DrillSpin Picks :ライブアルバムを聴きながら...僕と大村憲司さんのこと

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ライブアルバムを聴きながら...僕と大村憲司さんのこと

4月末に大村憲司のライブアルバムが2枚リリースされた。69年に彼を目撃した伊藤銀次は、ギタリストとしての方向性を変え、そして93年に初めて一緒にプレイをすることになった。その頃の話です。

この記事の筆者

1950年、大阪府生まれ。72年にバンド“ごまのはえ”でデビュー。その後、シュガー・ベイブが75年に放った名盤 『SONGS』(「DOWN TOWN」は山下達郎との共作)や、大瀧詠一&山下達郎との『ナイアガラトライアングルVol.1』(76年)など歴史的なセッションに参加する。デビュー当時の佐野元春や沢田研二、近年ではウルフルズ、トータス松本のソロアルバムをプロデュースするなど多方面で活躍している。また、TV番組『イカ天』の審査員や『笑っていいとも!』のテーマ曲「ウキウキWatching」の作者としても有名。

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1998年にまだ49歳という若さで大村憲司さんが亡くなって以来、僕の心の中にはずっと他で埋めることのできない大きな穴が開いたままになっている。

その晩年、たまたま縁があって一緒にプレイすることができ、すぐ間近で憲司さんのギターのすばらしさを体感することができたことも、この理由のひとつにちがいない。

よく使われる、“The Only One”なんていうありきたりの表現では言い表せない唯一無二の存在の喪失感。すばらしいギタリストは、あまた世に存在していてもけっして誰も代わることのできない憲司さんのあのギター・プレイがもう二度と聞けないさびしさ。

2015年4月にリリースされた『ベスト・ライヴ・トラックス III』 と『IV』をこうやって聞いている今、その喪失感の大きさをあらためてひしひしと感じながらも、こうやってまた彼の残した貴重な音源が存在して、あの歌うようなフレーズにふれることの喜びを実感することができ、少しでもなぐさめられる思いでいる。



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大村憲司バンド(ポンタ・セッション・4デイズ !)
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歌うようなフレーズと思わず書いてしまったように、憲司さんのギター・プレイはインストなのに僕には歌のように聞こえてしまう。まるで言葉のついていない歌なのだ。

もう今をさかのぼることほぼ四半世紀以前の1969年。
天王寺野外音楽堂で開かれた「Be-In Love Rock」というフリー・コンサートで初めて憲司さんのプレイを見聞きしたときに感じて以来、その思いはずっと変わることはない。そしてそのときからずっと彼のギターの虜になったままでいる。

当時、英米を中心に起こってきた、エリック・クラプトンが在籍したクリームジミ・ヘンドリックスなどのブルース・ロックを中心としたエレクトリック・ギターが主役のニュー・ロック・ムーブメントの風は日本にも吹いてきていて、それにすっかり影響された僕はドラムスとベース、そして僕のギター、歌、ブルース・ハープからなるトリオ編成のアマチュア・ブルース・ロック・バンドを作っていた。 たしかまだ大阪にはそういうバンドは少なかったと思う。

なまいきだった僕は、その日の出演バンドを見渡して、自分たちが「一番いけてるな」といい気になっていたところ、僕たちの演奏のあとに、憲司さんが率いる(僕たちと同じ3人編成の)カウンツ・ジャズ・ロック・バンドの演奏が始まるやいなや、僕の浅はかなうぬぼれは見事に粉微塵に打ち砕かれた。この頃僕たちの間で流行っていた、いわゆるワン・コードで始まった即興のロック・チューンなのに飛び出してくるフレーズの一つ一つが流麗でメロディアス。まるであらかじめきちんとアレンジされてあったものを再現しているかのようなすばらしい演奏。

そして言葉がついていないのに詩が聞こえてくる。
それもその刹那刹那に彼は、心に浮かんだメロディーを瞬時にして指に伝え、まるで即興的にソングライティングしているかのようにはらはらするようなスリルとドラマチックでありながら、きちんと起承転結のついた整合性あるストーリーを空間にその場でつむいでいく。

こんなすごいギタリストが日本にもいるんだ。
はっきりいってどうあがいてもこの人には勝てない気がした。
天才的なセンスの根本的なちがいを感じたからだ。

その後、彼が赤い鳥のサポート・バンドとして上京以後、スタジオ・ミュージシャンとして、そしてYMOへの参加などでの大活躍を風のたよりに聞きながらも、気になって、いつも心の片隅にあったのが(憲司さんの)歌うギターの存在だった。

その後、僕がジョージ・ハリソンロビー・ロバートソンのようなタイプの、インプロヴィゼーションで勝負せず、曲のなかにフィットしたフレーズを組み込むスタイルのギタリストを目指すことになったのは、若き日にこの憲司さんの天才ぶりに出会っていたことのおかげだと思う。

そして時が経ち、まるで奇跡のようにそのことを間近に体感することができたのが、
1993年の僕のアルバム『LOVE PARADE』でのこと。



LOVE PARADE
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編曲家として活動していた僕は、今まで自分のアルバムに関しても編曲を行なっていた。このアルバムでキューン・ソニー・レコードへ移籍した僕は、新しいディレクターからの要望で、自分で編曲をせず、今まで以上に作詞・作曲に重点をおいたシンガー・ソングライターのアルバムにしようということになった。そこでディレクターが推薦した何人かのサウンド・プロデューサーの中に大村憲司の名が。やっと念願叶って、音楽空間を共にすることができたのが、このアルバムの収録曲でシングル・カットされた「涙の理由を」。

レコーディング・セッションは思いもよらなかったほどスムースに進行して、なんとその曲の長いアウトロで、憲司さんと僕が交互にかけあいでアドリブを弾くことになった。

いままで経験したことのない緊張感と、憲司さんといっしょにプレイできる喜びとで、ふるえながらセッションが始まると、ヘッドフォンから聞こえてきたのはまるでずっと前から作曲してあったかのような、信じられないスタンダードと呼んでもおかしくないすばらしいメロディー。

うねるように、ときには切なく、ときには包み込むようなあたたかさで、空間を自由につむぎながら僕に語りかけてきた。夢中になってその呼びかけに感じたまま素直に答えることでせいいっぱい。

結果、まさにギターの即興詩人とでも呼びたくなる憲司さんのプレイが、僕の中からもリリカルなすばらしいフレーズを引き出してくれたのだった。


1993年12月16日『LOVE PARADE』発売記念ライブでの伊藤銀次、大村憲司
そのセッションですっかり意気投合した僕たちは、その後、二人を中心としたユニット「憲さん銀さん」を組み、そのまま何度かライヴハウスでいっしょに演奏することができた。僕にとって一生の至福の思い出となったことはいうまでもない。

僕にとっての憲司さんは、やはりライヴの人。
いつもいつもどんなときにも奇跡のようなフレージングを聞かせてくれた憲司さんのプレイが音源としてあまり残っていないのはさびしいかぎりだが、こうやって今回の2枚のライヴ音源が発売されたことは、大村憲司ファンとしてうれしいだけではなく、いまギターを弾く若いプレイヤー達、そしてこれからギターを志す若者たちに「ギターを弾くということは、いったいどういうことなのか」を、このまま、ぜひ感じてほしい。


最後に、僕にとっての大きな心残りを。

僕と二人のユニットをやっていた大村さんの晩年、かつて僕たちのようなロック好きな若者たちも人生の秋を迎えようとしていた頃だったから、あの人生の真夏の時期に僕たちの心と体を震わせ続けたクリームジミ・ヘンドリックスレッド・ツェペリンの曲たちを、憲司さんと僕のアコースティック・ギター2本によるアンプラグドでレコーディングしたらというアイデアが、突然、天啓のようにひらめいた。

そこで、一人でデモテープを何曲か作って憲司さんに聞かせようとしていたやさきに、憲司さんが突然亡くなられたニュースが入ってきたのだ。

しかたなくその後、僕の頭の中でいろんなギタリストのプレイで、この曲たちを鳴らしてみたのだけれど、僕が当初描いているイメージのようにはサウンドしなかった。どうやらこのテープは永遠にこのままデモのまま終わってしまうことになりそうだ。

なぜなら大村憲司以外に大村憲司は
いまもこれからも存在しないから。

■この筆者「伊藤銀次」の関連リンク

オフィシャルブログ:SUNDAY GINJI
ネットラジオ・プログラム:伊藤銀次の「POP FILE RETURNS」

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