DrillSpin Picks :結成10周年を迎える山梨のヒップホップ・ユニット、stillichimiya

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結成10周年を迎える山梨のヒップホップ・ユニット、stillichimiya

「やべ~勢いですげー盛り上がる」や映画『サウダーヂ』などで知られる山梨のヒップホップユニットが8年ぶり(!)のフルアルバムを発表。個々での活躍ぶりは近年目を見張るものがあった彼らが、いま何を思っているのかインタビューしました。

この記事の筆者

1962年東京生まれ。Webディレクター/フリーライター/音楽ライター/コピーライター/編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。音楽レビューサイト「3055」編集長。『ブラックミュージックこの1枚』(光文社知恵の森文庫)、『音楽系で行こう!』(ロコモーションパブリッシング)など著書多数。最新刊は『Juicy REMIX 1980-2011』(リットーミュージック)。

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田我流「やべ~勢いですげー盛り上がる」

地元の山梨県を拠点として10年前から活動を続けているヒップホップ・グループ、stillichimiya(スティルイチミヤ)が8年ぶりのフル・アルバム『死んだらどうなる』をリリースしました。これがたいへん素晴らしい作品なので、今回は彼らがどんなグループなのかをお伝えしたいと思います。

「ズンドコ節」

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まず変わっているのは、活動の発端です。2004年10月12日に地元の山梨県東八代郡一宮町が、近隣の5町村と合併して笛吹市になったとき、9人の若者がこの流れに反対したのだとか。で、結果的には、それがグループ結成につながったというのです。わかるような、わからないような…。ちなみにそこから変遷があったようで、現在のメンバーは、田我流(でんがりゅう)、MMM(トリプルエム)、Young-GBig BenMr.麿(ミスターまろ)の5人。

田我流とBig Benはソロ・アルバムもリリースしていて、他にもYoung-GとBig Benによるプロデューサー・デュオ「おみゆきCHANNEL」、Mr.麿を中心としたポップス・ユニット「EXPO」、MMMとMr.麿による映像制作プロダクション「スタジオ石」と、それぞれが個性的な活動を同時進行中。山梨を活動拠点にしている理由も、適度に柔軟というか、ユルいというか。

Big Ben(以下B)「2005~6年に、みんな一度は東京に出てるんです。当時から曲もつくってたんですけど、最初に田我流が山梨に帰ったんですよね」

田我流(以下田)「ふと、『東京じゃなくてもいいかな、場所じゃないよなあ。山梨でできたらいいな』って、直感でパッと思って」

Young-G (以下Y)「田我流が帰ってからもBig Benは同じ部屋に住み続けて、MMMが鎌倉に行って、俺は下北沢と、一回バラバラになったんです。でも、そこから1年ぐらい経ったころ、『そろそろ帰ろうか』みたいなことになって」

Mr.麿(以下麿)「僕はテレビのADをやってたんですが、仕事を辞めてからユーラシア大陸を香港からロンドンまでバスで旅行して、山梨に戻ってきたのが2010年。そのころには全員が地元に戻ってたので、僕も帰った当日から合流したんです」

――では、必ずしも山梨が大好きだというわけではない?

Y「よくないところも多いし、全部がいいから地元にいるってわけでもないよね」

MMM(以下M)「突き詰めると、生まれた場所だから。でも本当、最近は好きじゃないですね。本当に文化がなくなって、『つまんねえな』って」

Y「田我流とツアーでいろんなところに行くからわかるけど、山梨って特に疲弊してる。CD屋もTSUTAYAが2、3軒あるだけだし、レコード屋も1軒しかないし」

M「クラブがなくなったし、イヴェントもないし…なんで…大嫌いっす(笑)」

「俺は、最近かなり好きになってきてますね。有名な川が集中してるんで、死ぬほど釣りができるんですよ。インターネットがあるから仕事もできて、都内まで1時間半だし、夕方前に帰ってこられたらすぐ釣りもできるし。自然や釣りとか、好きなものがそのまま音楽にフィードバックしてるので、理想的なサイクルができあがっちゃった。できあがるっていうのはよくないことかもしれないけど、いまのところは噛み合わせの循環がいいので、それは30代の俺の新たな発見かなって」

――なるほど、思いはいろいろだということですね。では、地元にいることで音楽的なメリットはある?

「ちょうどいいんですよね。たとえば仕事で東京に出て、人のなかにバーッと入って、そこで得たものをまた持ち帰って、なにもないところで消化して…みたいな。ここにずっといたら、いまは息が詰まっちゃうかなみたいな感じはあるかな」

Y「感じているものは、確実に東京にいるときとは違いますね。ストレスが少ないとか、自然環境のよさだとか、そういうことから受けるリラックスしたムードとインスピレーションが大きいです」

麿「あと、山梨は東京と県隣だから、近くもないし遠くもないのがいいよね。それから(映像作品をつくっているスタジオ石としては)周囲に山や自然がいっぱいあるから、撮影場所にこと欠かない」

M「人がいないから、ロケーションとしてはちょうどいい感じだよね。映像はとにかく人間を使うので、もっと人が欲しいという気持ちはありますけど」

――地元だからという説明しにくい感覚が重要だということでしょうか。仲間意識は、ヒップホップ・カルチャーにとって大切な要素ですし。

Y「それはあります。生まれたところは近いし、歳も同じだし、昔から知ってるし。価値観を共有できるから、音楽的なカラーや映像のセンスを一緒に培っていける」

「いまくらいがちょうどいい。地元で有名になって、居酒屋にも行けなくなるなんて嫌じゃん、『歌えよ!』とか言われたり。いまはそんなことは全然ないから」

そんな環境でつくられた『死んだらどうなる』には、郷土料理をモチーフにした「CM『おねり』」、甲州弁ラップで知られる地元の有名人、原田喜照と共演した「だっちもねえ」、遺跡群を有する一宮町の象徴を楽曲化した「土偶サンバ」など、地元感満点の楽曲もたくさん。

しかも「だっちもねえ」のモチーフがMC・ハマーの“You Can’t Touch This”だったり、「シャドウダンス」でのYoung-Gのラップがカーティス・ブロウ“The Breaks”のオマージュだったり、MVも最高な「ズンドコ節」(もちろんベースになっているのはドリフのアレ)のドラム・パターンが大ネタとして知られるビリー・スクワイア“Big Beat”だったりと、ヒップホップ・リスナーをニヤッとさせる要素も随所に隠れています。

そして最大のポイントは、やっぱり「笑える」こと。たとえば「竹の子」という曲は「お〜い、たけのこぉ〜!」という声から始まるので、聴いていても大いに脱力するのですが、そういう気が抜けた感じこそ、彼らにしか表現できないものなのです。

Y「めちゃめちゃ陽気ですから」

M「おもしろいって思えるかどうか、それが重要。たとえば“土偶サンバ”にしても、『一宮町といえば土偶だけど、“土偶サンバ”っておかしくねえ? ハマッた!』みたいな感じで、無関係な笑える要素を組み合わせてできあがったんですよ。俺ら、すべてがそういうノリで」

「どれだけ笑えるかということが」

Y「そこが大きいね」

麿「誰が笑ったかが勝負」

B「それに、そもそも僕は将来についても『こうなっていったらいい』とか全然考えない人間だし」

「このアルバム自体、全部意味ないです」

 

stillichimiyaが10年続いてきたのは、このユルさのおかげかも。とてもいいなと思うのは、聴く人が聴けば絶対に納得できるほどクオリティが高いのに、ヒップホップに詳しくない人でも文句なしに楽しめるところ。自信を持ってオススメできるグループであり、『死んだらどうなる』は、現時点での彼らの集大成的な傑作であると断言できます。

stillichimiya 公式サイト

■この筆者「印南敦史」の関連リンク

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