを交えつつ美しくも哲学的なピアノ・プレイを聴かせてくれます。




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Karen Peris

「Wales Because The Sun Would Shine」

米国ペンシルバニアで結成されたイノセンス・ミッションは、いわゆるオルタナティヴなインディ・シーンのバンドですが、メランコリックな雰囲気で評価を得ています。そのヴォーカリストであるカレン・ペリスは、ピアニストとしても秀逸。2012年にリリースされた初のソロ・アルバム『Violet』では収録曲の半分をインストで占め、しっとりとしたピアノやオルガンの演奏を聴かせてくれます。歌い手らしい繊細なメロディのセンスにも注目。




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Tim Hecker

「Black Refraction」

シガー・ロスとも交流を持つカナダのアンビエント・シーンを代表するティム・ヘッカーは、ここに挙げたピアニストの中では最も硬派かもしれません。神経を逆なでするようにノイズやドローン・サウンドを構築することも多いのですが、時折きらりと宝石のように光るピアノの音色を挿入してくるのがポイント。ジョン・ケージラ・モンテ・ヤングなどの現代音楽にインスパイアされたアルバム『Virgins』(2013年)も強烈な一枚です。




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Hideyuki Hashimoto

「tobira」

香川県を拠点に活動する橋本秀幸も、個性溢れるピアニストのひとり。2012年に立て続けに発表した『earth』、『air』に続く3作目となる新作『home』は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島の小学校に置かれていたアップライト・ピアノと出会ったことから生まれた作品集。鳥の声やギシギシときしむ音なども取り込んだ全体の空気感が、彼の音楽と同化していく様子が見事です。この動画はダイジェストですが、その心地よさは味わえるはず。




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Kan Sano

「水面」

Monday満ちるベニー・シングスが参加した新作アルバム『2.0.1.1.』が話題沸騰中のKan Sanoは、クラブ・ジャズ周辺のイメージが強いのでここでは異色の存在かもしれません。でも、昨年自主制作で発表した『佐野観 ピアノ作品集』を聴いてみると、ピアノ本来の音色を重要視していることがわかるはず。内省的になりがちなピアノ・ソロのなかでも、彼の演奏は華やかで美しく、聴く者を選ばない親しみやすさを感じます。

さて、ここでは取り上げられませんでしたが、他にも数えきれないほど素晴らしいピアニストが多数います。ヨーロッパでは、ドイツのマックス・リヒターヘニング・シュミート、ノルウェーのブッゲ・ヴェッセルトフト、アイスランドのオーラヴル・アルナルズ。南米では、ブラジルのアンドレ・メマーリ、アルゼンチンのアレハンドロ・フラノフウリセス・コンティ、キューバのオマール・ソーサ。米国では、ゴールドムンドピーター・ブロデリック。日本でも、中島ノブユキ小瀬村晶トウヤマタケオ阿部海太郎など、数多くの素晴らしいピアニストが新作を作り続けています。ぜひ、お気に入りのピアノ・ミュージックを探してみてください。

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