読むナビDJ :第8回:インターネットと音楽の歴史を辿って(後編)

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第8回:インターネットと音楽の歴史を辿って(後編)

ばるぼらが音楽とネットの歴史をふりかえる後編は、大混乱の世紀末~21世紀初頭、そしてより幸福な共存を目指す10年代へ

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P-MODEL
『音楽産業廃棄物』 amazon.co.jpで買う

1999年にP-MODELが結成20周年プロジェクト「音楽産業廃棄物~P-MODEL OR DIE」を始めた時、今後はMP3による作品のダウンロード販売を主軸にしていくが、インターネット環境を持たないリスナーのためにCDを発売する、という説明を行っていた。音楽CD産業から見れば、1998年にCDの売上はピーク、1999年に出た宇多田ヒカルの『First Love』が700万枚を超えるという時期だ。P-MODELの言っていることがどういう意味か、ピンと来なかった人も多かったのではないだろうか。しかし現在からふり返れば、CDとMP3の関係がやがて逆転していく、つまりCDから複製したのがMP3というCD上位の発想ではなく、CDはMP3の物理的なバックアップ・ディスクというMP3上位の思想を既に持っていることに驚かされてしまう。

参加型モデルとしてのインターネット

小泉今日子『KYO→』 amazon.co.jpで買う

レコード会社がインターネットに対して何もアプローチしなかったわけではない。ウェブのアクセスの容易さに何かを見出しはじめたのか、ネットを利用したオーディションも増えてきた。1999年11月にユニバーサル・ミュージック・グループが「Jimmy and Doug's Farm Club」というレーベルを新たに設立。ここはレーベルのウェブサイトにデモ・テープ音源を並べファンに投票してもらい、上位のアーティストと契約するというもの。

日本でも同じく11月にソニーミュージックグループ内のSDミュージックネットワークが「デモテープ・オーディション+プラス」をウェブサイトでスタートしている(といってもこれは応募者のメールアドレスに審査結果が送られてくるという程度のものだった)。ヤマハはインターネットとライブを融合した公開オーディションサイト「MusicFront」(2000年6月9日)を開設し、レビュアーの審査で選ばれたミュージシャンがここから何組かデビューした(ワクチンズ、FREEZZ、WONDERHEAD、広田美穂、バンブー茂、BIGMOU II、LIES LIKE LIGHTS、スリークウォーター、その他)。

アーティスト側の動きにもネットを通じてファンの参加を求める動きがいくつかあった。小泉今日子が1998年10月7日に発表したアルバム『KYO→』の収録曲は、「KOIZUMI COMPETITION」というインターネットを通じた楽曲オーディションで選ばれ採用されたもので、極めて珍しい試みだ。1999年頃にはクーラ・シェイカーのフロントマンであるクリスピアン・ミルズが「collage of consciousness(意識のコラージュ)」と題した、インターネットを通じてファンと楽曲を共同制作するプロジェクトをアナウンスしたり(ただし、これの続報は流れていない)、フェイス・トゥ・フェイスがアルバム『Reactionary』(2000年6月)をリリースする時、レコーディングした16曲を事前にネットで公開し、ファン投票での上位12曲をアルバムに収録したことがある。ラルク アン シエルもベスト盤『Clicked Singles Best』制作時に、日本・中国・台湾・香港・タイ・シンガポール・マレーシア・フィリピンなどアジア各地の人々からのインターネット投票で収録曲を決定した。

こうして見ると、まだ双方向的なコミュニケーションとは言えないものの、プロダクトの制作過程にファンを参加させるという動きが活発になってきたのが2000年前後の状況といえるだろう。より大きく見れば、一方通行的なコンテンツの時代が徐々に終わりかけてきていたと言える。

著作権再考のきっかけとしてのインターネット

レディオヘッド『KID A』 amazon.co.jpで買う

一方で、音楽共有サービス「Napster」(1999年6月)の登場によって、レコード会社側がインターネットへの対応を再考したであろう時期もこの頃だ。1999年12月に全米レコード協会(RIAA)が著作権侵害で「Napster」を提訴したのが最初の動きだったが、2000年にマドンナが制作途中だった新作『Music』の音源が発売数ヶ月前にインターネット上で無断で流出し、その流通経路の一つだったNapsterを訴えた。レディオヘッド『Kid A』の音源も発売3ヵ月前には既にNapster上に存在していた。インターネット上の音楽に対して合法か非合法かというジャッジが行われるようになったのは明らかにNapster以降である。トッド・ラングレンは雑誌『ストレンジ・デイズ』2001年1月号でこう話している。

「一つ確かなことは、前回話したときにはナップスターなどというものはなかった、ということさ。あれ以来、音楽業界にはさまざまな意識改革が起こったと思う。レコードを売る人間だけではなく、アーティストにもね。どれだけ物事が速く変化していっているかについての認識が高まったんじゃないかな。そして、ディスクという形式が、想像以上に速く他のメディアに取って替わられるだろう、ということも」


レディオヘッド
『In Rainbows』 amazon.co.jpで買う

とはいえ、マドンナやレディオヘッドがインターネットに対して敵対心を持ったかといえばそうでもない。マドンナは2000年11月28日にロンドンのブリクストン・アカデミーでのライブをネット中継しており(マイクロソフト主催。この時の900万アクセスという数字は当時のウェブサイトの中で最もアクセスの多かった記録である)、レディオヘッドが2007年に『In Rainbows』をオンラインで自由価格設定可能という特殊なリリースを行ったことを覚えている人も多いだろう。

著作権&インターネット&音楽の話題は今回の直接のテーマではないので踏み込まないが、2001年7月31日に海外最古のMP3ブログといわれる「Buzzgrinder」が開設、2002年3月13日に日本最古のCCCD(コピーコントロールCD)であるBoA『Every Heart~ミンナノキモチ~』がリリースされている。後者は自分のCDが変なフォーマットで発売されるのは我慢ならないと、レコード会社から独立するミュージシャンさえ登場したほどの騒動になった。アップルの音楽配信サービス「iTunes Music Store」(現在iTunes Store)はアメリカでは2003年4月28日にリリースされたが、日本語版は2005年8月4日スタート。この開始までの数年間の混乱した音楽の状況は、今振り返ってもあまりにも無駄が多かったと思う。

環境としてのインターネット

ナイン・インチ・ネイルズ
『With Teeth』 amazon.co.jpで買う

2000年代も中盤に入ると、もはやミュージシャン側もインターネットを実験対象ではなく日常的に使うのが当り前になっていた。リンキン・パークが2000年頃に現在のバンド名に改名した時、最初はLincoln Parkにしようとしたものの、ドメインが既に取られていたために現在のバンド名にしたという逸話があるくらいである。ナイン・インチ・ネイルズの『With Teeth』(2005年5月3日)は歌詞もミュージシャンのクレジットも記載されていない簡素なライナーがつくだけで、必要な情報はオフィシャル・サイトで確認してくれと表明していたのも象徴的な出来事だろう。作品のテーマにインターネットを選んだものでは、インターネットを含めたセキュリティ問題について取り上げたマッシヴ・アタックの『100th Window』(2003年2月10日)が珍しかった印象が残っている。


ウィルコ
『Yankee Hotel Foxtrot』 amazon.co.jpで買う

インターネットで人気が広まったミュージシャンも多い。ウィルコのアルバム『Yankee Hotel Foxtrot』はレコード会社に「多分売れないから」と発売を拒否されたことを受け、2001年9月18日に自分たちのウェブサイトで無料配信して注目を集める。2002年4月に改めてCDとして発売したところ、ウィルコにとって初めてのゴールド・ディスクとなるほどの売行きとなった。BBCに“ダウンロード世代の最初のスーパースター”と称されたアークティック・モンキーズは、2005年1月にファンがインターネット上にアップしたデモ音源で火がつき、カナダのアーケード・ファイアは音楽レビューサイト「Pitchfork」が高く評価したことでブレイクを後押しした。

音楽SNS「MySpace」はミュージシャンが自身の音源をアップロードして公開・共有できるサービスで、ここを中心にネット上の口コミで注目されたミュージシャンも多い。代表例として名前をあげるなら、アメリカのマイ・ケミカル・ロマンスクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー、イギリスのリリー・アレンなどだろうか。日本ではたむらぱんが「MySpaceからのメジャーデビュー第一号」というキャッチコピーで登場した。

動画共有サイト「YouTube」では、オーケー・ゴーが2006年7月31日に先行公開した「Here It Goes Again」のビデオ・クリップのダンスを、ファンが踊ってみた動画が続々とアップロードされ話題を呼んだ。2009年7月2日に公開された日本のバンドSOURのビデオ「日々の音色」は、mixiコミュニティなどで募集したウェブカメラの映像を組みあわせて制作された“Skype&YouTube世代のPV”で、2009年文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門大賞を受賞している。

インターネットをプロモーションの場として活用するのは当然のことだとしても、これらの動きは先の単純な「参加型」というよりも、ファンの能動的なアクションが結果的にミュージシャンにとってもプラスになりその後の展開を決定付けるという、双方向性が高まったものであるだろう。2000年代中盤にきてようやく、インターネットを最大限に活用することが当り前になったのである。

ムードとしてのインターネット

ジェイ・Z
『Black Album』 amazon.co.jpで買う

さて、こうしたインターネットを前提とした時代のムードをふまえて、iTunes Storeでの限定リリースのような直接的な音楽配信ではないとしても、インターネット的といっていいだろう試みをいくつか紹介していこう。

ノイズ/コラージュ・ユニットのネガティヴランドは2004年12月にU2の無断サンプリング楽曲を入れたiPod(iPod U2 Special Edition)をオークション・サイトeBayに出品し削除された。ネガティヴランドは著作権問題に対して常に問題提起を行なっており、その活動の一環として行われたもの。これとある意味で近い話題を呼んだのが、デンジャー・マウスのアルバム『Grey Album』(2004年)。ジェイ・Z『Black Album』とザ・ビートルズ『White Album』を混ぜた(マッシュアップした)問題作品で、出荷は停止させられたがネット上にMP3が出回り、デンジャー・マウスの知名度を飛躍的に上げた。

ナイン・インチ・ネイルズは通常のフォーマットからは外れたリリースを意図的に行なっている。2005年、楽曲「The Hand That Feeds」を音楽制作ソフト「GarageBand」用のフォーマットでダウンロード可能にし、暗にリミックスを促していたり、2007年のアルバム『Year Zero』リリース前には、ライブ会場のトイレに未発表曲が入ったUSBメモリを落としておき、拾ったファンが熱狂してネットに報告し結果的に期待を煽るプロモーションを行った。


プリンス
『プラネット・アース』 amazon.co.jpで買う

前編で取り上げたプリンスは、2007年にアルバム『Planet Earth』をイギリスの新聞『Mail on Sunday』の付録として、2010年にも同様にアルバム『20Ten』を新聞や雑誌の付録でリリース。プリンスは同時にiTunes Storeなどでのデジタル音楽配信がミュージシャンに何のメリットももたらさないことを批判。自身のサイトも閉鎖し、アンチ・デジタルの姿勢をインタビューで表明している。

近年、日本での珍しい活動として注目されたのは、2010年1月1日設立のまつきあゆむのM.A.F.(まつきあゆむファンド)だろう。音楽活動をする上で必要な資金を寄付で成り立たせようとするもので、ミュージシャンとリスナーの間に誰も入らない、インターネットでの直接のやり取りを目的にした活動である。どんなミュージシャンでもやり取りする人数が増えれば間にショップや代理人が入るものだが、どこまで個人で続けられるのか動向が気になるところである。

「読むドリル」第5回で取り上げたネットレーベルのMaltine Recordsは、2010年10月2日にiPhoneで気軽に自分達の音源を聴いてもらうためのアプリ「Maltine Records for iPhone」をリリース。わざわざファイルをダウンロードしなくても、ストリーミングで簡単に音源にアクセスできる仕組みを提供することで、より自分達の敷居を下げようとしている。

最後に

ようやく話は前編の冒頭に戻るが、こうして列挙してきた事柄を踏まえれば、ビョークによるiPhone/iPad用アプリのリリースも、新しいメディアやサービスの登場に対して、自分は何ができるのか?を考えてきたミュージシャンの系譜に位置づけることが可能ではないだろうか。インターネットが生活の基盤となっている時代の音楽において、今の時点で新しい試みを行なっているのがBjorkなのである。

今回は具体的なアーティストや作品などにフォーカスして、時期ごとの傾向をまとめることが目的だったので、ネットサービス、音楽配信サービスなどの動向はほとんど取り上げなかった。それらが与えた影響を語ることは別の機会としたい。

■この筆者「barbora」のコラム

読むナビDJ 第17回:VOCALOID曲・再入門講座(後編2009-2011)
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読むナビDJ 第7回:インターネットと音楽の歴史を辿って(前編)
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