読むナビDJ :第136回:現代音楽入門~無調音楽の世界10選

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第136回:現代音楽入門~無調音楽の世界10選

年明け第一弾はちょっと攻めて「現代音楽」。シェーンベルク、ウェーベルン、メシアン、ブーレーズ、ノーノ、柴田南雄、武満徹、パーチ、セシル・テイラー、キング・クリムゾンを紹介。

この記事の筆者

音楽&旅ライター。レコード会社勤務の傍らDJ、執筆、「喫茶ロック」企画などで活動。退社後、2年間に渡って中南米を放浪し祭りと音楽を堪能。帰国後は「ラティーナ」誌でのアルゼンチン音楽連載をはじめ、ラテン、ワールドミュージック、和モノから、旅行記や世界遺産にいたるまで幅広いジャンルで、雑誌、ウェブ、ライナーノーツの執筆、ラジオや機内放送の選曲構成、トークイベント、ライヴハウスのブッキング企画など多岐に渡って活動中。All About「アルゼンチン」ガイド。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』『喫茶ロック』最新の著書は『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)。

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“現代音楽”。カッコ付きで書くと、なんだか仰々しい響きがありますね。難解で退屈だと思われているこのジャンルは、たしかにわかりにくい音楽の代表といえるでしょう。20世紀初頭から作られ始めたため、およそ100年くらいの歴史ではありますが、メロディが無い、起伏が少ない、何をしたいのかわからん、しかも聴いていると怖い、などなど、現代音楽というものに対するアレルギー反応も多く、敷居が高いというのが一般的な印象ではないでしょうか。

しかし、角度を変えて聴いてみると、意外に楽しめます。現代音楽の代表的な傾向として、いわゆる無調音楽といわれるものがあります。通常の音楽は短調や長調といった調性(コード)があって、その調のルールに沿ってメロディを構成するのですが、無調音楽はあえてその手法から逃れ、意識的に調性から外れた音楽のことです。1オクターブの中の12音を均等に使用する十二音技法、音の長さや強弱までも数式に置き換えて計算式で作曲するセリエルなどは、ちょっとしたゲーム感覚があるので、音の流れに耳を傾けているだけで脳みそが活性化されそうです。

そして12音をさらに細かく分解したり、民族音楽のような西洋音楽の譜面に置き換えられないニュアンスを取り入れるなど、様々な進化を遂げていくだけでなく、ジャズやロック、アンビエントやテクノといったその時々の最先端のムーヴメントに影響を与えていったことも確かです。こういった異なるジャンルの中から、現代音楽的なニュアンスを汲み取ってみるのも面白いでしょう。

ここに挙げた10曲も、真剣に対峙すると奥深い音楽の世界を覗くことが出来るはず。あまり頭でっかちになって難しく考えるのではなく、ちょっと変わった娯楽音楽として“楽しい現代音楽”を聴いていただければと思います。

Arnold Schönberg

「Fünf Klavierstücke, Op.23 - 5. Waltzer」

それまでにもいろんな作曲家が無調を取り入れましたが、十二音技法を理論的に体系化したのがアルノルト・シェーンベルクです。代表曲とされている「ペレアスとメリザンド」や「月に憑かれたピエロ」といった初期楽曲でも無調を取り入れましたが、その後作曲したこの「ワルツ」を含む「5つのピアノ曲」によって、彼の技法が完成されたとされています。ピアノのシンプルな楽曲なので古典派やロマン派にも通じますが、音符があっちこっち行ったり来たりしする特異性は、やはりシェーンベルクならでは。



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Anton Webern

「String Quartet, op 28」

シェーンベルクおよび、彼に師事したアントン・ヴェーベルンアルバン・ベルクは“新ウィーン楽派”と呼ばれ、20世紀初頭の現代音楽を代表する作曲家集団と認識されています。特にヴェーベルンは、生前は不遇でありながらも、後に大きな影響を与えました。この弦楽四重奏曲では、バッハの名前からB-A-C-Hという音列を引用し、ピチカートを多用した独自のストリングス・サウンドを構築。不穏な不協和音を駆使しながらも、どこか優美でクラシカルな響きになっているのが不思議です。



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Olivier Messiaen

「Mode De Valeurs Et D'intensités」

“新ウィーン学派”の影響を受けつつも、また違った角度で無調音楽を研究したのが、フランスのオリヴィエ・メシアンです。いわゆる長調や短調とは異なった旋法(モード)を体系的に理論化し、作曲だけでなく論文に残すことで多くの賛同を得ることになりました。1949年に完成させたピアノ曲「音価と強度のモード」は、まさにメシアン流旋法の決定版。一定の規律を持って移調を繰り返しますが、どこかしら印象派にも通じる浮遊感は、機械的になりがちな現代音楽とは一線を画しています。



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Pierre Boulez

「Polyphonie X」

指揮者として世界的に著名なフランスのピエール・ブーレーズも、現代音楽作家として大きな存在のひとりです。メシアンに師事し、ジョン・ケージのような前衛的な音楽家と交流しますが、ドビュッシーストラヴィンスキーといった現代音楽以前の近代音楽に傾倒していきました。そのため、彼の作品は先鋭的なものであっても、どこか古典的な香りが漂います。この「ポリフォニー・X」は18の楽器で構成され、色鮮やかなアンサンブルが、現代音楽特有の難解さを忘れさせてくれるでしょう。

Luigi Nono

「Liebeslied」

ルイジ・ノーノはイタリアを代表する現代音楽家のひとりです。彼はシェーンベルクの娘と結婚したこともあって、十二音技法に基づいた厳格な作品が中心。また、共産党員としても活動し、政治と音楽を深く結びつけることも多々ありました。60年代以降は実験的な電子音楽に没頭しますが、1954年に書かれた混声合唱と室内楽で演奏される「愛の歌」のように、声を効果的に使った作品に定評があります。無調でありながら賛美歌のように聞こえる瞬間もあり、崇高な一曲といえるでしょう。



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柴田南雄

「コンソート・オブ・オーケストラ」

日本でも、戦後1950年代に十二音技法をはじめとする無調音楽がもてはやされるようになりましたが、その代表的な作曲家のひとりが柴田南雄です。彼は東大の大学院で植物学を研究するという一風変わった経歴の持ち主でしたが、そういった理系の頭脳だからこそ明晰な作曲が出来たのかもしれません。「コンソート・オブ・オーケストラ」においても、ストリングスのグリッサンドを多用することによる音程の不安定な味わいや、どこか民謡を感じさせる土着的な雰囲気などがユニークな印象を残します。



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武満徹

「秋庭歌一具」

無調音楽は、日本の伝統音楽との相性も抜群です。その証拠として聴いていただきたいのが、武満徹の代表作「秋庭歌一具」。この曲は1973年に作られた「秋庭歌」に補足し、1979年に完成したという現代雅楽の決定版。雅楽というと、これまた退屈でつまらないものだと思っている方も多いかもしれませんが、アンビエントやワールドミュージック的な耳で聴くと意外に新鮮。音の流れはいわゆる現代音楽的ではありますが、和楽器の柔和な音色とハーモニーから美しい日本の風景が浮かび上がります。

Harry Partch

「Windsong」

こういったワールドミュージック的な感覚というのは、現代音楽にとって非常に重要なヒントになりました。米国の作曲家ハリー・パーチは、西洋音楽偏重型の現代音楽シーンを嫌い、アジアやアフリカのリズムや音色を取り入れて新しい活路を見い出します。彼の特徴は、1オクターブを43の音階に分けるというもの。楽器もダイアモンド・マリンバやひょうたんの実といった一風変わった打楽器が多く、この曲のようにガムランにも似た雰囲気で親しみやすい楽曲を発表して支持されました。



Harry Partch: The Dreamer that Remains;
Rotate The Body in All Its Plane; Windsong; Water! Water!
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Cecil Taylor

「Free Improvisation #3」

無調音楽の波は、クラシックだけでなくジャズ・シーンにもやってきます。それまでのジャズ理論をすべて破壊しフリー・ジャズに発展するわけですが、なかでもセシル・テイラーは現代音楽を研究した上でジャズにたどり着いたということもあり、わかりやすい一例です。彼の演奏は理知的でありながらとにかくパワフルで、現代音楽全般に希薄な肉体性やグルーヴを感じさせてくれるところがポイント。肘などで叩きつけるような独特の演奏スタイルは、山下洋輔を始め多くのミュージシャンを触発しました。



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King Crimson

「Larks' Tongues in Aspic」

ジャズだけでなく、ロックにも現代音楽の影響は見られます。特にプログレッシヴ・ロックでは顕著で、有名どころでいえばキング・クリムゾンの「太陽と戦慄」はその代表作でしょう。1972年にいったん解散した後に、ロバート・フリップビル・ブルーフォードジョン・ウェットンを誘って再編したことで、即興性の高いロック・バンドへと変身。翌年発表したアルバムの前夜に出演したライヴ・ヴァージョンです。ジャズでもロックでもないこの不思議なサウンドは、まさに現代音楽の進化形といってもいいのではないでしょうか。

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